河瀬直美監督、三池崇史監督とともにカンヌには好意的に受け入れられている黒沢清監督の「散歩する侵略者」が、ある視点部門で5月21日夕方4時半から正式上映された。上映前には黒沢監督をはじめ、主演の松田龍平と長谷川博己がステージに上がって挨拶。長澤まさみが欠席なのは残念で、観客からヒロインはなぜいないのかと残念がる声も聞こえた。
映画は人気舞台劇を映画化したサスペンス・ミステリーで、宇宙人がボディースナッチャーして次々と人間になりかわって地球侵略をはかるという恐ろしいドラマに聞こえるが、主役は一般の庶民たちが宇宙人に日常生活の中でゆったりと襲われていくもので、黒沢監督は時折ユーモアを織り交ぜて描いているから、観客席からたびたび笑いが起こる。
しかも宇宙人にボディースナッチャーされた主人公役の松田龍平が、地と思われるほど飄々と演じているのがポイント。長澤まさみは常にモタモタした夫に不満をぶちまける妻役。「長澤さんには常にニコリとしないでくれと注文していた」と黒沢監督は上映後の日本人記者たちとの会見で明かす。
その上映後の記者会見では、黒沢監督の他、松田龍平と長谷川博己も同席。「カンヌはいつもスクリーンもサウンドも最高の状態で上映してくれるから、作った側にとってとてもありがたい」と黒沢監督が語れば、松田は「観客の反応を感じながら、高揚感に包まれた。素晴らしい時間だった」と感想を述べた。また長谷川は「カンヌに初めて来られてよかった。素晴らしい経験に感動している。黒沢作品に参加できて光栄だし、監督に感謝です!」と終始コーフン気味。
一方、松田はデビュー作である「御法度」で、大島渚監督に連れられて初めてカンヌを訪れた経歴があるが、17年ぶりのカンヌにあまり記憶はないらしく、「ただ全体の熱気は憶えています。これから次第に記憶がよみがえってくるでしょう」と淡々と語る。
そんな二人は黒沢監督とは初めて。「どちらの業界のトップを走る人、安心して演出させてもらった」と。松田は「最初は宇宙人の概念にとらわれず、自由に気楽に演じてたんですが、監督の演出に触れるたびに演じるのがこわくなった」と。すると長谷川は「監督からここはカート・ラッセル風にとか、トム・クルーズ風にとか注文された」と話すと、すかさず黒沢監督から「長谷川さんだったら、わかると思った。スピルバーグ監督の『宇宙戦争』のトム・クルーズや、ジョン・カーペンター監督の『遊星からの物体X』のカート・ラッセルのようにと例えたつもり」と明かせば、長谷川も「すぐわかりました」と、二人ともかなりの映画ファンだということが判明した。
同じある視点部門で、「トウキョウソナタ」(08)で審査員賞、「岸辺の旅」(15)で監督賞に輝いた黒沢監督、今度三度目の受賞なるか、期待される。(岡田光由)