「映画の力を信じたい 」「子供たちがすべての始まり」
本作の上映会終了後、余韻がまだ冷めやらぬ中、ナディーン・ラバキー監督とパートナーであり音楽・プロデューサーを務めたハーレド・ムザンナル、そして急遽、「子どもの権利条約30周年」を迎える節目ということもあり、一緒に日本に来ていたワリードくん(10歳)、メイルーンちゃん(3歳)の家族4人で登壇!会場は温かい拍手に包まれ、穏やかな雰囲気でイベントがスタートした。
ラバキー監督は「こうやって初めて来日できたこと、家族で作った、ホームメイドのような作品がはるばる日本という国に届いたことをとてもうれしく思っています。この作品が日本の観客にどうのように受け入れられるのかわくわくしています。おそらく感情面で何か通じ合える作品になっているのでは、そんな風に感じていただけたらと思います。」
ムザンナルは「こうやってここに来られたことを幸せに思っています。彼女も言っていたように本当に親密な作品です。それを皆さんと分かち合えることうれしく思っています。涙を流された方もいると思うのですが、泣かせてしまって申し訳ありません。(笑)」とそれぞれひと言挨拶。
劇中では子どもの権利条約への無関心さ、不法移民、人種差別といった世界中に不当に扱われている子供たちが中心に描かれている。
なぜ本作を作ろうと思ったのか、ストリートキャスティングにこだわって作った経緯について、ラバキー監督は「レバノンに住んでいると、劇中に出てきたような仕事をしている子供たちの光景を日々目にします。レバノンは150万人の難民の受け入れをしているのですが、その影響もあり経済状況が悪化しており、それが最も色濃く、いちばんに影響を受けてしまうのが子供たちなのです。その事実はショッキングで責任を感じましたし、どうにかしなければと思いました。何もしないということはそれに加担していることと同じです。子供たちがそんな世界に生きなければならない状況を私たちは作っている。その状況に適応してしまってはいけないんです。最近の統計によると10億人以上の子供たちが世界中で何かの権利を奪われています、発展途上国に限らず先進国でも同じ状況です。私にできることは映画を作ること。映画というツールは真に物事の見方を変えられる力を持っていると信じています。この作品を観て、皆さんの心の中に子供たちが安心して暮らせる状況を作らねばいけない、このままではいけないという気持ちを持っていただけたら少しずつ変わることができるのではないか。すべては子供たちから始まると私は思っています。負の連鎖を断ち切らなければならない、この現状があることに驚いてはいけない、これは私たちが作りだしていることなのだから。」と真摯に語った。
続いて、主人公を演じた少年ゼインの希望溢れる印象的なシーンについて、ラバキー監督へ質問を投げかけると・・・・・、まだ3歳のメイルーンちゃんが突如マイクを奪う?!ハプニングが。その愛らしい姿に会場は釘付けになるがラバキー監督は「失礼しました」とことわりつつ回答。
「ゼインが笑顔を向けるシーンは“僕はここにいる”“もう無視はしないで欲しい”そういう訴えが観客へストレートに伝わるシーンだと思います。同時に僕たちには希望を持って生きていける、という思いを感じ私も感情的になってしまうのですが、じつは映画の外でもその笑顔は続いているんです。」と、現在のゼインはノルウェイに移住し、学校に通い、家族と共に笑顔で暮らしていることを報告。
ハーレドは音楽を担当するとともに本作で初めてプロデュースをしたのは「誰もこの企画を受けないことが分かっていたから」と語る。
「厳しいことが分かっていたから、全て自分たちでやろうと決めました。この作品ではリアリティとの一線を超えてしまうような瞬間があり、子供たちの現実を伝えることを目的としていたので音楽で観客の感情を操るようなことは一切したくないという思いもあり、とても難しかったです。2つの考え方で進めました。リアルな街のノイズを使うこと。もう一つは詩情的なスコアを作ることでバランスを取っています。それでも、最後の方は自分たちの感情を止めることができなくて、かなり音楽が強い存在感を放っているのではないかなと思います。」
会場からの質疑応答の時間へうつると、沢山の挙手が。監督へ日本の少子化についてアイデアを聞かせてほしい、ゼインとの最初の出会いは、など質問が飛ぶ中、質問者が感極まり言葉を詰まらせる一幕も。メイルーンちゃんがラバキー監督に話しかけ、会話を止めてしまうことがしばしば起きたが、家族が温かくみつめる中で彼女に話しかけ、時には膝に乗せながら、撮影現場さなからに母親として、監督として子供たちと向き合う姿が印象的なトークイベントとなった。