第十七弾となる「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」は、コクーン歌舞伎の中でも特に人気が高い演目だ。Bunkamuraシアターコクーンだけでなく、アメリカやヨーロッパでも上演。2004年のニューヨーク公演は『ニューヨーク・タイムズ』紙で絶賛されている。演劇の本場が認めた伝説の舞台は、2008年以来、コクーン歌舞伎として13年ぶりとなる今年、どのような進化を遂げて私たちをスペクタクルな世界へと誘ってくれるのだろうか。
撮影/早川達也 スタイリスト/寺田邦子 ヘアメイク/宮藤誠(Feliz Hair) 文/八杉裕美子
衣裳/ジャケット¥56,000、シャツ¥13,000、パンツ¥23,000(NEW YORKER)、ネクタイ¥13,000(BERKLEY)
団七九郎兵衛の女房お梶を演じる中村七之助に話を聞いた。
「ハートで勝負したい」(七之助)
――コクーン歌舞伎で「夏祭浪花鑑」という演目に出演するにあたっての気持ちを聞かせてください。
七之助「やはり父親(勘三郎)のイメージが強いですし、何回もやっている演目は一番怖いです。でも、みんなが同じ方向を見て、話し合いながら一つひとつ作っていきますので、一点をみて突っ走って、“良かった”と思えるような作品にしなければと思っています」
――コクーン歌舞伎ならではのイノベーティブな演出が魅力ですが、コロナ禍でこれまで通りの演出ができない環境下での挑戦になります。
七之助「コクーン歌舞伎はいろいろな挑戦ができる劇場なのですが、今回は様々な制限がある中で、どうお見せするかを考えています。客席にも降りられないですし。以前は、ロビーの段階から夏祭の雰囲気を作って、お祭りの雑踏の中でけんかが始まって舞台につながるという流れで上演したこともあるのですが、今回はそれができないので、その熱量を舞台の上だけでお見せしないといけない。僕たちだけでなく、お弟子さんもスタッフさんもみんなで意見を出し合って、一つひとつ創り上げていかないといけないと思っています。制限が多い公演になるとは思いますが、そこはハートで勝負したい。もう一度、原作を根っこから掘り下げるところから取り組んで、熱狂できるような良い作品を創り上げていかないといけないですね」
「気軽な気持ちで一度観ていただきたい」(七之助)
――「夏祭浪花鑑」は海外でも上演されてきました。
七之助「ニューヨーク公演は父親とのすごく楽しい思い出があります。2人で(歌舞伎の)恰好をしてニューヨークの街中を逃げるシーンを撮影して、それをスクリーンに映して、そのスクリーンから2人が出てくるという演出をしたんですけど、最高でしたね。BGMは『ニューヨーク・ニューヨーク』が流れていて。その映像の音楽もどれが良いかというのをみんなが客席に座って、ニューヨークに関連するいろいろな曲をかけて、“この曲が良いと思う人?”って手を挙げて(笑)。『ニューヨーク・ニューヨーク』が流れた瞬間、みんなで“これだーっ!”って大盛り上がりしました。本当に忘れられない思い出ですね」
――ヨーロッパでも上演されました。
七之助「ベルリンではベルリンの壁を壊すような演出を入れました。ルーマニアでは授乳をしながら芝居を観ている方がいらしたんですが、父親は、“生活の一部にいられてうれしいよ!”と、すごく喜んでいました。歌舞伎も実はひとつの芝居であって、ただ歌舞伎というジャンルという見方なんです。父親は、“歌舞伎って面白いんだよ”っていうのを見せたくて、コクーン歌舞伎や新作歌舞伎、平成中村座をやってきたのだなと思います。コクーン歌舞伎としては13年ぶりの「夏祭浪花鑑」ですし、メンバーもガラッと変わりますので、日本で歌舞伎を観たことがない方にも、気軽な気持ちで一度観ていただきたいです」
PROFILE
中村七之助 SHICHINOSUKE NAKAMURA
1983年5月18日生まれ、東京都出身。
〈近年の歌舞伎以外の主な出演作〉
ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年)
ドラマ「令和元年版 怪談牡丹灯籠」(2019年)
4月27日発売の「SCREEN+Plus(スクリーンプラス)Vol.72」本誌では、こちらに掲載していないインタビューや中村長三郎さんの8問8答もご紹介しています。
渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾「夏祭浪花鑑」
人気世話物「夏祭浪花鑑」、並木千柳・三好松洛・竹田小出雲らの合作により、延享二年(1745)に大坂道頓堀の竹本座で人形浄瑠璃として初演され、当時は人形浄瑠璃の最盛期にあたり、後世に残る数々の名作が生まれた。中でも、大坂の風土や季節感が色濃く反映されている本作は、人々の人気を集め、初演の翌月には歌舞伎として上演され、以来、歌舞伎・文楽の双方でたびたび演じられた。恩ある主人を守るべく奮闘する男だての心意気や、夫のために自己犠牲を厭わない女房の姿など、義理人情がふんだんに盛り込まれた物語。また、全身に鮮やかな彫物をした主人公の団七が、祭囃子にのって様々な見得を見せる「長町裏」は、歌舞伎随一の様式美溢れる場面として見どころだ。
あらすじ
血の気は多いが義理人情に厚い団七九郎兵衛(勘九郎)は、とある喧嘩が原因で牢に入れられていたが、国主浜田家の諸士頭・玉島兵太夫の尽力で解放され、女房のお梶(七之助)、息子の市松(長三郎)と再会する。後日、団七は恩人である兵太夫の息子・磯之丞(虎之介)と、その恋人琴浦(鶴松)の仲が悪人によって引き裂かれようとしていることを知る。そのため団七は、兵太夫にゆかりのある一寸徳兵衛(松也)と、その女房のお辰(松也)、釣船三婦(亀蔵)らと協力して助けようとするが、団七の義父・義平次(笹野高史)だけは彼らの義侠心を踏みにじる。夏祭りの夜、散々に悪態をつく義平次に必死に耐えていた団七は……。
渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾「夏祭浪花鑑」
出演:中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、中村虎之介、中村長三郎、中村鶴松、中村歌女之丞、笹野高史、片岡亀蔵 他
演出・美術:串田和美
公演日程:2021年5月12日(水)~30日(日)千穐楽
会場:Bunkamuraシアターコクーン
主催・製作:松竹株式会社/Bunkamura
〈松本公演〉
第7回 信州・まつもと大歌舞伎「夏祭浪花鑑」
公演日程:2021年6月17日(木)~22日(火)
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
松本公演主催:まつもと歌舞伎実行委員会
松本公演に関するお問合せ:まつもと歌舞伎実行委員会0263-34-3293(平日9:00~17:00
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