【ストーリー】
地方都市の印刷会社で働く金山和成(窪田正孝)は、父親が友人の連帯保証人になって作ってしまった借金をコツコツと返済しながら毎月わずかな貯金をする地味な生活を送っていた。そんなある日、彼のアパートに強盗の罪で服役していた兄の卓司(新井浩文)が刑期を終えて転がり込んでくる。真面目な和成とは違って金遣いが荒く凶暴な性格の卓司に和成は頭を抱えるが、気性の激しい兄には文句のひとつも言えない。一方、親から引き継いだ会社を切り盛りする幾野由利亜(江上敬子)は勤勉で頭が良くて仕事もできるが、太っていて見た目がよくない。得意先の和成に想いを寄せる彼女の天敵は、頭は良くないがルックスが抜群で芸能活動もしている妹の真子(筧美和子)だった。複雑な感情を抱くこの二組の兄弟・姉妹の出会いを境に、それぞれの関係は大きく歪みはじめる…。
兄弟・姉妹を演じるユニークなキャスティングを語る
ーーオリジナル脚本の今作ですが、兄弟・姉妹の愛憎劇を描こうと思ったのは何故ですか?
「最初は兄弟の映画と姉妹の映画で2本考えていたんだけど、なんとなく成立しなさそうだなと思って4人一緒にしてみようかなと。男兄弟で描きたいものと女姉妹で描きたいものを合体させたほうがより際立つかなという気もしたし、より複雑な構成になるかなと思って今回のようなストーリーになりました」
ーー窪田さんと新井さんが兄弟役というキャスティングにも驚きましたが、姉妹役の江上さんと筧さんの組み合わせも面白かったです。
「女性陣がどういう芝居をするのかいまひとつ読めなかったので、窪田くんが二人を引っ張っていってくれればといいなと思ったんですよね。窪田くんも新井くんも日本を代表する役者さんで信用できる人達なので、この二人と向き合って芝居をしていたら空気感や間の取り方が掴めるはずだし、自分だけ大きい芝居はできないんじゃないかなと思って。江上さんと筧ちゃんには“男性陣についていってね”と伝えていて、そうすればきっと本人達は意識してなくても自然とドキュメンタリーっぽい芝居になるんじゃないかなと思いました」
ーー女性陣のお芝居にしっかりと引き込まれましたし、お二人ともこんなに上手なんだと知って新たな発見になりました。
「江上さんはコントとかでお芝居をされてるから上手いとは思ってたんだけど、ただコントになっては困るんですよね。でもちゃんと自分の持ち味と映画の中に流れているリアル感をいい具合に落ち着かせてくれました。筧ちゃんは芝居の経験が少ないほうだし、役の難しさから言っても一番大変だと思ったから“君には時間が凄くかかるかもしれないから、撮影の時間をかなり確保したよ”と伝えていたんです(笑)。そしたらなんとクライマックスのシーンで彼女だけが一発オッケーだったんですよ。バラエティに出ることも多いタレントさんではあるけれど、彼女の根っこは女優さんなんだなと感じました」
吉田監督こだわりのロケ地が作品にリアリティをもたらす
ーーそんな女性陣が演じる姉妹と窪田さん演じる和成はそれぞれと遊園地デートしますよね(笑)
「同じ遊園地に行って同じ乗り物に乗っちゃうっていうね(笑)。なんとなくそれぞれと同じ場所にデートに行くといいなと思ったのと、遊園地にしたのはお姉ちゃんにゲロを吐かせたかったから…かな…(笑)」
ーーそれなら飲み屋でもいいですよね(笑)
「例えば飲み屋だと女の子が吐いちゃっても自分も飲んでるからフォローできる気がするけど、遊園地デートの2個目ぐらいの乗り物で吐かれたら“この先まだ長いんだよな…”っていう感じでキツいでしょ(笑)。“気にしないよ”と言いつつも多分めっちゃその後引きずると思うから(笑)」
ーー確かに遊園地のほうがダメージが大きいですね(笑)
「ダメージを大きくしたくてやってみました(笑)。俺だったら飲み屋デートで全然いいんだけど、こじらせてる人だと“ワンチャンあるならディズニーランド!”って言ってしまう気がしません? (笑)。“ワンチャンスなら冥土の土産に夢に描いたデートをしたい”みたいな(笑)」
ーーなんとなくわかる気がします(笑)。遊園地というロケ場所もそうですが、『ヒメアノ〜ル』の時もセットではなく実際に人が住んでいる部屋を使ったりするなどロケにかなりこだわって撮影されてると以前監督がおっしゃっていました。今作で一番こだわったロケ場所はどこですか?
「姉妹が働いて生活している印刷工場です。一番最初に印刷所のロケ地を探し初めて、見つかったのは最後の最後。クランクインのギリギリで見つかったんです。印刷工場は沢山あるんですけど、機械が古い新しいとか色々とあるんですよね。あと印刷工場と母屋が隣同士じゃないと嫌で、隣の家は実際は母屋じゃないんだけど住人の方に許可を頂いて出入り口だけ使わせてもらいました。僕は同じ場所でずっと撮影してるとだんだん飽きちゃうんです。面白い場所じゃないと撮っていて嫌になっちゃうし、脚本に書かれているシーンの撮影場所でも飽きたら画変わりさせないと嫌なんですよね。だから事務所の入り口で撮る設定だったところを事務所の奥という設定に変えてしまったり。観客はあまり気にならないかもしれないけど」
ーー監督の好きな場所で撮れるというのがオリジナル脚本の良さかなと思います。
「そうですね。姉妹の仕事の設定を印刷所にしたのも画が面白くなりそうだと思ったからだし、そういう自由がきくのはいいですよね」
ーーこだわりと言えば冒頭に出てくるニセ映画の予告編『恋する君の隣には』(略して『恋とな』)の本編が気になってしまうほどちゃんと作られてましたよね。
「あれはクランクインギリギリでキャスティングもほぼ終わった段階で“シーン1はこれやってもいい?”と急に提案したんです。本当は普通に本編から始まるはずだったんだけど、急に『恋とな』を入れてみようかなと思って(笑)」
ーーそうだったんですか(笑)
「そういう無駄な努力が大好きなんです。時間とお金を無駄なことに使って本編を苦しめるっていう(笑)。『麦子さんと』の時も劇中に出てくるアニメはアニメ監督をつけてProduction I.Gという会社に『今ドキッ!同級生』というアニメを発注しましたから。アニメは凄くお金かかるから肝心な本編を圧迫させますよね(笑)。無くてもいいものを頑張って作りたくなるんです。撮影日数も18日間ぐらいしかないのに『恋とな』で丸一日使いましたからね(笑)」
ーーもしかしたらああいうキラキラ系の青春映画を撮りたいお気持ちがあるのかなと思いました。
「いえ、逆に“俺は絶対に撮らないぞ”と。あの冒頭のシーンは自分が監督した映画のCMで絶対にやって欲しくないパターンなんです(笑)」
ーー映画のCMで“感動しました!”っていうのをよく見ます(笑)。
「“感動しました!”と言ってる人の中にはタレント事務所に所属してるサクラも実は混じってるんだよということを暴露してみました(笑)」
ーーそれは業界的に大丈夫ですか?(笑)
「やっちゃダメだと思うとやりたくなるんですよね(笑)」
注目している映画監督はドゥニ・ヴィルヌーブ
ーーここからはSCREEN ONLINE読者のために監督の好きな映画のお話を伺いたいのですが、兄弟を描いた映画で印象に残っている映画はありますか?
「最近だと『フォックスキャッチャー』かな。でも『フォックスキャッチャー』はレスリングの兄弟ではなくどちらかと言うとコーチのおじさん(財閥の御曹司でレスリングのコーチも務めたジョン・デュポン)のほうをメインで描いてますよね。そう考えると兄弟に特化したものってそんなにないし、兄弟・姉妹4人が並ぶ映画って『犬猿』以外になさそうですね」
ーー確かに他にはなさそうですね。では最近注目している映画監督は?
「ドゥニ・ヴィルヌーブは凄いなと思います。ただ『メッセージ』は好きだけど『ブレードランナー2049』はそんなにピンとこなかったかな。あと『灼熱の魂』や『プリズナーズ』も凄くいい。“なんだこのセンスは!”と思ってます。グザヴィエ・ドランも僕にはないセンスを持っていて素敵だし、キム・ギドクも大好き。ギドクに関しては“そこまで突っ走っちゃダメじゃないか〜”と思うこともあります(笑)。日本でギドクのような映画は絶対に作れないですよね」
ーー今後はどんな映画を撮りたいですか?
「基本的に厭なものしか興味がなくて、例えばエイリアンが攻撃してきてもたいして怖くないけど、女の子がパッと目が覚めた時にお腹ぺっこぺこの知らないおじさんが“お腹すいた〜”ってハンマー持って立ってたらめちゃくちゃ怖いでしょ(笑)。僕の中の厭なものってそういう感じで、エイリアンの意味のわからなさは理解できるけど勝手に人の家に入ってきちゃうおじさんの意味のわからなさは恐怖以外の何ものでもない。そういう厭なものを描いていきたいですし、ただただ苦しいだけのすっごく厭〜な映画を撮ろうかなと考えてます(笑)」
ーー楽しみにしています(笑)。『犬猿』以降で公開が決まっているものはありますか?
「僕が一番好きな原作もので、まだ発表してないから言えないけどいまちょうど撮影していて年内には公開すると思います。その映画も相当ぶっ飛んでますよ(笑)。ただ、僕はいつも“愛”をテーマに描いているので、結構泣ける場面もあると思います。楽しみにしていてください!」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
監督・脚本:吉田恵輔(※吉田の「吉」は、正しくは上が土)
キャスト:窪田正孝 新井浩文
江上敬子(ニッチェ) 筧美和子
他
配給:東京テアトル
2018年2月10日(土)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
ⓒ2018『犬猿』製作委員会