世界中で高い評価を受ける河瀨直美監督が、生まれ故郷である奈良県を舞台に新作『Vision』を完成させた。世界三大映画祭すべての女優賞を獲得したフランスの名女優ジュリエット・ビノシュと、ジム・ジャームッシュ監督作品など海外でも活躍している永瀬正敏をダブル主演に迎えた今作は、奈良県の吉野町で全編ロケ撮影を行って制作されたという。今作のプロモーションで来日したジュリエット・ビノシュが、河瀨監督の現場で感じたことなどを語ってくれた。

【ストーリー】
世界中を旅しながら紀行文エッセイを執筆しているフランスの女性エッセイスト・ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は、アシスタントの花(美波)と共にとあるリサーチのため奈良の吉野を訪れる。杉の木立が連立する山間で生活をしている山守の男・智(永瀬正敏)は、ジャンヌが山に入ってくるという老女アキ(夏木マリ)からの予言通り、ジャンヌと出会い、文化の壁を超え、次第に心を通わせていく。それぞれの運命は思いもよらぬ形で交錯していき…。
ジャンヌはなぜ自然豊かな神秘の地を訪れたのか。山とともに生きる智が見た未来とはーー。

画像: 河瀨直美監督の新作
『Vision』
ジュリエット・ビノシュ来日インタビュー

河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました

ーー河瀨監督は俳優が“演じること”を禁じることで有名で、撮影期間中は24時間役そのものになって欲しいというリクエストもされると聞きました。ジュリエットさんに対してもそのようなリクエストがあったのでしょうか?
「わたし自身“演技”をするのは好きではないですし、ジャンヌと自分を近づけることが必要だと思いました。ですが、単にジャンヌになりきるのではなく、しっかりと作りこむこともとても大切だったんです。何故なら24時間ずっとジャンヌではいられないからです。わたしは女優であり母親でもありますから、現場から離れたら子供のことも考えなければいけません。24時間役そのものとして生きると言えばダニエル・デイ=ルイスさんが有名ですが、私は彼のようにはなれないんですよね(笑)。もちろん人それぞれやり方がありますし、ダニエルさんはとても素晴らしい俳優だと思っています」

ーー今作の現場で印象に残ったことがあれば教えて頂けますか。
「面白かったのは、“アクション!”とか“カメラを回すから静かに”という合図が全くないので、いつ撮っているのかわからなかったことです(笑)。そういった撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました。それから、撮影現場をいかに外界から閉ざされた繭のようなものにするかを、役者やスタッフ全員が気持ちをひとつにしながら考えてやっていたことも凄く印象に残っています。役者が自由に動きながら芝居をすると、技術スタッフもその動きを懸命に追いかけていって、動物のように身体をくねらせながら全身全霊を捧げるようにリアルな瞬間を撮ろうとしていたんです。その姿を見て心から感動したので、河瀨監督のメソッドは尊敬すべきものだと実感することができました」

画像1: 河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました
画像2: 河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました

ーー冒頭のとあるシーンでジャンヌが涙を流しますが、脚本には“泣く”とは書かれてなかったと聞きました。なぜ涙を流されたのでしょうか?
「撮影期間中は森という大自然の中にいたことが大きく影響しているような気がします。あの壮大な森の中に身を置いたとき、何故だかわからないけどとても感動したんです。もちろん冒頭で涙を流したシーンは森の中ではありませんが、何故泣けてきたのか私自身も実はよくわからないんです。普段は近代的な街に住んでいるせいか、人間の手が一切加わっていない自然の中に身を置くとホッとするというか。そんな感覚を日本にいる間はずっと持っていたのかもしれませんね。シナリオは日々変わることも多かったのですが(笑)、“ビジョン”という薬草を見つけたいというジャンヌの思いは最初から一貫していますから、もしかしたらそういった思いが自然とこみ上げて泣けてきてしまったんじゃないかな、とも思います」

画像3: 河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました
画像4: 河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました

ーー今作を拝見して、もっと未来のことも考えなければいけないと思いました。ジュリエットさんは今作に出演したことで、母として、女性として、そして女優として未来に対するビジョンは変わりましたか?
「それは例えばわたしがこの世からいなくなったあとという話ならもちろん子供達のことを思いますし、それはこの作品に出演したから変わったことではなく母親として当然のことですよね。それから女優としてということで言えば、わたしのような女優は世の中に沢山いますから、たとえわたしがこの世からいなくなっても大丈夫だと思います(笑)。それよりもやはり生きているうちが大事で、とにかく女優として作品に関わる以上は観客に何か考える機会を与え、さらに感動して頂いたり、心を動かしてもらいたいんです。面白いもので、女優という仕事はお芝居しているときはパッと輝いて、プロモーション期間が終わってしまえば花火のように消えてしまうんですよね(笑)」

ーーでは最後に、ジュリエットさんは年齢を重ねても変わらずキラキラと素敵に輝いてらっしゃいます。その秘訣を教えて頂けますか。
「とにかく好奇心旺盛な性格なので、アバンチュール(フランス語で“冒険”)が大好きなんです! 同じことを繰り返す日々が嫌いと言ったほうが正しいかもしれませんね(笑)。いつでも未知のものに飛び込んでいけるようにしておくと人生がキラキラしてくると思います。自分自身で気付かなかった部分を知るためにも思いきって冒険してみるといいですよ」

画像5: 河瀨監督の撮影方法はとても新鮮で、快感でもありました
画像: 日本人キャスト達と共に6月9日に行われた公開記念舞台挨拶に登壇したジュリエット・ビノシュ

日本人キャスト達と共に6月9日に行われた公開記念舞台挨拶に登壇したジュリエット・ビノシュ

(取材・文:奥村百恵)

Vision
■監督・脚本:河瀨直美
■キャスト: ジュリエット・ビノシュ 永瀬正敏 
      岩田剛典 美波 森山未來 
      田中泯(特別出演)・夏木マリ
■配給:LDH PICTURES
■コピーライト:©2018“Vision”LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.
現在公開中

画像: 映画『Vision』予告 youtu.be

映画『Vision』予告

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