最も評価が高いのはゴダール監督の超難解映画?
お天気も最初は晴天で暑いくらいだったが、中ほどから雲が出てきて雨が降り出してきた。雷も伴ったことがあり、二日は雨に濡れてしまった。でも宿泊ホテルが会場パレから近いせいもあって、小走りでの通いだった。こうなると急に黒人たちが傘を売りにパレ前やクロワゼット通りに数多く出没する。
まずはコンペティション部門での上映作では、イチオシの「ガールズ・オブ・ザ・サン」が意外と評価が低いのにがっかりと同時に腹立たしい。これまでに最も高評価なのがジャン・リュック・ゴダール監督の「イメージ・ブック」とは恐れ入った。過去の映画やニュース映像などを色付けしたコラージュ作品で、その映像を通して法に対する疑念やアラブ社会との衝突への懸念などを訴えているというが、ただ眺めていてもなかなか理解できない、相変わらず難解な映画だと思うのだが。この手の作品は理解しようと思ったらダメ、ひたすら感じるのだ。プレス会見ではゴダール自身は現れず、どこかのベッドにたたずむ彼とのスマートフォン越しのフェースタイム会見となった。
音楽を扱った2作品が好印象
それより音楽を扱った2作品がいい。一つは冷戦時代のロシアのアンダーグランドで活躍した伝説のロック歌手ヴィクトル・ツォイと先輩歌手マイク、それにマイクの妻ナターシャの恋と友情を、80年代初めに西側より遅く流入してきたロック音楽と共に描いた「レト」。監督のキリル・セレブレンニコフは自宅軟禁中で出国できず、公式上映では出演者たちによって彼の名前が書かれた看板が掲げられた。音楽とスクラッチの入ったモノクロ映像に溢れ、新しいカンヌの息吹きが感じられた。アジア系俳優テオ・ヨーも印象的だった。
もう一つは「イーダ」のパヴェウ・パヴリコフスキ監督による「コールド・ウォー」。これまた冷戦下のポーランドで、音楽舞踊団に採用された新人女性歌手と指揮&音楽家の男が出会い、パリなどで繰り広げる破滅的な恋愛を綴った悲恋もので、民族的な音楽やジャジーなメロディーなどを使い、洒落た味わい。
ジャ・ジャンクー監督の「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト」も中国の2001年から17年までの時代を背景に、やくざな男に惚れた女が彼を守るために発砲事件を起こして5年間の獄中生活を送り、出所後に再会した彼はすっかり変わっていたにも関らず愛し続けるという女の純愛ドラマ。背景にある中国社会の変化が興味深く、ジャ・ジャンクー監督らしいスケール感と純粋な愛の物語がなかなか。
そして純粋に感動したのが、エジプトのA・B・ショウスキー監督による処女作「ヨメディン」。ハンセン病患者の中年男が孤児の少年ともに、自分を棄てた家族を捜しに長い旅に出るというロードムービーだが、陸上の飛鳥選手を幼くした少年の可愛さと純な心、さらに主人公の偏見をものともしない姿勢に素直に魅せられた。さて後半戦はいかなる作品に出会えるか、楽しみである。