【ストーリー】
東京の離島、美浜島。中学生の信之の毎日は美しい恋人の美花を中心に回っていた。信之は父親からはげしい虐待を受けている年下の輔から慕われていたが、ある日、その輔に人を殺めるところを見られてしまう。信之が殺した男性は、美花に乱暴をしていた男だったのだ。その夜、理不尽で容赦ない天災が島に襲いかかり、生き残ったのは信之と美花と輔、そしてろくでもない大人たちだけだった。それから25年後、島を出てバラバラになった彼らのもとに過去の罪が迫ってくる―。ある日、妻子とともによき父として暮らしている信之(井浦新)と、一切の過去を捨ててきらびやかな芸能界で貪欲に生き続ける美花(長谷川京子)の前に、誰からも愛されずに育った輔(瑛太)が突然姿を現し……。
この現場でしか経験できなかったこと
ーー共演を熱望されていたそうですが、共演される前と後で何か印象は変わりましたか?
井浦「共演するまでは瑛太くんに対して僕の中で勝手なイメージを膨らませていたんですけど、共演してからは、より瑛太くんへの興味が沸きました。撮影期間中は一緒に酒を飲んだりすることもあって彼の人間性も見えましたし、人間としても役者としても大好きになりました」
瑛太「僕がモデルをしていた頃、新さんはカリスマで…」
井浦「カリスマって(笑)」
瑛太「(笑)。でも、冗談ではなく僕にとって本当に雲の上の存在だったので、いつかご一緒できたら凄いことが起きてしまうんじゃないかと勝手に期待していました。今回ご一緒したことで、新さんのお仕事に対する向き合い方、凄く深いところで物事を見る姿勢、更に誠実でカッコ良くてひとつひとつの好きな部分がより立体的になっていきました。それだけではなく、触れてはいけないような狂気を秘めている部分も垣間見れたような気がします」
ーーそれは新さんとお芝居されていく中で感じられたということですよね?
瑛太「そうですね。あと、僕が出ていないシーンを見た時の新さんの表情に狂気を感じることもありました」
ーー普段は穏やかな信之が輔の首を絞めるシーンもありましたが、あれはアドリブだったそうですね。
井浦「あのシーン、実は自分自身が一番驚いていて、瑛太くん演じる輔によって生まれてきたものなのではないかと思ってるんです。瑛太くんと共演を望んだことはやはり間違いじゃなかったと実感した瞬間でもありました。現場でアドリブというか自然な動きが生まれることって役者をやる楽しみだったりもするんです。あのシーンも自分がこうしたいというより、輔を感じたことで自然と体が動かされたんだと思います」
瑛太「新さんとのシーンは何が起こるかわからないところで演じていたので、ただただ現場で感じて、それに対して自然と反応していたと思います。あのシーンは喜びでもあり悲しみでもあり、ある種これが愛なのかもしれないということも感じました。正直、脚本に書かれた文字から生まれてくるイメージよりも、もっと複雑というか、色んな思いが詰まった凄く良いシーンになったと思います」
ーー今作で新たに挑戦したことや、初めて経験したと感じたことなどはありましたか?
井浦「技術的なことではないのですが、輔とのシーンは僕が人間じゃなくなっていってると感じることがありました。相手の芝居を受けて、それに反応していくという感覚が人間の反射じゃなくて動物の反応になっていたというか。それはきっと野生動物が自分や子供を守る時に相手をかみ殺してしまうような本能のようなものなのではないかと。今までも何度か本能的にならないと乗り越えられないようなシーンや現場はありましたけど、今作の撮影ほど本能のままにいられるというのは、なんて幸せなことなんだろうと感じました。本能のまま虚構の中に飛び込んでいって、それが本当のことになっていくような感覚はこの作品でしか味わえなかった経験だったと思います」
瑛太「僕は基本的にお芝居は楽しむものだと思っているんですけど、今作の現場で究極の楽しみを味わってしまったかなという感じはありました。計算や頭で考えたことを超えたところに行けたというか。もちろん今までそういったことを経験したこともありますけど、ほぼ全てのシーンにおいてその快楽を得てしまったというのは新さんとご一緒できたからこそできたことであって。クランクイン前も撮影中も胸騒ぎがずっとしていましたし、ただひたすら輔を演じることが面白いと感じられたことは嬉しかったです」
ーー今作は世界的テクノミュージシャンであるジェフ・ミルズさんの音楽が印象的な使われ方をしていますが、お二人が今までご覧になった作品で音楽が印象的に使われていると感じた映画を教えて頂けますか。
瑛太「レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』の音楽の使い方が好きです。ご覧になるとわかるのですが、この映画は色んな要素が詰まっているので、音楽によってシーンごとというか、世界観を変えていくような見せ方が凄く面白いんです。音に対しての敏感さや繊細さを、カラックス監督の全ての作品から感じます」
井浦「僕は広田レオナさんと町田康さんが出演されている若松孝二監督の『エンドレス・ワルツ』。町田さんが実在する天才的サックス・プレイヤーの阿部薫役で、劇中はフリージャズが流れるんですけど、そのフリージャズの曲が全て台詞のように聴こえてくるんです。阿部薫は言葉少ない男で、そのせいか後ろで流れているフリージャズが彼の心の叫びのように聴こえるのは不思議でした。若い頃に観たのですが、“映画って凄いな”と感じた思い出の映画です」
(取材・文/奥村百恵)
監督:大森立嗣
原作: 三浦しをん
キャスト:井浦新 瑛太
長谷川京子 橋本マナミ 他
配給:ファントム・フィルム
現在公開中
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