現役医師であり、作家でもある南杏子による同名小説(幻冬舎)を映画化した映画『いのちの停車場』が5月21日に公開を迎える。原作は現在の日本の⻑寿社会における現代医療制度の問題点や、尊厳死・安楽死などの医療制度のタブーに正面から向き合い、それらに携わる医師、患者、その家族を丁寧に描いている。この感涙の医療物語のメガホンをとったのは、成島出監督。在宅医療を行う「まほろば診療所」のメンバーを、主演の吉永小百合をはじめ、松坂桃李、広瀬すず、西田敏行が演じる。在宅医療を受ける患者の一人である元官僚・宮嶋を演じた柳葉敏郎にどんな思いで演じ、本作に参加して改めて感じたことなどインタビューした。

――本作に参加すると決まった時のお気持ちと、柳葉さんが演じる宮嶋についての印象をお聞かせください。

画像1: 《柳葉敏郎》映画『いのちの停車場』インタビュー:「小さいながらもしっかりとした覚悟を持ってその先の大きな希望に向かって歩んでいきましょう」

「まず、タイトルですよね。“停車場”という最近は聞きなれない言葉ですが、僕が小さい頃はおじいちゃん、おばあちゃんたちが駅のことを停車場と言っていたもんです。その停車場というのは、当時は人を見送ったり迎えたりしながら、地域の人たちのコミュニケーションの場でもあったと思うんです。その停車場という前に“いのち”というとてつもない言葉があって、“これは一体何なんだろうな”と思って台本を見たんですけど、本当に人が人としてコミュニケーションをとって感じるもの、それがしっかりと描かれているんだなと思いました。見えない情報ではなくて、人が人として感じる情報と言いますか、体感する情報をこの作品はしっかりと優しく繊細に描いていると思いました。役者というのは人を演じるわけですから、心のこもった人を表現しなくてはいけないんだとまず感じました。よくありがちな設定、たとえば刑事だからこうだとか、医者だからこうだとか、弁護士だからこうだということではなく、それはたまたまそういう環境にあるだけであって、元々はみんな一人の人間として体験して、感じてそれを糧にして生きているという、そういう人間性をしっかりと描かなくてはと、その一つの駒として頑張らないといけないという使命感を最初に思いながら現場に臨みました。宮嶋を演じるにあたって、最初に成島監督から出演する全3シーンの中で宮嶋という男の生き様をすべて表現してほしいと言われました。まず1シーン目は鎧をまとった宮嶋の生き様を、2シーン目はその鎧を脱ぎ捨てた宮嶋の生き様、そして3シーン目はすべてを脱ぎ捨てた宮嶋の生き様で、それで彼の一生を表したいということでしたので、その点を意識して演じました。具体的には、1シーン目の宮嶋は元官僚で、わかりやすく言えば家族を顧みずに、仕事に没頭して世間と戦ってきた男です。2シーン目では横になって戦ってきた鎧を脱ぎ捨てて、ふっと振り返った時にそこにいる家族たちの愛情を改めて感じた宮嶋、最後はもう気取ることなく純粋な宮嶋の素直な気持ち。それは家族に対しても、世の中に対しても、肩ひじを張ることのない“ありがとう”という気持ちと、“ごめんな”という気持ちで僕は宮嶋を表現させてもらいました」

――完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

「3シーンしか出ていないんですけど、なんていい映画なんだろうと思いました。人の純粋な気持ちが、それぞれの環境の中でちゃんと表現されていて、人としてあるべく人の姿がもののみごとに表現されている作品だなと思います」

――一人の男性であり、父であり、夫でありという宮嶋に、柳葉さんはどのように寄り添ったのでしょうか。

「宮嶋は頑張ったんでしょうね。ものすごい使命感を必要以上に感じながら人生を送ってきた人物だと思いました。それはもしかしたらこうじゃなきゃいけない、男はこうだと課せられてきたんでしょう。親が言うことがおそらく正しいと感じて生きてきて、自分が家庭を持って、疑問符が出てきたんでしょうけども、それでも自分がやるべきことをしっかり全うしなくてはいけないという使命感でやってきて。でも自分がその戦場から離れた時に、そばにいてくれる家族の愛情をしっかりと感じた。自分も田舎(秋田)から出てきたので、どこか自分自身と重なる部分もあるのかなという気もするんですよ。だから自分の育った故郷に戻ってくるわけです。一番安心できる場所だったんでしょうね、すごくわかるような気がするんです。そこは自分の気持ちを重ねてもいいのかなと思って宮嶋を演じました」

――柳葉さんがご出演されたシーンでは「まほろば診療所」で勤務するメンバーを演じた吉永小百合さん、松坂桃李さん、広瀬すずさんと、ご共演されましたが、共演されて印象に残っていることやエピソードがありましたらお聞かせください。

画像2: 《柳葉敏郎》映画『いのちの停車場』インタビュー:「小さいながらもしっかりとした覚悟を持ってその先の大きな希望に向かって歩んでいきましょう」

「吉永さんに関しては16年ぶりの共演になるんですけど、16年という歳月を感じなかったんです。ちょっとミーハーなところもあってのことでもあるんですが、役者としては大女優・吉永小百合さんに向かっていくわけですから、その心構えと覚悟をもってしっかりと現場に入るんですけど、結局のところ終わってみると吉永さんのあったかさだったり、おおらかさだったり、セリフで厳しいことをおっしゃったとしてもそこにはしっかりとした愛情があって、そういう部分が、16年前と少しも変わっていなかったですね。僕はベッドの上でもがいているんですけども、もがきながらも吉永さんのまなざしだったり、ちょっとした仕草にものすごく安心させてもらえて印象に残っています。役者としてもそうですし、役の患者としても、最終的には吉永さんに包み込まれて終わったという感じでした。そして、松坂桃李くんとすずちゃんとは今回初共演ということもあって新鮮でしたね。桃李くんからの愛もしっかり感じました。実はこのシーンで、監督がおっしゃっていたんですけど、すずちゃんの反応が本当は台本上と違っているんです。自然の摂理と言いますか、その空気はものすごく純粋だったんじゃないかなと、不思議ですよね、お芝居って。いい方向に変化していったそんなエピソードがありました」

――現場の雰囲気はいかがでしたか?

「重いシーンではあるんだけど、ほんわかしてるんです。監督いわく、コロナ禍の緊張感もあって、ほとんど1カットなんです。何度も撮影するのもという監督の思いもあったようですけど、その気持ちを持たなくてもいいくらい1発OKという感じでした。その緊張感がものすごくよかったんです。かたい緊張感ではなくて、みんなのこの作品に対する思いや役に対する気持ちが一体となって、ものすごくいい緊張感だったと監督がおっしゃっていました」

――本作に出演されて心境の変化はありましたか?

「大きな変化はないですが、改めて感じたことがあります。先日の舞台挨拶でも自然と出てきた言葉なんですが、“小さいながらもしっかりとした覚悟を持ってその先にある大きな希望に向かって歩んでいきましょう”と。自分も人生の第4コーナーを周って、あとはまっすぐ直線を走るしかないので、ゴールに向かってもう一回自分に鞭を入れなきゃいけないなという言葉がこれだったんです。自分にも言い聞かせながらなおかつ、こんな最中でみなさんそれぞれご苦労されているとは思いますけど、そこに当てはまるような気がしています。この作品の中で、人生の終焉をみんな迎えるわけなんですが、迎えるまでという考え方もあるでしょうし、それから終焉を迎えた本人の家族たちの気持ちにも通じるような気がするんです。だからこの作品に参加させてもらって、改めてそういう思いでこれから時を過ごしていきたいなと思いました」

――本作ではいろいろな在宅医療のケースが出てきましたが、在宅医療について考えたことはありましたか?

「秋田ではなかなかこういった環境を目にすることが正直なかったです。いわゆる病院に行って治療を受けているので、在宅医療というシステムは見たことはなかったです。ただこれをやっていくには技術だけでやってはいけない仕事だと思いました。吉永さんや西田敏行さんが演じる先生方のように、やっぱり心だなと思います。これだけ考えてくれていたら患者側としたら安心できます。大変なお仕事だけどもできれば増えていってほしいです」

――最後に、メッセージをお願いいたします。

「さきほども出ましたが、“小さいながらもしっかりとした覚悟を持ってその先の大きな希望に向かって歩んでいきましょう”ということです。そこに終焉があったとして、その人の人生はそこで終焉かもしれないけども、周りの人にとってはそこが終焉ではないわけで、その先に何かがあるので!観てくださるみなさんの生活の中にも、結びつくことがいっぱいあるような気がします。ひとつのシーンだけではなくて、そこまでの過程、それぞれの家族、ケースのどこかに共感できる部分がたくさんあります。それをぜひ改めて見出して明日に向かって励んでいただけると嬉しいです」

STORY

都内の救命救急センターで働いていた主人公・白石咲和子(吉永小百合)は、ある事件をきっかけに故郷の金沢へ戻り、在宅専門医として「まほろば診療所」で働き始める。院長の仙川徹(西田敏行)、亡くなった姉の子・翼を育てながら働く看護師の星野麻世(広瀬すず)、東京から咲和子を追いかけてやってきた医大卒業生の野呂聖二(松坂桃李)も加わり、いつしか「まほろば」は咲和子にとってかけがえのない家族のような存在に。穏やかな時間を過ごすため、自分らしく生きるため、様々な理由から在宅医療を選択した患者やその家族と向き合ううち、咲和子は“命の終わり”に心地よく寄り添う医療とは何か、深く考えるようになる。

PROFILE

柳葉敏郎 TOSHIRO YANAGIBA
1961年1月3日生まれ、秋田県出身。

〈近年の主な出演作〉
ドラマ「明日の君がもっと好き」(2018年)
ドラマ「よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~」(2019年)
ドラマ「やすらぎの刻~道」(2019年)
ドラマ「白い巨塔」(2019年)
ドラマ「黒薔薇2 刑事課強行犯係 神木恭子」(2019年)
ドラマ「ケイジとケンジ~所轄と検事の24時~」(2020年)
ドラマ「鉄道警察官 捜査ファイル」(2020年)
映画『泣く子はいねぇが』(2020年)

〈待機作〉
映画『光を追いかけて』(2021年公開予定)

映画『いのちの停車場』

5月21日 (金)全国公開

出演:吉永小百合
松坂桃李 広瀬すず
南野陽子 柳葉敏郎 小池栄子 みなみらんぼう 泉谷しげる
石田ゆり子 田中泯 西田敏行

監督:成島出  
脚本:平松恵美子  
原作:南杏子「いのちの停車場」(幻冬舎)

©2021「いのちの停車場」製作委員会  

映画公式サイト:www.teisha-ba.jp

映画公式Twitter&インスタグラム:@Teishaba_movie
#いのちの停車場

画像: 映画『いのちの停車場』予告映像(5月21日公開) youtu.be

映画『いのちの停車場』予告映像(5月21日公開)

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