(撮影/奥田耕平 取材・文/佐久間裕子)
ーー映画『怪物』は安藤サクラさん演じるお母さんから始まり、瑛太さん扮する担任の先生、そして子供たちと描かれる視点が変わっていきます。私は「そうだったのか!」と思ったのですが、最初に脚本を読んだときの感想はいかがでした?
「最初に読んだ時は、たくさん出てくるから頑張らないとと思いました。僕はお芝居するために脚本をしっかり読むようにしています。読んだ後は、まず自分が出ているシーンはどこかなって探して、そこからは『ここはこんな風に演じようかな』って思いながら何度も読みます」
ーーストーリーを追うというよりは、お芝居をするために読む込むと。それからご自分のセリフをどうやって覚えるのですか。
「最近、是枝(裕和)監督がいろんなところで僕のことを、『カメラで撮るみたいにパシャッと覚えてすごい』と言ってくださるんですけど、さすがにそこまですぐには覚えられないです(笑)。覚え方としては、お芝居のために一度通して脚本をじっくり読んで、その後自分のセリフがあるところをじっくり見てから心の中で読みます。何回かそうやって読んで、台本を伏せてどこまで覚えているか確かめて、そこでまた心の中で台本を読むんです。そのときにまだ覚えていないところがあれば、脚本を見てからまた伏せて、しばらくしたらちっちゃい声で言ってみる。そういう覚え方をしています。そうすると、何回かやっているうちに、スッとセリフが頭の中に入るんです」
ーー脚本を見て心の中で読んで覚えるを繰り返す。それは自分で編み出したのですか。
「なんでそうなったかっていうと、僕の家はマンションで他の人にセリフを言っているのを聞かれるのがイヤなんです。普通に喋ったら聞かれるじゃないですか。お母さんにはいつも声を出して読みなさいって言われるんですけど、自分がセリフを覚えているところを見られるのも聞かれるのもイヤで(笑)」
ーーそれは恥ずかしいから?
「そうです(笑)。なんか集中できないので、声を出して読むことはほとんどしないです。だからといって、仮に家でひとりだとしても声を出して読めないんです。自分の部屋にいるときも声は出さないです」
ーーじゃあ声を出してセリフを言うのは、現場に行ってからが初めてぐらいなんですね。
「そうです。すごく長い台詞だったら、覚えるのに時間がかかるんですけど、現場では他の人が言っているセリフを5回ぐらい聞くと、なんかわからないけど覚えてるんですよね。『怪物』の撮影中も他の方が言っているセリフを、自分のセリフよりも早く覚えてしまってました(笑)」
ーー『怪物』の是枝監督とは、役柄やお芝居について、どんなお話をしましたか。
「自分が演じたいように演じればいいと言ってくださいました。その言葉がすごく印象に残っていて、そう言われるとすごく嬉しいんです。監督の期待にお芝居でしっかり返したいなって思いました」
ーー『怪物』で演じた星川依里のことをどんな人物だと捉えていたのでしょうか。
「感情のつかみどころのない、自分が思っていることをあまり表に出さない人だと思いました。例えば依里は、誰かに嫌なことをされても平気な顔をするんです。無視というか。演じるときは、依里のつかみどころがない部分を意識して、歩き方や喋り方を工夫しました。台本を読んでいるときは、そこまで考えていなかったので、現場でふっと思い浮かんだことをやってみました。歩き方はふわふわしている感じがいいなと思ったので、スキップしたりぐるぐる回ったり。お芝居について監督に聞くこともありましたけど、まずは1回やってみるようにしていました」
ーー依里は確かにふわふわして何を考えているかわからない子でした。難しい役だったのでは?
「難しいと思ったことはないです。いつもどんな風に演じようかなと考えているので、難しいと思うことはあまりないんです」
ーー共演者に安藤サクラさん、瑛太さん、田中裕子さんと実力のある俳優さんが揃っていました。お芝居について質問したりしました?
「あまりしなかったです。自分の役なので、いつも自分で考えてお芝居をしています。でも間近で見たみなさんのお芝居は、すごく迫力がありました。普段テレビで観ている方ばかりなので、みなさんのような迫力のあるお芝居ができるようになりたいなって思いました。とにかくすごかったです」
ーーということは、麦野湊くんを演じた黒川想矢くんともお芝居や役についてはあまり話さなかった?
「お芝居については話すことはほとんどなかったです。『僕はここをこうしたいんだけど、どう思う?』みたいなことはちょっと話しました。黒川くんはけっこう真面目で、いつも『今の良かったのかな?』ってすごく考えていました。一つひとつシーンに前向きに取り組んでいくところが、すごくカッコイイなって思っていました。僕も気にしないわけではないんですけど、監督からOKが出れば、良いお芝居だったんだって今は思うようになりました」
ーー『怪物』のラストシーンは観る人によって受け止め方が違うようです。私は希望がある終わり方だと思いましたが、柊木くんはラストシーンを観てどう感じましたか。
「完成した作品のラストは、編集によって脚本とは変わったんです。脚本は後ろを振り返ってカメラを見てまた歩き出すみたいな感じで、映画のように一直線に走っていく感じではなくて。だから演じているときに感じたことと、実際に映画を観て感じたことはちょっと違いました。撮影しているときは、これはどうなるんだろうって思っていたんですけど、映画で観たときは前向きな感じですごく感動しました」
ーーカンヌ国際映画祭でレッドカーペットを歩きました。緊張しませんでした?
「みなさんと一緒だったので緊張はしませんでした。レッドカーペットの直前に着くと、一人ひとり名前を呼んでくださるんです。僕の名前は『ひ』が発音しづらいみたいで、イラタ・イイラギみたいな呼び方になってしまって、呼びづらくてごめんなさいって気持ちになりました(笑)。レッドカーペットを歩いているときは、記者の方が『ヒナティー、ヒナティー』と声を掛けてくださって楽しかったです」
ーーお芝居を始めるきっかけになった中川大志さんをはじめ、ステキな俳優さんたちの子供時代を演じる機会も多いですよね。大人の役者さんたちに寄せることは意識していますか。
「できるだけ喋り方や笑い方などを、自分が演じる役の大人の方に似せられるようにと思っています。ドラマや映画を観たりもしますけど、僕が今までテレビで観てきた有名な方ばかりなので、この人はこんな感じだったかなって思いながら演じています」
ーー7月7日公開の『1秒先の彼』では岡田将生さんの子供時代を演じています。岡田さんの子供時代を演じる上でのポイントはありましたか。
「岡田将生さんはほわっとした感じの役をされているイメージがあって、『1秒先の彼』の役もそういう感じの役なので、僕も『何を考えてるの?』って思われそうな人を意識してみました。その上で他の人にどんどん話しかけていく感じにしてみました」
ーー『1秒先の彼』の彼の舞台は京都で、柊木くんも京都に在住ですが、ほかの作品でセリフを言うときに京都弁は出たりしませんか。
「ほとんどしないです。ドラマの『最愛』は飛驒弁で、ちょっと『関西弁が出てるよ』って言われたりもしたんですけど、それは飛驒弁が関西弁に似ていたので、分からなくなってました。標準語のドラマや、普段こうしてお話ししているときはほとんど出ないです」
ーー日常の柊木くんがわかるお話も聞きたいのですが、特技はギターだとか。始めたのはいつですか。
「5歳です。お母さんがもともとピアノを弾いていたみたいで、僕も何か楽器をやってみようかということになったんです。そのときギターがいいと言って始めました」
ーーいつかお仕事でギターを弾けたらいいなって思ったりしません?
「弾きたいですね。弾き語りをしてみたいです」
ーーライブもやってみたい?
「今はまだできないと思います。そこまでのレベルに達していないというか。曲を自分で作ろうと思ったら難しくないですか」
ーーそもそも曲を作ろうと思ったことがないので(笑)。ということは、曲を作ろうと思ったことがあるんですね。
「実は『怪物』の撮影のときに、黒川くんが『曲を作ってみよう』って言い出したんです。それを監督にも話して、春と夏の間、撮影がない期間に、想矢くんと電話をしながらギターで曲を作りました。想矢くんが歌詞を作ることになっていたんですけど、依里の役的にギターを持っているのはおかしいよねってことになって、僕らが作った曲を披露する話はなくなりました」
ーーどんな曲だったのですか。
「簡単なギターのコードを使った曲で、撮影場所が諏訪で自然が多かったので、そのイメージであったかい感じの音になりました」
ーー曲のアイデアはふたりで出して?
「どちらかというと、やる気だったのは『曲を作ろう』と言い始めた想矢くんです(笑)。なので、諏訪湖の春、夏、秋、冬を表現したらどう? ってアイデアを出してくれて、クラシックの『四季』みたいな雰囲気の曲になりました」
ーー黒川くんとは仲良しそうですね。
「はい。撮影中以外は100%仲が良いです。撮影中は50%仲が良くて、50%はケンカしていました(笑)。今思えば、なんでケンカしていたんだろ? ってことなんですけど、日常のちょっとしたことで意見が食い違っていました(笑)」
ーー夕飯は僕はハンバーグがいい、いや僕はカレーがいいみたいな?
「そこまで単純じゃなかったです。でも、ほぼそんな感じ(笑)」
――では今まで演じた役の中で、自分と似てるなって思う役はどれですか。
「依里が一番近いと思います。不思議なことを話したりするところが似てるなって思います。僕もどちらかというとお喋りなので」
ーー普段はおしゃべりと。
「はい(笑)。家だとおしゃべりです。ドラマやCMを観て、なんか思ったことをずっと喋っています。犬を飼っているんですけど、お母さんと一緒にスーパーに行くと僕はスーパーの前で犬と一緒に待っているわけです。待っている間に起きたことを、『さっき白いカラスを見たよ』、『さっき通った人、イヤホンから音楽が漏れてた』って全部お母さんに話します」
ーー全部話したくなっちゃうんですね。今日、ここに来るまでの間にどうしても話したくなったことあります?
「新幹線に乗っているときに、通路を挟んで隣の人がずっと指をいじっていたのが気になりました(笑)。あと車内販売のアイスが食べたかったのに、乗ったばかりの頃に食べると酔うかもしれないから、後で食べようと思ったんです。でも寝ちゃって食べられなかった(笑)」
ーーアイスが好きなんですね。
「ちょっと前はチョコアイスの方が好きだったはずなんですけど、最近バニラの美味しさに気がつきました。東京にいるときにコンビニでアイスを買うと、なぜかバニラのほうが美味しいんですよ。でもたまにこってりしたチョコが食べたくなります」
ーー甘党?
「甘党です。でもお菓子というよりは果物ばかり食べてます。今の時期はスイカや桃。いちごやさくらんぼ、パイナップルも好きです。あと生野菜も好き。一時期、きゅうりの端っこだけ切って、ポキッと折って塩をスプーンで取ってまぶして丸ごと食べてました(笑)」
ーーところで、憧れの俳優さんは光石研さんだとか。「最愛」ではお父さん役でしたね。
「はい。すごく幅広い役を演じていらっしゃって、すごくカッコイイです。悪い人の役をしているときもあれば、良い人の役をしているときもある。そういういろんな役ができる俳優さんになれたらいいなと思っています」
ーーこれからどんな役がやってみたいですか。
「挑戦してみたいのは、『岸辺露伴は動かない』で演じたジャンケン小僧みたいな、ちょっとやんちゃな役です。自分にとっては難しい役なので、またチャレンジしてみたいです」
柊木陽太
ひいらぎ・ひなた。
2011年9月10日生まれ、京都府出身。
幼少期からキッズモデルとして活動し、2021年ytv/NTV「ボクの殺意が恋をした」で俳優デビュー。その後、TBS「最愛」、CX「ミステリと言う勿れ」と3クール連続でドラマ出演を果たすほか、NHK連続ドラマ小説「カムカムエヴリバディ」、CX「PICU 小児集中治療室」、TBS「ラストマン―全盲の捜査官―」にも出演。
『怪物』
公開中
出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童/田中裕子
監督・編集:是枝裕和
脚本:坂元裕二
音楽:坂本龍一
配給:東宝 ギャガ
©2023「怪物」製作委員会
1秒先の彼
7月7日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
出演:岡田将生 清原果耶 荒川良々 福室莉音 片山友希 加藤雅也 羽野晶紀 しみけん 笑福亭笑瓶 松本妃代 伊勢志摩 柊木陽太 加藤柚凪 朝井大智 山内圭哉
監督:山下敦弘
脚本:宮藤官九郎
原作:『1秒先の彼女』(チェン・ユーシュン)
配給:ビターズ・エンド
©2023『1秒先の彼』製作委員会