大人気ジャッキー・チェンが繰り出す最新アクション映画「スキップ・トレース」が2017年9月1日より日本公開。このキャンペーンで来日した本作の監督、レニー・ハーリンに映画の魅力やジャッキーの素顔について単独インタビューを行なった。(取材/望月美寿)

「スキップ・トレース」

ジャッキー・チェンが7年ぶりにハリウッドとコラボしたアクション・アドベンチャー。
香港警察の刑事ベニーが後見人をしている女性を守るため、コナーというアメリカ人詐欺師を追うが、なぜか追われる立場になってロシアからモンゴル、中国を逃げ惑う羽目に?共演はジョニー・ノックスヴィルら。監督は「ダイ・ハード2」のレニー・ハーリン。

9月1日(金)全国公開
KADOKAWA配給
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ジャッキーは映画作りはチームプレイだと意識している

「ダイ・ハード2」「クリフハンガー」の監督として名高いレニー・ハーリンが、ジャッキー・チェンとタッグを組んだ「スキップ・トレース」の宣伝のため、「ドリヴン」の撮影以来、17年ぶり5度目の来日を果たした。

インタビュールームに現れるや「SCREEN」を手に取って「今日は取材に来てくれてありがとう!来月の表紙は僕だって聞いているよ!」。写真撮影の前には「こんな風にソファに座る?それともこの女優(ガル・ガドット)みたいなセクシーポーズにする?」とジョークを連発(笑)。いきなりのハイテンションにその場にいた全員が大爆笑。そのままインタビューになだれ込むことに…

画像: 現在は中国に拠点を置いているという

現在は中国に拠点を置いているという

――撮影現場でもこんなふうにいつも面白いのですか?

「僕は取材を受けることが好きで、監督業の中でも特に楽しい瞬間だと思ってる。そして何より撮影現場にいることが大好きなんだ。野外でカメラがある環境が好きでオフィスに閉じこもってミーティングするのは苦手(笑)。撮影現場では子どもに帰ったようになって、あちこち走り回ってしまう。そんな中からいろんなアイデアが沸き上がってくるんだ」

――そのあたりはジャッキー・チェンさんと同じですね。

「そのとおり!そういうところがジャッキーの魅力で僕も大好きなところさ。誰よりも早く現場に来て、最後に帰るのも彼。映画作りはチームプレイだと意識しているから、誰に対してもフランクに平等に接してくれるんだ、いつも笑顔でね」

――今回のアクションシーンは、どのような役割分担で撮影されましたか?

「香港映画の場合は、アクション監督が様々な決定権を持つ香港スタイルをとるけれど、今回は僕流を貫かせてもらったよ。スタントコーディネーターはウー・ガンといって、ジャッキーと長年組んでいるベテラン。彼といろんなアイデアを交換してコラボレーションしたけれど、そもそも僕と彼とではアプローチが違うんだ。香港流は足のアップ、手のアップ、落下シーンなどを別々に撮りながら編集していく方式だけど、僕はカメラを複数台据えて長回ししたいタイプ。だからカメラアングルも事前に考えてかなり綿密に準備していった。びっしり書き込んだストーリーボードを見て、現場のみんなはビックリしていたよ(笑)。もちろん、現場で急に変わることもたくさんあったけど、僕にはしっかりしたビジョンがあったから臨機応変に対応できたし、問題なかった」

――ハリウッド流とも少し違う感じですね。

「監督の権限という観点で、今のハリウッドの問題点を教えてあげようか。今のハリウッドでは、撮影班が1~4班まであったりする。ヘタしたら第2班が本体より規模がデカかったりするんだよ(笑)。その第2班にアクションはすべて任せて映画を撮ってください、という提案をもらうこともあるけれど、僕にはこのやり方がまったく理解できない。だったらドラマの部分はウッディー・アレンみたいな監督に撮らせればいいんじゃないかと思うんだ(笑)。僕はこの方式は意味がないと思う。僕はこれまでに第2撮影班をすえたことは一度もなくて、今回もすべて自分で撮影した。僕のアクション映画監督としてのスペシャリティはそこにあると思っているからね」

――ご自分のことを、アクション映画監督と断言されるのですね。

「はい」

僕のハリウッドでのアイドルの一人はウォルター・ヒル監督なんだ

――では、作品を作る上で“レニー・ハーリン印”のようなものを意識されますか?

「もちろん。僕がアクション映画を撮るときに心がけていることは、観客に没入感を味わわせること。登場人物が高い所から飛び降りる、水に溺れる、格闘する…それぞれのシーンを観客が自分も体験しているように感じさせてシーンに引き込む。それが僕のスタイルさ。もうひとつ特徴をあげるなら、さっきも言ったようにシーンを細かく切らずになるべく長回しで撮ること。今のハリウッド映画のアクションシーンは、人物がどこにいてどう戦っているのか、物理的な立ち位置がいまいちよくわからない。アップの連続でものすごく早くショットを区切るせいで、音に頼らないと今誰が殴られているのかさえわからないところまできてしまっているんだ(笑)。僕はそれはよくないと思っている。僕は観客に混乱を起こさせないアクションシーンを撮りたいんだよ」

――以前、ウォルター・ヒル監督も同じようなことを言っていました。

「本当に?それは嬉しいな!ウォルター・ヒル監督は僕の偉大なアイドルのひとりだからね。僕は20代前半でフィンランドからハリウッドにやってきたんだけど、初めてミーティングをOKしてくれた有名監督が彼だった。彼の作品はすべて観ているし、尊敬もしている。ハリウッドのマッチョなアクション監督の最後のひとりだよね。脚本家としても素晴らしい。僕が初めて彼に会ったとき、間をとりもってくれたプロデューサーの女性が『レニーには新たなウォルター・ヒルになって欲しいのよ』と言ったんだ。そしたら彼が『今いるウォルター・ヒルも、まだもうちょっと頑張りたいんだけどな』と言ったんだよ。ボソッとね(笑)」

画像: 「スキップ・トレース」のジャッキー・チェンとジョニー・ノックスヴィル

「スキップ・トレース」のジャッキー・チェンとジョニー・ノックスヴィル

「スキップ・トレース」には有名映画へのオマージュもいっぱい

――そんなことがあったんですね。「スキップ・トレース」には、過去のアクション映画へのオマージュが見られますが。

「冒頭で水上家屋が壊れるシーンは『ポリス・ストーリー/香港国際警察』のスラム街崩壊のオマージュで、ジャッキーとジョニー・ノックスヴィルが山中でロープにぶら下がるシーンは『クリフハンガー』のオマージュ。そして2人が崖の上から飛び降りようとするシーンは『明日に向って撃て!」のオマージュだよ。冒頭のシーンは僕が特に盛り込みたくてジャッキーに相談したら『だったらこんな水辺の村があるよ』と教えてくれたんだ。今回の場合、脚本はあくまでも見取り図にすぎなくて、その場のアイデアでどんどん付け足して作り上げていくのが面白かったね」

――特に印象に残っているロケ地は?

「内モンゴルだね。草原が美しくて人々が素晴らしくて、食べ物もとても美味しかった。 僕の故郷のフィンランドにどこか似ていたのもよかった。あとはやはり桂林かな。モンゴルとは逆に蒸し暑い熱帯雨林気候だったけど、山や川や田んぼがとても美しかった」

――小数民族の娘さんたちに通せんぼされたときに、ジョニー・ノックスヴィルさんが歌ったのは「明明白白我的心」という、ジャッキーさんの有名な曲でしたね。

「あのシーンは現場での即興だったんだ。この村にはお祝いのときにああいう風習があると聞いて、その場で取り入れることにした。ジョニーがジャッキーの歌を歌って、ジャッキーが『あ、ジャッキー・チェンの歌だ』と言う。いわゆる内輪ネタだよね(笑)。ついでに追手の子分たちにも有名なポップスを振りつきで歌わせることにしたんだ。コメディの難しさはここにあるよね。どんなトーンに仕上げたいのか。どこまでいったらやりすぎなのか。今回はジャッキーの映画だからぎりぎり許されるけど、普通のアクション映画はこのような通せんぼのシーンはやらないと思う。追手がコミカルになりすぎると追跡劇のリアリティがなくなってしまうからね。笑いをとろうとして観客が逆に引いてしまうケースもあるし(笑)。でも、迷ったときは監督として自分のテイストを信じるしかない。自分が観客代表なんだという気持ちで撮影するようにしているんだ」

――韓国からヨン・ジョンフン、台湾からディラン・クオと、いろんな国の俳優をキャスティングされたのは狙いがあったのでしょうか?

「あえてそうしたわけではなく、たまたま役に一番適した俳優を選んだだけ。複数国が参加した合作映画なので、いろんな国の俳優に参加してもらうのはグッドアイデアだと思ったんだ。とはいえ、今ふりかえってみると、たしかにかなりの多国籍キャストにはなっているね(笑)。ロシアのマフィアのボスはロシアの俳優だし、その娘を演じたのは、僕の友人のフィンランドの女優だよ」

画像: 撮影エピソードを披露してくれる監督

撮影エピソードを披露してくれる監督

ジャッキーとスタローンの仲を取り持った「クリフハンガー」プレミア

――ジャッキーさんとは、20年にわたって親交がありながら、今回のコラボレーションが実現するまでに、映画の企画が何度もとん挫したと聞いています。その間、諦めなかった理由は?

「いつかそのときはやってくるはずだと信じて、辛抱強く待っただけ(笑)。2人とも映画作りが大好きだからね。実は今回の映画は僕の人生まで大きく変えたんだ。この映画をきっかけに中国に拠点を移したし、僕自身、もう3年以上北京に住んでいる。その間に複数の映画を制作して中国は僕の大のお気に入りになった。ハリウッドからも声がかかるんだけど、中国のスタッフを連れていけるならやりたい、と答えるようにしているんだ(笑)」

――それでワン・リーホン主演の中国映画『古剣奇譚之流月昭明』の監督もされたんですね。ところで監督が仲を取り持ったシルヴェスター・スタローンとジャッキーさんが共演する企画もあるんですね。

「1993年の『クリフハンガー』のプレミアに、スタローンと僕がジャッキーを招待したことがあった。そのときジャッキーは、ハリウッド流の派手な演出に目を丸くして、『これがハリウッドか!いつかは僕もこんなことができたらいいな』と思ったらしい。そんなジャッキーとスタローンが共演するんだからね。僕も期待しているよ」

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