1994年、「コクーン歌舞伎」は、歌舞伎俳優・十八世中村勘三郎と、演出家・串田和美のコラボレーションにより誕生した。古典歌舞伎の新たな読み直しと、現代にマッチする新しい解釈による演出で、観る者を魅了する歌舞伎公演だ。その斬新で、臨場感溢れる舞台は、歌舞伎ファンはもちろんのこと、それまでに歌舞伎を観たことがない演劇ファンの間でも高く評価されてきた。2021年5月、待望の「コクーン歌舞伎」が3年ぶりに戻って来る。
第十七弾となる「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」は、コクーン歌舞伎の中でも特に人気が高い演目だ。Bunkamuraシアターコクーンだけでなく、アメリカやヨーロッパでも上演。2004年のニューヨーク公演は『ニューヨーク・タイムズ』紙で絶賛されている。演劇の本場が認めた伝説の舞台は、2008年以来、コクーン歌舞伎として13年ぶりとなる今年、どのような進化を遂げて私たちをスペクタクルな世界へと誘ってくれるのだろうか。
文/八杉裕美子

一寸徳兵衛と徳兵衛女房お辰の二役を演じる尾上松也に話を聞いた。

「徳兵衛を演じることを目標に精進してきた」(松也)

――徳兵衛とお辰を演じるにあたってのお気持ちをお聞かせください。

松也「シアターコクーンで「夏祭浪花鑑」を初めて観た時は衝撃的で、“これに出演したい”と思っていました。徳兵衛というお役については、平成20年の四国こんぴら歌舞伎で、(市川)海老蔵さんが団七を演じられた時に、勤めさせていただいてとてもうれしかったのと同時に、その当時はずっと女方が中心でしたので、どうすれば男らしく見えるのかがとても難しかったです。当時、勘三郎さんがお稽古を見に来てくださって、笑いながら、“あー、あなた女方になっちゃってるよ”と言われたことを思い出します(笑)。不思議なもので、その時に徳兵衛を演じてからは、逆に立役をさせていただくことが多くなってきました。いつか(中村)勘九郎さんと(中村)七之助さんがコクーン歌舞伎で「夏祭浪花鑑」をされると思っていましたし、お二人と一緒に演じたいと思っていました。その時に、何とか徳兵衛を演じさせていただけるように精進しなくてはいけないと思って、それを目標にしてきたところもあります。夢を描きながらやってきましたので、今回、お辰に関しては予想外ですごくびっくりしまして(笑)、頭にはなかったので、“僕でいいのか”という気持ちはあります。二役を勤めさせていただけるのはとてもありがたいですが、久しぶりの女方なので、女方として修業を重ねていた当時を思い出して乗り越えられたらと思っています。良い相棒の徳兵衛がいて、団七が成り立つので、お客様に喜んでいただけるようないいものにしなければいけないと思っています」

――コロナ禍で演出等を含め、様々な制限がある中で、どのような舞台にされたいですか。

松也「制限はありますが、これまでのコクーン歌舞伎「夏祭浪花鑑」で良い舞台を観て、知っているからこその対抗心があります。お兄さんたちがこれまで培ってきたことの良さをエネルギーに変えつつ、自分たちの舞台を創っていきたいです。この時代(コロナ禍)だからこそできる舞台を。様々な制限がある中で、全員で思いをひとつにして、この状況でなければ考え付かないような作品にしたいですね。みんなで思いをひとつにしてやっていけば“何か”が生まれるのではないかと思います。全員で苦しんでいろいろと考えないと、そう簡単にはできないと思いますけれどもその“何か”を追い求めることがコクーン歌舞伎の面白さでもありますので、楽しみながら創っていきたいです」

PROFILE

尾上松也 MATSUYA ONOE
1985年1月30日生まれ、東京都出身。

〈近年の歌舞伎以外の主な出演作〉
ドラマ「さぼリーマン甘太朗」(2017年)
ドラマ「課長バカ一代」(2020年)
ドラマ「半沢直樹」(2020年)
映画『すくってごらん』(2021年)

画像: 渋谷・コクーン歌舞伎第十七弾「夏祭浪花鑑」尾上松也インタビュー

渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾「夏祭浪花鑑」

人気世話物「夏祭浪花鑑」、並木千柳・三好松洛・竹田小出雲らの合作により、延享二年(1745)に大坂道頓堀の竹本座で人形浄瑠璃として初演され、当時は人形浄瑠璃の最盛期にあたり、後世に残る数々の名作が生まれた。中でも、大坂の風土や季節感が色濃く反映されている本作は、人々の人気を集め、初演の翌月には歌舞伎として上演され、以来、歌舞伎・文楽の双方でたびたび演じられた。恩ある主人を守るべく奮闘する男だての心意気や、夫のために自己犠牲を厭わない女房の姿など、義理人情がふんだんに盛り込まれた物語。また、全身に鮮やかな彫物をした主人公の団七が、祭囃子にのって様々な見得を見せる「長町裏」は、歌舞伎随一の様式美溢れる場面として見どころだ。

あらすじ

血の気は多いが義理人情に厚い団七九郎兵衛(勘九郎)は、とある喧嘩が原因で牢に入れられていたが、国主浜田家の諸士頭・玉島兵太夫の尽力で解放され、女房のお梶(七之助)、息子の市松(長三郎)と再会する。後日、団七は恩人である兵太夫の息子・磯之丞(虎之介)と、その恋人琴浦(鶴松)の仲が悪人によって引き裂かれようとしていることを知る。そのため団七は、兵太夫にゆかりのある一寸徳兵衛(松也)と、その女房のお辰(松也)、釣船三婦(亀蔵)らと協力して助けようとするが、団七の義父・義平次(笹野高史)だけは彼らの義侠心を踏みにじる。夏祭りの夜、散々に悪態をつく義平次に必死に耐えていた団七は……。

渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾「夏祭浪花鑑」

出演:中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、中村虎之介、中村長三郎、中村鶴松、中村歌女之丞、笹野高史、片岡亀蔵 他
演出・美術:串田和美
公演日程:2021年5月12日(水)~30日(日)千穐楽
会場:Bunkamuraシアターコクーン
主催・製作:松竹株式会社/Bunkamura

〈松本公演〉
第7回 信州・まつもと大歌舞伎「夏祭浪花鑑」
公演日程:2021年6月17日(木)~22日(火)
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
松本公演主催:まつもと歌舞伎実行委員会
松本公演に関するお問合せ:まつもと歌舞伎実行委員会0263-34-3293(平日9:00~17:00)

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