(撮影/久保田司 取材・文/タナカシノブ)
――いい意味で変わらないのも「おいしい給食」のいいところですが、シリーズごとに新たな魅力があるのも「おいしい給食」の特徴です。新シリーズで発見した新たな魅力はありますか?
市原「函館ならではの空気感といいますか。今までは摂氏40度を超える中で右往左往しながら撮影していましたが、今回は寒さに震えながら撮影をしている。それだけでも僕はとても面白くて(笑)。函館ならではのグルメや、新たなヒロイン、新たなライバル生徒、新たな教員、そして甘利田の密かな楽しみでもある学校帰りに立ち寄る駄菓子屋も新たなる店主を迎え、すでにご覧いただいたことのある方はもちろん、まだご覧いただいていない方たちにも愛着を持っていただけるようなエンターテインメントになっています。シーズン1からずっと掲げてきた、生まれたての赤ん坊から100歳を超えるご年配の方まで楽しんでいただけるエンターテインメントという芯をズラさずにお届けしていきます。学校の教室にストーブがあるのは、今回の大きなキーポイントです。そのストーブの真横にライバル生徒がいる。それならば、このストーブを使わない訳にはいかないということで、、、今までになかったアイテムも出てきますし、温めた牛乳を飲むという点もとても新鮮だと思います」
――「おいしい給食」という作品にはどんなイメージを持っていましたか? 現場で感じた「おいしい給食」が愛され続ける理由などがあれば教えてください。
大原「すごく大好きな作品で、自分が学生で給食を食べていた頃に出会いたかったです。作品を観れば給食がおいしく感じられるし、人間関係も素敵に描かれていて、給食以外にも見どころがたくさん詰まっています。市原さん演じる甘利田先生のまっすぐで嘘がないところやあたたかい世界観がすごく好きです」
――大原さん演じる比留川先生はいかがでしたか?
市原「比留川愛という、教師として、女性としての魅力を持ったヒロインを作ってくださり、本当に感謝しています。作品というのは、作る過程が必ず画に出ると思っていて。優乃ちゃんは自分の撮影が終わってからも、監督の横に座り遅い時間までモニターの前でずっと撮影を見ていました。愛情をかけて向き合ってくださったことにただただ感謝しかないですし、その存在が作品にとっても素敵な財産になりました。1980年代ではなかなか珍しい英語を話す帰国子女というキャラクターは『おいしい給食』の世界に異国の風を入れてくださいました」
大原「なんか照れちゃいます!」
市原「比留川先生はコンプレックスのあるキャラクターです。そのコンプレックスに対して甘利田がどう向き合っていくのか、比留川先生自身がどのように変わっていくのかという点にも着目していただきたいです」
――市原さん演じる甘利田先生は、いかがでしたか? これまでの共演者の方にお話を伺った際には「笑いを堪えるのが大変だった」という声がたくさんありました(笑)。
大原「私も同じく笑いが止まりませんでした(笑)。最初は『甘利田先生、今日も面白いな』という気持ちで見ているのですが、シーンを重ねていくとそれは尊敬の眼差しに変わります。テスト、本番と演じていく中で、常に何か新しいものを生み出せないかと考えている市原さんの姿を近くで見させていただけたのは本当にありがたかったです」
――大原さんはモニターチェックがとても幸せな時間とおっしゃっていました。
市原「『おいしい給食』という作品は、関わる人全てが人間臭く、現場に存在しています。信頼があるからこそ、部署を超えていろいろな助け合いができる現場です。モニターの周りには様々な部署の人間が集まり、いろいろなアイデアを出し合います。意見を酌み交わせる作品というのは本当に魅力的です。シーズン1の頃から使われなくてもいいから、いろいろと挑戦させてほしいというお話を監督としていて。気になることがあればみんなで意見を出し合って考えるという姿勢は、シリーズを重ねてもずっと変わっていません。モニターの周りには生徒たちもペンギンのように集まってきて(笑)」
大原「そうでしたね(笑)!」
市原「その姿が本当に可愛くて、愛おしくて」
――目に浮かびます。これまでお話を伺ってきた「おいしい給食」の現場という感じです!
市原「ちょこちょこやってきてみんなで密集して。本当に愛くるしいんです」
――制服ですし、寒い函館というのも相まってますますペンギンっぽく見えますね(笑)
市原「確かに(笑)。みんなで集まってあーでもない、こーでもないと意見を交わしながらモノづくりをする時間は、本当に幸せです」
大原「作品に携わっているみなさんが心から笑っている現場は『おいしい給食』ならではだと思いました。モニターチェックしていると、楽しさや熱量がダイレクトに伝わってきます。本当に素敵な現場でした」
――今回、甘利田先生のキュートさが増している気がします。開放感があるのかなと思ったりもして…。
市原「函館がそうさせたのでしょうか(笑)。もちろん、ヒロインに引っ張られている甘利田というのもあると思います。優乃ちゃんだからこそ引き出してくれた甘利田の色といいますか、キュートさといいますか。僕、今回初めて(芝居中に)目が合って笑っちゃいました。NG出してしまって…」
――珍しいお話です!
市原「こんなにも目の奥を見てくださる方なんだと思いました。繊細な芝居にも、振り幅にもすごく驚かされまして…。失礼かもしれないけれど思いもよらずという感じで笑ちゃって」
大原「ちょっと照れちゃいます…」
――そのシーンの撮影は覚えていますか?
大原「もちろん覚えています。函館での撮影でした。恥ずかしくて笑っちゃうゾーンに入ってしまって私も何回かNGを出しました」
市原「優乃ちゃん本人の無垢で純粋なところが目にも出ていて。勝てないと思いました。無条件で好きになってしまう方とご一緒できてよかったと心から思っています」
――該当シーンがどこなのか。裏話を伺った上で想像するのも楽しみの一つになりました!
市原「僕はあまりNGを出さないんですけれど…」
―――ですよね。笑わせてしまい相手の方が困る、そしてNGを出してしまうということはあっても、市原さんがというのはすごく珍しいという印象です。これまでの「おいしい給食」のインタビューでも出てこなかったエピソードです。
市原「ですよね(笑)」
――舞台は函館。今回のおすすめの献立、印象に残っている献立はありますか?
市原「ドラマで献立を観るのを楽しみにしているかもしれないので、“プリン”としておきます! あのシーンを撮るためにどれだけの力が結集したことか…」
大原「そうですよね」
市原「撮影部、照明部、監督に助監督、フードスタイリストに衣裳部にヘアメイクに美術部、あらゆる部署が集まって撮影をやり遂げました」
大原「プリンの硬さもカットによって違っていて。こだわりの強さを感じました」
市原「OKが出た時には歓声が上がるほどのシーンになりました」
大原「プリンを食べるまでの甘利田先生の高揚感も可愛らしいので堪能して欲しいです」
市原「想像していなかった硬さのプリンと遭遇した甘利田の反応にも注目です」
――函館にはどのようなイメージがありますか?
大原「私は今回初めて函館に行きました。『おいしい給食』の世界観にぴったりの街という印象を受けました。朝市があったり、広い海があったり、函館を感じる景色や海風というのは『おいしい給食』の世界観だなって」
――ちょっとレトロな雰囲気がある街なので、合っているのかもしれないですね。
市原「古い街並みが残っていますし、ちょっと懐かしさも感じられます」
大原「確かにそうですね!」
――シーズン3では「給食の完食主義」をテーマにしています。完食主義に対する甘利田のアンサーはシンプルで「人には好みがある」とのこと。好みはあれど、苦手なことは克服していかなければいけないケースもあります。市原さんと大原さんは苦手なことを克服するために心がけていることはありますか? 先生役ということで、アドバイス的な言葉がいただけるとありがたいです!
市原「僕は弱い人間なので、もうそれを認めて生きることが一番なのかなと思っています。精神的にも自分は弱いと思っているし、今回の作品も結局キャパオーバーでしたから。そういう部分をしっかり自分で認めて向き合う。だからこそ努力もできると思っています。父からは『人が寝ている間に10倍の努力をしろ』と言われて育ちました。なんだったら『寝るな』と。寝る間も惜しんでという意味だったと思います。僕はできないことだらけなんです。芝居という世界に足を踏み入れ、25年弱やらせていただいていますが、いまだに自信はありません。だからこそ必要としていただけるように、自分の弱い部分を克服するために、何度も何度も向き合い、行動し、確認しています。何か漏れがあるんじゃないか、後悔するんじゃないかと常に不安になってしまいますが、それを克服することは一生できないと思っていて。だからこそ、そんな自分を認めてしっかり向き合って、満身創痍になりながらも、役者として芝居を通して誰かのためになれれば…という思いでいっぱいなんです。って、僕がこんなに真面目に答えたら言いづらくなる?」
大原「大先輩の前で言うのはちょっと恥ずかしいですが、頑張ります(笑)。『おいしい給食』の現場では、変わらなくていいのかなと思わせてもらいました。私は真面目なところがコンプレックスで、そこを指摘されることもよくあります。もうちょっと遊び心を作らなきゃいけないのかなと悩んでしまうこともあるけれど、でも、私よりもまっすぐに生きている市原さんを見て本当にかっこいいなと思ったので。市原さんのようにブレずにいたいと思っています。現場で市原さんの芝居との向き合い方を見て、背中を押していただいたような気持ちです。本当に感謝です!」
市原「まっすぐで無垢だからこそ、優乃ちゃん本人の負担もたくさんあると思います。心配性だから寝れない時間もたくさんあると思うけれど、こんな風に作品に向き合う女優さんがたくさん増えればいいなと思えるような方でした」
大原「嬉しすぎます、恐縮です」
甘利田幸男(市原隼人)
給食をこよなく愛する中学教師。函館・忍川中学に赴任して1年。
自分の給食好きはまだ誰にもバレてないと一人思い込んでいる。
比留川愛(大原優乃)
帰国子女の英語教師。教師歴半年。甘利田が教育係。
引っ込み思案だが、英語だと大声になる。
「おいしい給食 season3」
出演:市原隼人 大原優乃 田澤泰粋 栄信 六平直政 いとうまい子 高畑淳子 小堺一機
監督:綾部真弥、田口桂「おいしい給食 シリーズ」
企画・脚本:永森裕二
プロデューサー:岩淵規
放送局:テレビ神奈川、TOKYO MX、北海道放送、仙台放送、福島中央テレビ、群馬テレビ、テレ玉、とちぎテレビ、チバテレ、山梨放送、北陸朝日放送、KBS京都、サンテレビ、広島ホームテレビ、テレビ山口、瀬戸内海放送、鹿児島放送、BS12 トゥエルビ