オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラーが1900年に発行し、当時のウィーン社会にセンセーションを巻き起こした問題作「輪舞」(La Ronde)。
19世紀末の世相を背景に、男女の情事前後の会話をリレー形式で描写した本作品は、当時の性道徳や階級理念に反していたために上演を巡って法廷論争まで引き起こした。しかし人間の普遍的な関係性と欲望を描いた本作品は、時代が変わっても支持され続け、1950年にマックス・オフュルス監督により映画化された際は英国アカデミー賞作品賞、ヴェネツィア国際映画祭脚本賞を受賞。その後もロジェ・ヴァディム監督(1964年)、オットー・シェンク監督(1973年)にも映画化、93年にはオペラ化もされている。
また、英国の巨匠デヴィッド・ヘアーは、本作品を20世紀末の英国に移して翻案、「ブルールーム」というタイトルで、サム・メンデスの演出によりロンドンとブロードウェイで1998年から1999年にかけて上演。ニコール・キッドマンとイアン・グレンが女性男性5人ずつを演じ、世界的な話題を呼んだ。
この普遍的な問題作を、2024年、注目の劇団「範宙遊泳」を主宰し、第66回岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓(作)×プロデュース公演カンパニーKUNIOを主宰し、演出家・舞台美術家として活躍する杉原邦生(演出)により、〈現在〉〈東京〉に翻案。Hey! Say! JUMPの髙木雄也、そして清水くるみの二人が複数の役で、リアルを生きるカップルの10の情事をリレー形式で描くのが、舞台「東京輪舞」だ。
プレスコールでは、「十代の若い女性とデリバリー配達員」「デリバリー配達員と海外出身の家事代行」「海外出身の家事代行と高級マンションに住む息子」の3つのストーリーが演じられ、ポップでありながらリアルとエロスを交差させた展開の中には、刺激的な会話やシーンも登場。現在の東京を生きる男女の世界を生々しくに描くことで、観る者に様々な感情を沸き立たせた。
初日前会見
──初日を迎えるにあたっての意気込みをお願いします。
髙木「「東京輪舞」をこうやって、キャスト、スタッフの皆さんで一丸となって創り上げてきたので、“ようやく皆さんにお披露目できるのか!”っていうのと、“早かったなぁ”っていう、今、ドキドキとワクワクのフィフティーフィフティー状態なんですけど、自分が出来ることは100%でやっていきますので、皆さんに観ていただけると嬉しいなと思います」
清水「1カ月強稽古してきたんですけど、髙木さんがおっしゃっていたように本当にあっという間で、“あっ、もう初日だ!”という気持ちです。舞台稽古をしていて、セットを組まれてやったら、“これはすごく見応えがあるんじゃないかな”と思って。このセットにまずワクワクしますし、二人で8役・6役やらせていただいていると、“きっと面白いものになっているんじゃないかな”と思うので、精一杯頑張ります」
山本「みんなの力が合わさって、日本の演劇史に残るような問題作になっているんじゃないかなと、客席で観ながら思いました。最高!」
杉原「二人の俳優としての魅力を十二分に堪能していただける作品になっていると思います。すごく挑戦的な作品なので、お客様にどういう風に受け止めていただけるのか、僕らも想像できていない部分があるんですけど、そういう意味も含めて“開幕がすごく楽しみ”だなと思っています」
──台本を書くにあたって、演出の杉原さんとはどのような話をされましたか。また、どんな想いを込められましたか。
山本「“(アルトゥル・シュニッツラーの「輪舞」を)これ、翻案してもらえないか”という話をいただいて。原作は100年以上前に書かれたものなんですけど、当時、法廷裁きにもなったようなセンセーショナルな部分は大切にしつつ、“現代の東京に置き換えて、僕の作家性を殺すことなく自由に書いてくれ”というようなことを言われて、”ぜひ”ということで。男性と女性の性別の二元論で原作は書かれているけど、“これは今じゃないんじゃないか”っていう話を杉原さんからいただいて、僕も全くそうだと思っていたので、そういうことにとらわれることなく、今、東京にいる人たちに目を向かせてやるというのを決めました」
──情報解禁の際に「卓卓くんが択ぶ日本語のセンス、その組み合わせによって生まれる独特のリズム、テキストから漂う息が詰まるような現代日本の空気感、そして人と人との交わりに冷静に寄り添う作家としての知性、それらがこの作品には必要だと思った」とあったんですけど、実際に山本さんの書かれた台本を読んでどのように思われましたか? あと、出演者のお二人と稽古をなさって感じられたことをお願いいたします。
杉原「まず、上がってきた台本を読んで、“すごく刺激的で面白いな”って第一に感じました。シュニッツラーが描いた「輪舞」を元にしながら、きちんと卓卓くんなりの解釈というか、その「輪舞」を踏襲しながら“彼にしか描けない愛とコミュニケーションの物語になっているな”と思って、それがすごくいいなと思いました。その時点で“あぁ、お願いして良かった”って思えたので、すごく幸福な作業ができたなと思っています。第一稿からやりとりしていく中で、いろいろブラッシュアップさせていただき、稽古が始まってからも稽古場によく来てくれたので、俳優と僕と4人で相談しながら“セリフはこうじゃないか”“ここはカットしてもいいんじゃないか”とか、“いや、ここは残そう”というようなディスカッションをしながらこの作品を組み立てていけたことっていうのはすごく楽しい作業でした。僕は結構、古典の作品をやることが多くて、シェイクスピアとかソポクレスとかみんな亡くなっているんですけど、今回は生きた作家と作業ができたのでそれもすごく楽しかったです。
その台本をもとに稽古していったんですけど、二人とも本当に飾り気がなくて、素直に稽古場に居てくれるというか。髙木くんは、本当にこのままなんです。芝居をしていても稽古の最中でも、休憩中でも本当にこのままで。シームレスにお芝居と普段とを行き来できる稀有な存在だなと思います。くるみさんも、思っていることを本当に素直に伝えてくれるので、今どこに悩んでいるのか、今どういう気持ちで役に挑もうとしているのかっていうことが直に伝わってくる。本当に二人と作業してやりにくいところがなかったので、稽古の初期の段階から“この二人でよかったな”って素直に思いました」
──髙木さんは8役、清水さんは6役演じられます。この作品ならではの難しいところ、あとはお相手について、それぞれ稽古されて思われたことなどがあったら教えてください。
髙木「8役にチャレンジすることになって……もとは本当は5役だったんです。こんなこと言っちゃいけないんですけど(笑)。で、5役でやっていくうちに8役になって。最初は経験がなかったので、どう変えればいいのかとかわからず、“声を変えたらいいのかなぁ……”とかそういう風に考えていたんですけど、杉原さんから“そういうことは気にしないで。ちゃんと入り込んでいけばその役に声とかも近づいていくから”というのを結構初期の段階で言っていただいたので、そこはもう心配せず、自分が思うようにその人で生きてみて、やっていって、今に至ったって感じです。でも、8役と言っても、その中で1役、2役と接することがあるので、“8役だけど、その倍の役があるな”という感覚で、そこら辺がちょっと大変かなと思っています。
清水さんはもう、何でも言ってくれるので。“あそこ、イヤ〜”とか(笑)。
清水「そういうことは言わなくていいですよ!(笑)」
髙木「あと、僕は本当に考えずというか、とりあえずその言葉でどう自分がなるかという風にやっていくタイプなんですけど、清水さんは考えてきてくれるので、その発した言葉をどう受け止めるかとかいうのは、僕は稽古をやっていて楽しかったです」
清水「一つの作品で何役かやったことの経験はあるんですけど、6役を1役1役ちゃんと見せるっていうことはあんまりなかったので、まず切り替えがすごく難しいなと思って。役をやってる時に一瞬違うキャラが出てきて、“あれ、今何やってるっけ?”とか、自分が出てきちゃって“あ、これ、私の言い回しだな”とか思っちゃったり。そういうことがあるのですごく難しいなぁと思いました。あと8役と6役って、二人芝居で、基本的には二人が舞台の上に居るのに、なんで役の数に差があるのか? なんでだろう?と思っている方も多いんじゃないかなと思うのですが、そこも見どころだと思いますし、楽しみにしていただきたいなと思います。
髙木さんは、すごくフレンドリーな方で。私も基本的にあまり人見知りしないほうなんですけど、(髙木さんが)すごくフレンドリーで人見知りされないので、逆にちょっと最初は人見知りをしちゃいました(笑)。なんでもお互いに言える関係性だなと、私は勝手に思っていて。“ここ、嫌だ”とかは普段、人に言わないんですけど……あの、山本さんが書いたセリフを(髙木さんが)ちょっと変えてたのが嫌だったんです(笑)。それを私が”嫌だ”って言ったんですよ!」
髙木「はい、わかりました(笑)」
清水「そういうコミュニケーションが取れるのはすごくいいなぁって。人懐っこい方なので、ずっと喋っていらっしゃって(笑)」
杉原「ずっと喋ってましたね(笑)」
清水「いろんな方とコミュニケーションを取ろうとして、現場の空気感を作って下さったので、本当に感謝しています」
──山本さん、杉原さんに伺いたいのですが、髙木さんと清水さん、それぞれの俳優としての魅力や、すごいなって思ったところを聞かせていただけますか?
山本「髙木さんは、やればやるほど自分で発見していくというような、昨日と違う今日の声の響きだったりとかを新鮮に感じながら、それを楽しみながら作業してらっしゃると思って、そこにすごく感動しました。見れば見るほど、髙木さんをもっと見たくなるというところが魅力的だな思います。
清水さんは、“ここに行きたい!”というポイントがきっとあるような気がして、そこに行くためにひたすら進むっていう。だから対照的な、掘り下げていくパターンと、高め高めに行くっていう、そのコントラストというのがすごく魅力ですね」
杉原「くるみさんは、本当に素直にぶつかっていくタイプの俳優さん。何事にも。これは演出家にもそうだし、共演者にも作家にもそうだし。そこがすごく信頼できる。“この人は直接ぶつかってきてくれる人だ”っていう風な信頼感を相手に与えてくれてるから、こっちも思ったことをその場で言える。それはすごく魅力だなと思います。
髙木くんは、こんな俳優出会ったことないです(笑)。普通に休憩中喋ってると、地元も近いから……」
髙木「そうなんですよね。地元の友達だと思っています(笑)」
杉原「……という感じなんだけど、そのままのテンションで芝居に入っていくから、すごいなと思いました。昨年末にHey! Say! JUMPのライブを観に行ったんです。みんなカッコよく歌って踊っているんですけど、ふとした瞬間に、ふらーっとそのままその辺歩いてる髙木くんっていうのが、すごっ!って(笑)。東京ドームであの立ち方ができるなんて。“あ、これなら大丈夫だ”と思いました。“この感じでドームに立てるんだったら、PARCO劇場のサイズだったら絶対に自然体で芝居をしてくれるな”と思ったので。本当にこんな俳優に出会ったことないです(笑)」
──髙木さん、清水さんは今の言葉を聞いてどうでしょうか?
髙木「嬉しいです。自然体にさせてくれたのがお二人なので。これでボコボコやられていたら、たぶん、関係が違いました(笑)」
清水「私は〈なんでなんで星人〉なので、“なんでですか?”とすごく聞いてしまったと思うんですけど、それだけ読み応えのある台本でしたし、演出だったので。年齢も結構近いお二方だったからっていうのもあったのかな。あと、髙木さんが聞きやすい空気感を作ってくださっていたから、聞いていたんだと思います」
──杉原さんにお聞きしたいのですが、先ほど清水さんが「ワクワクするようなセット」とおっしゃっていましたが、ステージセットのコンセプトを教えてください。
杉原「今回は東京を舞台にということだったので、しかも一番最初は東京の、渋谷のど真ん中のPARCO劇場で上演するということで、舞台の上の空間に物語上、プラス、僕らと地続きの東京の街並みっていうものをどのやって出現させようかなと思って。僕のコンセプトは、東京ルームというか、東京シアターというか。とにかく“ここは東京だ!”って言いまくるということで、こういう風にデザインしていって。文字の情報というものが今の社会は溢れていると思うんですけど、そういうところもイメージできたらいいなぁと思って、タイポグラフィーを使ったデザインにしています。出道具、〈RONDE〉の文字とか、ドアのついたパネルが次々出てきてシーンを構成していくんですけど、その道具が輪舞のように動き、踊りながら空間を構成しているような劇空間にできたらいいなと思っていて、それが一番のコンセプトですね。〈東京〉と〈輪舞〉というタイトル通りのものを、僕なりに空間化したらどうなるか?っていうことを実現したらこうなったっていう感じです」
──髙木さん、清水さんはステージセットについてどうですか?
清水「稽古場で“こういう風になるよ”って聞いていたんですけど、実際に全面が〈東京TOKYO
〉となっていると芝居をやっている時の感情も変わってきますし、お金かかってますよね(笑)。すごいんですよ。観ていてワクワクすると思います。〈東京TOKYO
〉って描いてあると、一見賑やかだなぁと思うですけど、私はちょっと孤独も感じるセットだなとは思っていて。私、この作品が終わって暗転になった瞬間にいつも、すっごく淋しい気持ちになるんですね。それがやっぱり東京だなっていう。いっぱい人がいるし、いろんな人がいるし、だからこそ関わり合いもすごくあるんですけど、いい意味でも悪い意味でも孤独を感じるのが東京だなっていうのは思っていて。それが脚本もそうだし、このセットもそうだし、それが全部合わさっているなって。本当に素敵なセットだなって思っています。
髙木「あの、信じてもらえないと思うんですけど、(清水さんと)まっったく同じでした(笑)」
清水「さっき(小声で)“先に言って”って言ってましたよね?(笑)」
髙木「この文字がバーッてなっているところに、東京って人がものすごくいて、いろんな方がいて、それが詰まってるなぁっていうのを感じましたね。あと、セットがいろいろ変わっていくんですけど、その時に別のものになったり別のシーンになったり。でも、結局全部一緒な感じが、いいなというか、すごくきれいにまとまっているなと思いました」
──場面転換で着替えたりもされていきますけど、演じやすいですか?
髙木「もちろんです! 切り替えやすいです。セットがガーッと動いていくので、その動きで自分自身が変わっていって出ていけるというのが、僕はやりやすいです」
杉原「この空間を実現するために、ステージパフォーマーという8名のダンサーさんと俳優さんが道具転換をしてくれているんですけれど、場面転換を仕事的に転換するのではなくて、身体的に空間が動いている舞台にしたいということで、あえて俳優さん、ダンサーさんに道具を動かしていただいているので、そこらへんも見どころかなと思います」
──最後に登壇者を代表して、髙木さんから楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
髙木「「東京輪舞」、このメンバーで創り上げました。観る方は年齢とか過ごしてきた環境とか今の気持ちとかで、もしかしたら見え方が変わってくるのかなとは思うんですけど、今の等身大の自分が観た時にどう感じるかっていうのを大事にしてもらって、観てもらえたら嬉しいなと思います。4月20日頃まで、いろいろ地方もまわるので、ぜひみなさん、もしよければ遊びにてください。よろしくお願いします!」
撮影/大西 基
PARCO PRODUCE 2024「東京輪舞(トウキョウロンド)」
出演:髙木雄也 清水くるみ
原作:アルトゥル・シュニッツラー
作 :山本卓卓
演出・美術:杉原邦生
東京公演:3月10日(日)~3月28日(木)PARCO劇場
福岡公演:4月5日(金)〜6日(土)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
大阪公演:4月12日(金)~15日(月)森ノ宮ピロティホール
広島公演:4月19日(金)広島上野学園ホール
▲雑誌情報
「SCREEN+(スクリーンプラス) vol.89」(発行:近代映画社)発売中
※髙木雄也「東京輪舞」グラビア&インタビューを7ページにわたり掲載