歌舞伎の古典作品から、スーパー歌舞伎のような新しい作品まで意欲的に取り組む初代中村隼人。最近では、歌舞伎界での活躍に加えて、映像作品として初主演を果たしたBS時代劇「大富豪同心」「大富豪同心2」(NHK BSプレミアム・BS4K)での好演で、歌舞伎ファン以外からも大いに注目を集める若手人気俳優だ。新しいチャレンジにも臆することなく挑み続ける27歳が、飾らない言葉で率直な胸の内を語ってくれた。
撮影/宮本賢一 スタイリスト/石橋修一 ヘアメイク/川又由紀(HAPP’S.) 文/八杉裕美子
衣裳/シャツ¥30,800(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE/イッセイ ミヤケ03-5454-1705)、パンツ¥28,600(S'YTE/ヨウジヤマモト プレスルーム03-5463-1500)その他 スタイリスト私物※すべて税込価格

――早速ですが、隼人さんは歌舞伎でのご活躍に加えて、BS時代劇「大富豪同心」の続編となる「大富豪同心2」にも主演されました。作品と役どころについて教えていただけますか。

「続編では二役を演じさせていただきました。一人目の卯之吉は時代劇の主人公のイメージと全然違うキャラクターです。普通、時代劇の最後はチャンバラシーンがあって敵をバッサバッサなぎ倒して一件落着ですが、卯之吉は刀を見ると怖くて気絶してしまうんです(笑)。でも、敵から見るとその姿が剣豪に見えてしまうので、抜かずして勝つ達人。なおかつ、お化けも怖くて、体力もなくて走れない(笑)。でも素晴らしい人間力で江戸の難事件を解決していくという役どころです。もう一人は幸千代というお殿様の弟の役ですが、卯之吉とは違って自分の力だけを信じて生きてきた男が、卯之吉との出会いによって人間力の大事さに気付いていくという物語です」

画像1: 中村隼人インタビュー「1人でも多くの方に歌舞伎を知ってもらいたい」

――歌舞伎の舞台での隼人さんのイメージからは想像がつかないお役なのに、とても自然なお芝居でした。一人二役というより、お顔はもちろん似ているんですけど、それぞれのお役を別の役者さんが演じていらっしゃるかと思う程でした。演じ分けはどのようにされたのですか。

「ありがとうございます。そう思っていただけていたら良かったです。撮影の時は自分の中で本当に大変でした。歌舞伎の場合はすぐに結果がわかります。稽古が終わると先輩に指導してもらえるのですぐにいろいろとわかることもできますが、映像作品の場合は放送されたあとでないと分かりません。しかも物語の流れ通りではなく、放送通りでなくバラバラに撮っているので完成作を見てみないとわからないんですよ。そこが不安でした。ただ、前作で卯之吉というすでに出来あがっている役があったので、幸千代はいかにそれと真逆の芝居をしていくかということだけを考えて演じていました」

――卯之吉と幸千代のどちらのキャラクターが、実際の隼人さんに近いですか?

「真ん中ぐらいです。歌舞伎の稽古中は幸千代の荒々しさっぽいところがあります。でも、普段から周りには“物腰が柔らかいよね”と言われるので、卯之吉の要素もあるのかなと思います。ちょうど中間ですね」

――演じやすかったのは?

「幸千代の方がストレートな芝居なので演じやすかったです。卯之吉のほうは一旦頭で理解して、お腹に落とし込んでから演じる芝居でした」

画像2: 中村隼人インタビュー「1人でも多くの方に歌舞伎を知ってもらいたい」

――先ほどおっしゃった、卯之吉が刀を見ると気絶してしまうシーンには毎回笑わせていただきました。

「本当ですか? あのシーンのためにいろんな気絶の動画を見ました。ジェットコースターで気絶する人や、足ツボが痛すぎて気絶する人など(笑)。でも、卯之吉のように目を開けたまま気絶する動画は見つけられませんでした。だからそれがすごく難しくて。いかに面白くできるか、銀八役の石井正則さんと即興で演じました」

――初主演作が好評で続編が制作されたことについていかがでしたか?

「素直にうれしかったです。特に当初から続編が約束されていたわけではありませんでした。元々、1作目を撮った後に続編があって、その後は映画も決まっているっていう本などもありますが、「大富豪同心」は一区切りすることが決まっていました。だから、僕自身も作品に臨む上で、歌舞伎から3カ月、4カ月離れるということで、まずは「大富豪同心」で評価されることに集中して、文字通り背水の陣で臨みました。1作目を撮り終わった時も続編のことは全く考えていなかったですし、とにかくがむしゃらに取り組みました」

画像3: 中村隼人インタビュー「1人でも多くの方に歌舞伎を知ってもらいたい」

――映像作品への出演と歌舞伎の舞台への出演による相乗効果のようなものは実感されることはありますか?

「スーパー歌舞伎で浅野和之さんと共演した時に、“映像作品に出演して芝居が緻密になったよね。心にとても響くようになった”とおっしゃっていただきました。歌舞伎の場合、古典作品では相手の動きが終わるまで書割になっていなければいけない(止まっていなければならない)時もあるのですが、そんな中でもできる範囲で感情を繋げていくように意識していたら、浅野和之さんという大先輩にそのように言っていただけて、映像作品に出演し繊細な表情やちょっとした目の動きだけで表現するということに慣れたからできたのかなと思います。でも、逆にそれをやり過ぎてしまうと、2,000人入る劇場で一番後ろのお客様まで届けなくてはいけないので、塩梅が難しいです。そういう点でも自分の中でいろいろ試しながらやっています」

――「十月大歌舞伎」では初役の二枚目のモテるお役に挑戦されます。初めて歌舞伎をご覧になる方もいらっしゃると思いますので、演目の見どころと、隼人さんのお役について教えていただけますか。

「『松竹梅湯島掛額』で小姓吉三郎という役を勤めます。しかも今話題の右近くんが相手役です(笑)。(尾上)菊五郎さんが主人公のお役を勤められるので、本来ならば僕の父親世代の方々が演じるような役なのですが、そんなお役が僕らの世代までおりてきたのはすごいことだと思います。面白い作品なので、二枚目の役ですけど柔らかく演じたいです。誰が観ても笑って泣ける作品だと思いますので、初めて歌舞伎をご覧になる方には特におすすめします!」

画像4: 中村隼人インタビュー「1人でも多くの方に歌舞伎を知ってもらいたい」

「十月大歌舞伎」

2021年10月2日(土)~27日(水)
劇場:歌舞伎座
演目:『松竹梅湯島掛額」
(配役:小姓吉三郎)
製作:松竹

PROFILE

中村隼人 HAYATO NAKAMURA
1993年11月30日生まれ、東京都出身。

〈近年の歌舞伎以外の主な出演作〉
BS時代劇「大富豪同心」(2019-20年)
BS時代劇「大富豪同心2」(2021年)

画像5: 中村隼人インタビュー「1人でも多くの方に歌舞伎を知ってもらいたい」

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