どの作品にあっても杉野遥亮が演じる人物には、「この人のことをもっと知りたい」と思わせる何かがある。作品の世界観や色、香りの中に溶け込んで生きている人物なのに、その心に寄り添いたいという思いを見る者に抱かせる。4月1日から公開された映画『やがて海へと届く』では、突然いなくなってしまうすみれの恋人・遠野として登場する。この作品を鑑賞すれば、多くを語らない遠野の複雑な胸の内を知りたいと誰もが感じることだろう。この作品が投げかける「あなたのことを、私はどれだけ知っているのだろう」という問いの中で、遠野を生きた杉野遥亮に話を聞いた。3月29日発売の本誌「SCREEN+Plus」vol.78では、劇中に出てくる「周波数を合わせる」というセリフに関連して、周波数が合うという感覚についてや、一人旅に出るすみれにちなんで自身の一人旅エピソードなど語ってくれた。
撮影/奥田耕平(THE96) スタイリスト/Lim Lean Lee ヘアメイク/後藤 泰(OLTA) 文/八杉裕美子
衣裳/ジャケット¥79,200、タキシードフリルシャツ¥47,300、ワンタックパンツ¥47,300、シューズ¥59,400(すべて beautiful people/ビューティフルピープル 青山店03-6447-1869)、その他スタイリスト私物 ※すべて税込み価格

–––映画『やがて海へと届く』に遠野という役でのオファーを受けられた時の心境について教えてください。

「この作品の脚本を読んだ時に自分の中にスーッと流れるような感覚がありました。流れるような青い色のイメージでとても透き通っているそんな感覚がとっても心地良かったです。読んで思考するというよりも、感覚として入ってきました。いつも出演したいと思う時は、役が大好きだったり、(作品の)メッセージ性が好きだったり、割と直感が多いのですが、この時の感覚は〝世界観〟が決定打でした。情景やイメージが自分の中に開けてきて、それがとても心地良かったんです」

–––作品の中で遠野という役を生きる上で大切にされたことは。

「僕は、この遠野という人がどういう人物なんだろうと思いながら演じました。結構いろいろ迷いもしましたし、本当は遠野がどう思っているんだろう、わからない部分があったり、自分でも掴めないところがありました。ですが、結果、完成した作品を観た時に、それがこの人(遠野)だったと思ったので、僕の演技と掴めない遠野とがリンクしていたような気がします」

–––本作のためにギターの練習をされたそうですね。

「ギター、結構練習しました。実際に弾いてみて、練習期間が短かったこともあると思いますが、なかなか苦戦しました。気づいてはいましたが、楽器は得意ではないのかなと。陽(ひ)の関係でそのシーンの撮影時間がほぼなかったこともあり、遠野もそこまでギターに対して本気だったわけではないと思いながら、いろんなことが作用して遠野という人ができたんだと今は思っています。ただ、それと同時にいつか楽器を追求できる機会があればいいなという思いはあります。もうちょっと準備できる期間があれば追求したいです」

画像1: 杉野遥亮、映画『やがて海へと届く』インタビュー「当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます」

–––この映画には「真奈とすみれ」「すみれと遠野」という二つの愛が描かれていますが、監督や共演者の方とはどのような話をされましたか。

「監督には自分の考えていることや思うことは話しましたが、特に具体的な話をしたということは正直ありません。ただ自分の考えでは、監督はご自身の意見もお持ちで、自分たちのようにカメラの前で表現する俳優の考え方だったり、感じ方も大切にしてくださり、すごく柔軟に変化してより良いモノを作っていかれる方なのかなと思いました。台本を読んでいて、僕の解釈ですと、すみれと遠野との愛の部分ではすみれはずっとこっち(遠野)に向いている気がしなかったというのはあります。遠野はすみれが好きなのに、遠野は切なくないかなとも思いましたが、でもその好きというのをあまり表には出したくないんだろうなとも。そんなすみれは遠野に何か希望を託すところもあったと思います。とても人間らしくて、そういう切ないところがサイドストーリーであるのではと思いました。ただ、それが愛なのかどうかというと、僕の中ではまだわかりません」

–––遠野から見たすみれと真奈の関係についてはどう捉えましたか。

「嫉妬のような気持ちも真奈との関係値においてはどこかあったかもしれませんが、深い所で考えると、やはりそんな二人を理解する自分でありたかったのかなと思います。そんな二人と繋がっていたい遠野のスピンオフがあれば、今回の作品では描かれなかった一面や、バックボーンがあるんだろうなと。台本を読んだ時にどちらにも受け取れると思いましたし、真奈との関係値において真摯にその人のためを思うこともできるので。結果的に映像を観た時に、ふわっとした遠野だなと。だけど、今となってはそうやっていろんな方向に考えが向いている人なんだろうなと思うので、それで良かったかなと思っています」

–––三角関係とは違うということでしょうか。

「三角関係という風には捉えなかったです。遠野を演じるにあたって恋愛を軸にしていないこともあり、遠野という人物が何を考えているのか。“こうも取れるし、こうも取れるな”と、迷いながら演じていました」

画像2: 杉野遥亮、映画『やがて海へと届く』インタビュー「当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます」

–––遠野もすみれもどちらもミステリアスな人物に映りました。

「何を考えているかわからない、そういう二人が惹かれ合うのもわかりますし、受け取り方はいろいろあるなと思っています。遠野が真奈に対してちゃんと本音を言っているという捉え方もできれば、本音を言うことで自分の気持ちを浄化させていたのかもしれません。それは受け取り方次第だと思います」

–––遠野を演じて芽生えた変化や気づきはありますか。

「撮影時は演じることで精一杯だったのですが、その精一杯であった瞬間を切り取っていただけたと思います。遠野を演じたというよりも、遠野の考え方は自分も理解できますし、遠野みたいに迷うことはありますので、迷っていたり、切羽詰まっていたという部分が、遠野にもどこか作用しているところがあります。気づきでいうと、例えば、どこか迷うということをせずにどちらか一本に自分で決めて絞ったほうが良かったかなとか、もっとあそこのバックボーンを掘っておけばこうなったかなとか、〝もっとこうできたな〟という演技的なことはありました。この映画の撮影後、舞台に出演したり、様々な経験をしたので、自分も感じ方や演じることに対しての考え方が変わってきていて、そういった後悔みたいなものはあります」

画像3: 杉野遥亮、映画『やがて海へと届く』インタビュー「当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます」

–––出来上がった作品を鑑賞して気に入っているシーンについて教えてください。

「すみれがビデオカメラを回して一緒に楽しんでいるシーンの時の遠野が良い表情をしているなと思いました。あと遠野とすみれが海辺に佇んでいるシーンの景色の映像がキレイでした」

–––劇中、遠野はすみれがいなくなってからも前を向いて歩いていきますが、杉野さんご自身はつらい経験をどう乗り越えていらっしゃいますか。

「まずは悲しみます。でも、それをずっとやっていると、悲しみに飲まれてしまうので切り替えられるようにしています。もう自然とそれができるようになっています。悲しいことがあったら人に聞いてもらう。でも聞いてもらったら今度はそんな話を聞いてもらったことに対して申し訳なくて、そんな自分が嫌だなという気持ちが自然と湧きあがってきてしまうので、良い方向に切り替えます。例えば、この間財布を失くしてしまい、友達に電話してからちょっと悲しんでいたのですが、1時間ぐらいしたら、“まぁ、財布はまた買えるからいいか。新しいのを買うタイミングだし”と。すごくポジティブな気持ちになりました。それで、紛失の届け出だけしてこれから新しい財布を買いに行こうっていう気持ちになった途端、その切り替えが良かったのか、財布が警察署に届いていたんです。1、2時間のことなのですが、普段からそんな思考というか切り替え方をしています」

画像4: 杉野遥亮、映画『やがて海へと届く』インタビュー「当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます」

–––この作品の中では恋人が突然いなくなりますが、私たちもコロナ禍になって当たり前であったことが当たり前ではなくなりました。そのような状況になって得た思いはありますか。

「それはあります。どんなことに対しても言えることだと思いますが、やはり、いろんなことが当たり前になっていたのかなと。感謝すべきこともそうですが。当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます。でも、今はそういう意味ではとても良い機会だと感じています。感謝することを習慣にし、相手に対して敬意を払う。そういうことがコロナ禍の自粛期間、人と会えない間に育まれたものなのかなと思います。会えない分、次に会えた時に相手に対して、うれしいといった感情や、大好きという気持ちを伝えられます。毎日会えるのが当たり前になると、錯覚したり、わからなくなってしまうことがあったかなと思います」

–––最後にメッセージをお願いします。

「いろんな見方や捉え方ができ、いろんな感じ方もある、本当に噛めば噛むほど味のある芸術作品だと僕は思っています。受け取ることもたくさんありますし、また見方も変わります。観てくださったみなさんが何か感じていただけたらうれしいです」

画像: 杉野遥亮さん:映画『やがて海へと届く』コメント youtu.be

杉野遥亮さん:映画『やがて海へと届く』コメント

youtu.be

PROFILE

杉野遥亮 
SUGINO YOSUKE
1995年9月18日生まれ、千葉県出身。

〈近年の主な出演作〉
映画『水上のフライト』(2020年)
映画『東京リベンジャーズ』(2021年)
ドラマ「ハケンの品格」(2020年)
ドラマ「教場Ⅱ」(2021年)
ドラマ「直ちゃんは小学三年生」(2021年)
ドラマ「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」(2021年)
ドラマ「アプリで恋する20の条件」(2021年)
ドラマ「東京怪奇酒」(2021年)
ドラマ「いないかもしれない」(2021年)
ドラマ「こころのフフフ」(2021年)
ドラマ「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」(2021年)
ドラマ「妻、小学生になる。」(2022年)
ドラマ「僕の姉ちゃん」(Amazon Prime Videoにて全話一挙先行配信中/テレビ東京にて2022年放送予定)
舞台「夜への長い旅路」(2021年)

〈待機作〉
映画『バイオレンスアクション』(2022年8月19日公開)
大河ドラマ「どうする家康」(2023年)

画像5: 杉野遥亮、映画『やがて海へと届く』インタビュー「当たり前だと思っていたことがパッと目の前から消えた時に、そのありがたみに気づかされます」

映画『やがて海へと届く』

彩瀬まるの同名小説を岸井ゆきの主演、浜辺美波の共演で映画化。監督・脚本を手掛けるのは、『四月の永い夢』(17年)がモスクワ映画祭で国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をW受賞し、その後も『わたしは光をにぎっている』(19年)、『静かな雨』(20年)など、国内外で注目される中川龍太郎。突然親友が消息を絶ったことを受け入れられずにいる主人公が、深い悲しみを抱えながらも前に踏み出そうとする姿を見つめる、喪失から再生へと向かう物語。

STORY

引っ込み思案で自分を上手く出せない真奈(岸井ゆきの)は、自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってしまう。あれから5年――。
すみれの不在をいまだ受け入れられずにいた真奈は、ある日、すみれのかつての恋人・遠野(杉野遥亮)から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう……。

映画『やがて海へと届く』

出演:岸井ゆきの 浜辺美波 
   杉野遥亮 中崎 敏
   鶴田真由 中嶋朋子 新谷ゆづみ/光石 研
監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる「やがて海へと届く」(講談社文庫)
脚本:梅原英司
音楽:小瀬村 晶
アニメーション挿入曲 / エンディング曲:加藤久貴
配給:ビターズ・エンド

©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

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