【ストーリー】
主人公の森中領(松坂桃李)は東京の名門大学生。日々の生活や女性との関係に退屈し、バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っている。ある日、美しい女性がバーに現れた。女性の名前は御堂静香(真飛聖)。「女なんてつまんないよ」という領に静香は"情熱の試験"を受けさせる。それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ「Le Club Passion」に入るための試験であった。 入店を決意した領は、翌日から娼夫・リョウとして仕事を始める。最初こそ戸惑ったが、娼夫として仕事をしていくなかで、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、心惹かれ、やりがいを見つけていく。
『娼年』で経験したことは僕にとって大きな財産
ーー2016年の舞台にも同役で出演されていますが、最初にこの作品と出会った時の印象を教えて頂けますか。
「舞台のオーディションを受ける前に読ませて頂いたのですが、読み終わった時に娼夫というお仕事は凄く良いものなのではないかと感じました。もちろん世間的に言えばそれは間違っているのかもしれませんが、「娼年」という作品の中ではリョウが女性達のあらゆる欲望をしっかりと受け止めて叶えてくれます。そう考えると娼夫という仕事の見方が変わるというか。それに女性達の欲望を叶えることによってリョウ自身も成長していくので、そういった意味でも娼夫という仕事に対して考えさせられるものがありました」
ーーオーディションを受ける前ということは主人公のリョウだけじゃなく、アズマの心情にも心を重ねながら読まれたのではありませんか?
「そうですね。原作には色んなタイプの登場人物がいますが、中でもアズマは異色な性癖を持っているキャラクターなので、想像して作り上げていくのは非常に難しかったです。彼の内に秘められた思いが小説から凄く伝わってきましたし、とても儚くて繊細で少年のような人なので、どう表現すればアズマを演じられるだろうかと、かなり模索しました」
ーーアズマを演じるにあたりどんなことを大事にされましたか?
「世間的に見て異色の存在であることを彼は理解していますが、そんな自分のことをいたって普通だとも思っているんです。世間とのズレに今まで相当悩んできて重いものを抱えているはずなんですけど、それをプラスに捉えて仕事にしてしまった。そういう複雑な彼の内面をしっかりと表現できるように意識して演じていました。もちろん内面だけではなく、外見もアズマに寄せたかったので“線の細い少年のような体作り”をしながら舞台や映画の撮影に備えました」
ーー舞台と映画では見せ方がかなり違ってくると思いますが、その違いを見せるために工夫したことはありますか?
「この作品のシビアで繊細な世界観を、舞台の時はかなり大きい劇場(東京・東京芸術劇場プレイハウス、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、福岡・ 久留米シティプラザ ザ・グランドホールで公演)で表現するのは凄く大変でした。というのも、ちょっとした動きや表情で見せても遠くの席のお客様には伝わらないので、少し大きめに動かなければいけなかったからです。ところが映画の現場では舞台でやったお芝居が邪魔になってしまう。三浦大輔監督は“映画としてもっともっと細かい部分を見せたいから、あの時に作った心情を数倍深めてきてください”とおっしゃったので、舞台の時よりも更にアズマの奥深く潜り込むような役作りをして映画の現場に挑みました。舞台と違うのは、映画だと細かな表情を見せることができるので、最初に小説を読んだ時に感じた想いをそのまま表現できたのではないかなと思います」
ーー舞台版から変化したシーンなどはあったのでしょうか?
「原作ではアズマがリョウに指を折ってもらうというシーンがあるので舞台の稽古でもその場面の練習をしていたのですが、遠くにいるお客様には伝わらないんじゃないかという話になって、アズマがリョウにアイスピックで胸を切り裂いてもらうというシーンに変わったんです。僕としては“とあることのお礼としてリョウに指を折ってもらう”というあのシーンが凄く好きだったので、映画版でようやく念願が叶ってとても嬉しかったです」
ーー三浦監督の映画の現場での演出方法はいかがでしたか?
「役者の空気感を第一優先にされる方で、最初に“一本張りつめたものだけは絶対に壊さないように演じてください”と僕におっしゃって、そこから肉付けしていくような演出をされていました。三浦監督の中にもしっかりとイメージがあると思いますが、役者が持ってきたものを絶対に否定しないんです。お互いが持っているイメージをミックスして、それを役に近づけていく演出をしてくださるので心から信頼して演じることができました」
ーーリョウを演じた松坂桃李さんとの再びの共演はいかがでしたか?
「舞台版で初めて桃李くんとご一緒したんですけど、リョウという役は彼にしかできないなと思いました。それはお芝居だけじゃなくて、普段の佇まいや居方や性格も含めて、全ての人を包み込んでくれる力があるのではないかと。リョウは複数の女性と体を重ねるので、そういったシーンを演じるにはかなりの技量と人間力が必要だと思うのですが、桃李くんがリョウを演じてくれているからこそ僕も女優さんも安心してこの作品に挑むことができるんだと、映画版で再びご一緒させて頂いて改めて実感しました」
ーー今作は猪塚さんの俳優人生にとってどういう作品になりましたか?
「役者や監督、スタッフさん含めみんなが全身全霊でぶつかって作り上げたこの映画の現場で経験したことは僕にとって大きな財産になりました。今作の撮影で感じたことや学んだことを、今後も色んな現場で活かせたらと思っています」
ーー『娼年』はある意味衝撃作だと思うのですが、猪塚さんが最近ご覧になって衝撃を受けた洋画はありますか?
「沢山あるのですが、まず『新感染 ファイナル・エクスプレス』はただのゾンビ映画だと思って観たらとんでもなく感動するヒューマンドラマだったので衝撃でした。それから『ベイビー・ドライバー』は音楽と映像が絶妙にマッチしていて凄くカッコ良くて、ミュージカル映画ではないのにあんなに音楽をふんだんに使ってワクワクできる映画はそうそうないなと衝撃を受けました。そしてなんといっても最近一番衝撃を受けたのが『悪女/AKUJO』。冒頭の主観のアクションから観終わるまで全く集中力が途切れなかったんですけど、もの凄く面白かったのでお勧めです!」
ーーああいうアクションシーンに挑戦したいお気持ちは?
「大変そうですけど憧れます(笑)。『悪女/AKUJO』のようなアクションもやってみたい気持ちはありますが、僕は小さい頃にジャッキー・チェンの映画を沢山観ていたのでいつかカンフーアクションに挑戦してみたいです」
ーーでは最後に映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
「観終わったあとに心が温かくなるような内容になっていますし、自分の中に隠されていた何かを見つけられるような映画でもあるので沢山の方に楽しんで頂けたら嬉しいです」
(取材・文/奥村百恵)
脚本・監督:三浦大輔
原作:石田衣良「娼年」(集英社文庫刊)
キャスト:松坂桃李
真飛聖 冨手麻妙 猪塚健太 桜井ユキ 小柳友 馬渕英里何 荻野友里
佐々木心音 大谷麻衣 階戸瑠李
西岡德馬/江波杏子
企画製作・配給:ファントム・フィルム
4月6日(金)TOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー
(C)石田衣良/集英社 2017映画「娼年」製作委員会