今年9月に公開された映画『HiGH&LOW THE WORST X(クロス)』(22)では、川村壱馬演じる主人公・花岡楓士雄らと敵対する、瀬ノ門工業高校の頭・天下井公平役で強烈なインパクトを残したのも記憶に新しい。本作は役者・三山凌輝をより多くの人に知ってもらえるきっかけになったそうだが、出演まではまるで運命に導かれたかのような道のりを辿っている。
三山が役者を目指し、運命を感じる本作に出会うまでの軌跡を語ってもらった。
撮影/奥田耕平(THE96) スタイリスト/八木啓紀 ヘアメイク/西村裕司 文/タナカシノブ 衣裳/シャツ¥23,100(YONLOKSAN/HEMT PR)、中に着たシャツ¥25,300(wonderland/not wonder store)、パンツ¥143,000(STRONGTHE/MATT.)、他スタイリスト私物
——人前でパフォーマンスをすることにいつ頃から興味を持っていたのでしょうか?
「子どもの頃からドラマや映画を観るのは大好きでした。それこそ『仮面ライダー』や『戦隊シリーズ』にはもれなくハマって観ていました。シンプルにかっこいい男性に憧れていました。テレビに出て歌って踊るかっこいい男性が好きで、ジャニーズもすごく好きでした。かっこいい人が歌って踊ってキャーキャー言われている。どちらかというとそのキャーキャー言われているほうに興味があった気がします。僕が芸能界に入りたいと思った最初の動機は『キャーキャー言われたい』でした(笑)」
——「キャーキャー言われたい」という願いを叶えるための最初のアクションは事務所への応募などでしょうか?
「芸能界に興味を持ち始めた頃に、運良くスカウトされたのが役者さんメインの事務所でした。やりたいこと、目指すものを話し合う中で知ったのは、事務所に入るだけでは仕事はこないという現実でした。当時小学6年生だったのですが、自分の中では東京に行って事務所に入り芸能の仕事をすると決めていたので、親に面接に同行してもらってどんどん事を進めてしまいました。自分がやると決めたことはなんとしてでもやり遂げる、頑固なところはその頃からもうすでに確立されていました(笑)」
——親を同行させてしまうくらいの主体性を持っての行動だったのですね。
「ただ、芸能界の根本というものを理解していなかったから、事務所でレッスンを受けさせてもらったときも、芝居についても俳優という職業についても全く掴みきれなくて。テレビに出ている人を観て『かっこいい、僕もあんな風になりたい』と思うだけで、何がしたいという具体的なビジョンがあるわけもなく…。そんな状態で演技のレッスンを受けたのですが、すごくモヤモヤが残るものになってしまって。今でこそ、監督Aがいいというものが監督Bがいいと思うものではない、全く逆を求められることもあるのも理解できるけれど、当時の僕には当然、演技での正解なんて分からないし、事務所でのレッスンは歌やダンスのように自由な表現じゃないから、どこか窮屈に感じてしまって。だけどそこで楽しくないからやめよう、とは思わなかったんです。芝居とは何かが本当に分からない、そのことが僕にとってわだかまりのように感じたので、ちょっと頑張ってみようって。これも何かの縁だし、芝居というものをちょっと集中してやってみようと思い立ったのが、役者の道に進んだきっかけです。ただ有名になりたいだけではなく、自分が納得できるポジションに行きたい、極めたいという気持ちが芽生えたのもこの頃です」
——得意なダンスや歌ではなく、正解が分からなくてモヤモヤが残った役者の道に進んだ今、そのモヤモヤはだいぶ解消されましたか?
「芝居力は人間力だと思っています。人間力が身についていけばいくほど、芝居の力も自然と上がっていく気がするんです。芝居をするときのニュートラルなスタンスもすごく大事だけど、それプラス人間力、経験値みたいなものが演技には積み重なると思っていて。すごい役者さんって、例えばそこにいるだけで、背中を見せるだけでセリフがなくても伝わってくるものがありますよね。もちろん、芝居でそう見せる人もいるだろうけど、結局その人そのものなんじゃないかなと思うんです。だから僕は常にセンサーを張り巡らせていろいろなことを感じ取り、その先に何を築いていくのかを考えていたい。それが、この業界でちゃんと成功するために大切なことだと感じているところです」
——役者に必要なことは人間力と経験値、なるほど。
「あと疑うことも大切だと思っています。僕、すごく人を信じるタイプなんです。何も疑わなくてすごく単純で(笑)。でも、子どもの頃からこの世界にいてたくさんの人を見てきた中で、疑うことは芝居にすごく大切な要素だと思うようになりました。例えば、人って驚きすぎたら声が出なかったりするじゃないですか。でも、芝居だと声を出して驚きを表現したりする。じゃあ、驚いた芝居をしてくださいと言われたとき、自分がどちらで表現するのか。この表現は正しいのかどうかを疑い、本当に正しいものを選ぶ。その考え方は、経験のうえに成り立つことだと思うんです。もちろん自分自身の経験もそうだし、周りの人の言動から得るものもあります。過去の自分は驚いたときどんな反応をしたのか、あの人はどんな反応をしていていたのか。それを振り返ったときに、引き出しに材料がたくさん入っていれば演じ方にバリエーションを出すことができる。そう考えたら、やっぱり経験って大事だなという結論に至ると思うんですよね」
PROFILE
三山凌輝
1999年4月26日生まれ、愛知県出身。
<近年の主な出演作>
映画『縁側ラヴァーズ』(2020年)
映画『人狼ゲーム デスゲームの運営人』(2020年)
映画『HiGH&LOW THE WORST X』(2022年)
舞台「Bling Bling by Seventeen」(2022年)
現在発売中のSCREEN+Plus vol.82ではさらに役者としてのエピソードを深く語ってもらっているのでぜひ本誌をご覧ください。