【ストーリー】
もうすぐ20歳のアンヌ(ステイシー)は、それまで予想だにしなかった刺激的な日々を送っていた。世界 中から注目される気鋭の映画監督ジャン=リュック・ゴダール(ルイ・ガレル)と恋に落ち、彼の新作『中国女』の主演を飾ることになったのだ。新しい仲間たちと映画を作る刺激的な日々、そしてゴタールからのプロポーズ。初体験ばかりの毎日を彼女は夢中で駆け抜けていくが、1968 年の五月革命が2人の運命を変えていく――
“ゴダールの作品の女性たち”あるいは“60‘sのフランスの女性”といった女性を象徴する抽象的な存在として演じました
ーー今作に出演した感想からお聴かせ頂けますか。
「初めてコメディ要素のある作品に挑戦させて頂きましたし、アザナヴィシウス監督、そしてルイ・ガレルさんとお仕事できてとても楽しかったです。ヴィアゼムスキーさんが自身の記憶をたどって書かれた原作を忠実に描きつつ、監督やスタッフ、役者陣でこの物語をいかに作ってくかということを楽しみました」
ーーヴィアゼムスキーさんを演じる上でどんなことを意識されましたか?
「わたしのフェイバリットムービーのひとつがヴィアゼムスキーさん主演の『バルタザールどこへ行く』で、もともと役者としての彼女が大好きだったんです。ただ、自伝的小説を執筆されていたことはこの作品に関わるまで知らなかったので、オファーを頂いてから原作2冊を読ませて頂きました。ゴダールと過ごした日々を綴るのはきっと痛みを伴っただろうし、それこそ恨み言のひとつがあってもおかしくないのにエレガントな形でまとめられていたので凄いなと思いました。そういった彼女の姿勢にインスピレーションを受けながら演じようと思ったので、今作の役作りのアプローチはいつもと違う素晴らしい挑戦になりました」
ーーアプローチで特にこだわったのはどんなところでしょうか?
「アンヌはあまり多くを語るほうではないので、なるべく受け身にならないようにと心がけました。それからアンヌとゴダールの間にある愛に対してリスペクトを損なわないこと。だからと言ってヴィアゼムスキーさんご本人を真似して演じたわけではなく、ユーモアやちょっとした仕草の魅力みたいなものは原作を読んで私自身が感じたままに表現するようにしていました」
ーー撮影前はヴィアゼムスキーさんとはお会いにならなかったそうですね。
「監督と話し合って会わないと決めたのですが、何故かというと今作はゴダールを描いてはいるけどゴダール作品ではなくてアザナヴィシウス作品だからです。それにヴィアゼムスキーさんにあまりルックスが似ていない私が完璧になりきろうとすると特殊メイクが必要になったり無理が生じますから。ルイ・ガレルさんはゴダールに寄せたビジュアルやお芝居をされていますが、監督はジャン=リュック・ゴダールという男性とアンヌという女性の映画にしたいとおっしゃったので、ゴダールとのバランスをとるためにもアンヌに関してはご本人そのものというより “ゴダールの作品の女性たち”あるいは“60‘sのフランスの女性”といった女性を象徴する抽象的な存在として演じるようにしたんです。そういうわけでヴィアゼムスキーさんにはお会いせずに撮影することにしました」
ーー撮影後はヴィアゼムスキーさんとお会いになられたのでしょうか?
「ええ、カンヌ映画祭の公式上映の直前にお会いしました。アンヌさんは最初にスクリーニングで今作をご覧になって、気に入ってくださったから正式上映にも出席してくださったと聞きました。面白いエピソードがあって、カンヌのレッドカーペットまで車で移動するんですけど、その移動車に乗るときに誰かが私のドレスの裾を踏んでいたんです。それでその方と“ごめんなさい”とお互いに謝り合って、顔を見たらなんとヴィアゼムスキーさんだったので驚きました(笑)」
ーー凄い偶然ですね(笑)。
「そのあと彼女と手を繋いでレッドカーペットが敷かれた階段を登ったんですけど、とても心地の良い空気が流れていましたし、彼女も今作を気に入ってくださったんだと実感することができた瞬間でした」
ーー今作に出演することで何か挑戦できたことはありますか?
「コメディ作品は初めてだったので、間の取り方など凄くテクニカルなことが必要になりました。ただ、コミカルになりすぎてもいけないのでバランスをとるのが凄く難しかったです。そのバランスを調整するためにはとりあえずやってみることが大事で、もしやりすぎていたら修正していけばいいので納得するまで何度もトライしたんです。それは私にとって大きな挑戦になったと言えます。これまでは割と自由な演技を求められることが多かったのですが、今回はそういったルールがあるなかでの演技だったので面白かったです」
ーーステイシーさんご自身はゴダールに対してどんな感情を抱きましたか?
「私はいつも演じる役柄の行いに対して良いとか悪いといったジャッジをしないようにしていて、私自身がゴダールのことをどうのと言うよりはアンヌの立場で全て考えるようにしていました。彼女はゴダールをアーティストとして愛していたと思いますが、そんな彼がどんどん変わっていってしまうんですよね。でも変わっていくことに対して怒ったりするわけでもなく、添い遂げることは無理だとわかったから別れるんです。あの若さでそういう選択をするのは勇気がいりますし、とても成熟している女性だなという印象をうけました」
ーーステイシーさんは個性的な作品を撮る監督とよくご一緒されていらっしゃいますが、最近気になっている映画監督はいますか?
「最近だと『シークレット・オブ・モンスター』でご一緒したブラディ・コーベット監督や、『TreatMe Like Fire』のマリー・モンジュという女性作家ともご一緒していて、彼らはまだ若いので今後の活躍がとても楽しみです。そして最近というわけではありませんが、『ニンフォマニアック』でご一緒したラース・フォン・トリアー監督は私にとってずっと革新的な名手の中のひとりです。カンヌ映画祭で監督の新作『ザ・ハウス・ザット・ジャック・ビルト(原題)』を拝見したのですが、監督ご本人もいらっしゃって10分間のスタンディングオベーションが起こる瞬間に立ち会うことができました。偉大なるアーティストがカンヌに戻ってきた(監督は一度カンヌ出禁になっている)ことを祝福する最高な場にいることができて幸せでした。監督は常にアートのために戦っているんですよね。それから独特なスタイルを持つクエンティン・タランティーノ監督の作品も素晴らしいですし、最近だとクロード・シャブロル監督やジョン・カサヴェテス監督の名作に出会いました。ロンドンの映画館でカサヴェテス監督やロバート・アルトマン監督の作品のフィルム上映がやっていたので観たんですけど、最高の映画体験ができて嬉しかったです。昔の作品を映画館で観られるのって素敵ですよね」
ーーでは最後の質問になりますが女優として一番大事にしていることを教えて頂けますか。
「私は作品にとって何よりも大事なのは監督だと思っています。映画は監督が役者やスタッフといった様々な色の絵の具を自由自在に使って絵を完成させていくようなものですから。例えば脚本がよくできていたとしても、監督によっては良く書かれた脚本通りにはいかないかもしれません。女優としていかにカラーパレットの一部になれるかということにいつもワクワクしますし、これからも素敵な作品や監督に出会っていけたらと思っています」
ヘアメイク:YOSHi.T (AVGVST)
(取材後記)
ミステリアスでクールなイメージを彼女に対して勝手に抱いていたが、明るく「ハロ〜♪」とステイシーが取材部屋に入ってきた瞬間にそのイメージは良い意味で覆された。ひとつひとつの質問に対して真摯に丁寧に答え、インタビューが終わるとステイシーから「私からも質問があります! 日本人の監督でこの人と仕事をしたら面白いんじゃないかと思う方がいたら教えて頂けますか?」とチャーミングな笑顔とともにインタビュアーに逆質問。いつか彼女が日本人の監督作品に出演する日が来るのを楽しみに待ちたい。
(取材・文:奥村百恵)
『グッバイ・ゴダール!』
■監督: ミシェル・アザナヴィシウス『アーティスト』
■原作: アンヌ・ヴィアゼムスキー『それからの彼女』(DU BOOKS 刊・原題『Un an apres』)
■キャスト: ルイ・ガレル『サンローラン』
ステイシー・マーティン『ニンフォマニアック』
ベレニス・ベジョ『ある過去の行方』ほか
■配給:ギャガ
■コピーライト:© LES COMPAGNONS DU CINÉMA – LA CLASSE AMÉRICAINE – STUDIOCANAL – FRANCE 3.
7月13日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開