俳優であり監督。ヴァンサン・ペレーズが本作にかける情熱とは
かつて「インドシナ」(92)「王妃マルゴ」(94)といったフランスの大作でカトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・アジャニーといった大女優と共演し、その美形ぶりが評判を呼んだヴァンサン・ペレーズ。もちろん現在も俳優として活動を続けているが、彼のもう一つの顔は監督。
02年「天使の肌」でデビューし、二作目の『秘密/THE SECRET』(07/日本はDVD公開)に続いて久々に完成した意欲作が、この度日本公開される「ヒトラーへの285枚の葉書」だ。この新作のキャンペーンでペレーズが14年ぶり5度目の来日。変わらぬ二枚目ぶりを見せながら本作にかけた情熱を語ってくれた。
『この映画の原作は実在したドイツ人夫婦の記録を基にハンス・ファラダという作家が四週間で書きあげ、戦争直後の47年に出版されたものですが、私は07年に出会ったのです。強い衝撃を受け、自分が映画にしなければと考えたのですが、ドイツで製作しようとしたら、これがなかなか難しかったんです。でも09年に初の英訳版が出てベストセラーになり、状況が変わってきました』
意外な事実から感じた"運命"?
ドイツ人とスペイン人の血が半分ずつ流れている自分自身の家系も似たところがあると考え、実際に製作に入る前に家族の歴史を調べると意外な事実が分かったという。
『自分のスペイン系の祖父がフランコ政権に反対し処刑されたことは知っていたんですが、ドイツ系の母の家族のことはほとんど知りませんでした。でも調べてみると、家族の中にナチ党員は一人もいなくて、みなレジスタンス側だということが分かったんです。そんな事実もあって、ドイツ人でありながらヒトラーを批判し続けたこの夫婦の物語は、自分が撮る運命にあると考えたんです(笑)』
主人公のクヴァンゲル夫妻の妻アンナを演じるエマ・トンプソンは早くから映画化に手を貸してくれたという。
『最初はドイツ人俳優でドイツ語で撮るつもりでしたが、紆余曲折を経て英語で撮ることになりました。エマは最初に夫人を演じられるのは彼女しかいないと思いつき、脚本を読んでもらったら、即座にOKしてくれたんです。夫のオットーは実は別の俳優が演じていたんですが、突然スピルバーグの映画に出ることになり(笑)、代役が必要になって、ブレンダン(グリーソン)を紹介されたんです。でも本当のオットーは痩せたタイプで、ブレンダンはイメージと違っていたんですが、会った途端に彼に“恋してしまった”んです(笑)』
小さな一歩が大きな力に
ナチスに抵抗した名もなき市民の物語は、どこか今の世の中の風潮に対するアンチテーゼのようにも感じられ、我々もそんな時代にいたとしたら、この夫婦のようになれるだろうかと自問自答してしまう。
『この夫妻が素晴らしいのは、彼らはスーパーヒーローでも何でもない人たちというところです。誰もができるシンプルなやり方で抵抗を貫いたところに注目するとしたら、我々にも一票を投じるというやり方がありますよね。小さな声と思えても、それが集まって一つの国を変える力にもなりうるということです。ほんの小さな事から大きな事もなしうると考えてほしいですね』