SUGIYAMA SUPI YUTAKA
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。
魅力的なヴィランの「ヴェノム」、 これからは悪役の時代がくる!
先日、地下鉄の駅に貼られていた「ヴェノム」の大きなポスターを前に、若いお母さんが“これスパイダーマンに出てくるのよ”と子どもに説明しているところを目撃しました。お母さん、えらい!と思いつつ、アメコミ・ヒーロー物がここまで市民権を得たことにちょっと感激。でもその時、お母さんに言いたかった。“このヴェノムにはスパイダーマンは出てきませんよ”と(笑)。
そう、確かにヴェノムはスパイダーマンのコミックに出てくる敵キャラだけど、今度の映画版の「ヴェノム」は“スパイダーマンに関連するキャラ”という設定や背景を一切使わず、ヴェノムというキャラだけ切り出して、新たな物語を語るというものです。まだ映画を観ていない段階で、なぜそう断言できるかというと、コミックのヴェノムは、スパイダーマンに寄生していた宇宙生物から生まれたという設定だから、スパイダーマンの容姿をコピーしている。従ってスパイダーマンのコスチュームの胸のところにドカンとある、クモを模したマークがヴェノムの胸にもあるのです。
ところが予告等で観る限り、映画版のヴェノムにはそれがない。つまり、この映画のヴェノムはスパイダーマンから生まれた者ではない、ということがわかるわけです。スパイダーマンという人気ヒーローの看板を使わず、ヴェノムだけで勝負するというのはチャレンジャブルな気もしますが、これが成立するのは、やはりヴェノムが単体でも十分主役を張れるキャラクターだからでしょうね。
また「デッドプール」や「スーサイド・スクワッド」の興行的成功も大きいのでしょう。いずれもX-MENやバットマンから生まれたサブキャラ(敵役)ですが、“本家”の力を借りなくても大人気でしたから。そしてこれらのキャラたちがヴェノム同様、バッド・テイストというのも注目すべきポイントです。なので「ヴェノム」がヒットすれば、“ヒーロー物に出てくる悪役たちを主役にした映画”がますますさかんになるでしょう。
アメリカでは「ヴェノム」は明らかにハロウィン・ホラーを狙ってるな、と
すでにホアキン・フェニックス主演で、若き日のジョーカー、そう、あのバットマンの最大にして最凶の宿敵を描く「ジョーカー」(ロバート・デニーロや「デッドプール2」のドミノことザジー・ビーツも出演する!)が、来年公開を目指して絶賛撮影中です。
さらにマーベルは配信ドラマでトム・ヒドルストン主演による邪神ロキ様(!)のドラマ・シリーズを企画しているとのこと。ちなみに僕は昔から、東宝怪獣の中でキングギドラが好きなのですが、いつもゴジラとの共演がマスト。いつかキングギドラ単独の怪獣映画が観たい!と思っていたので、「ヴェノム」にインスパイアされて「シン・ギドラ」とか作らないかな。
もっとも今回の映画は、終始ヴェノムが悪者というわけではなく、ヴェノムがもっと悪い奴と戦う、という“ヒーロー物”になる模様。毒をもって毒を制す的なヒーロー・アクションなのですね。アメコミ・ヒーロー好きとして「ヴェノム」はもちろん見逃せませんが、本作に期待している要素がもう一つあって、それはホラー映画としての「ヴェノム」。
そもそもスーパーヒーロー映画というのは夏かクリスマスの公開が多いのに、「ヴェノム」は10月全米公開。実は9~10月というのはハロウィンが近いので、ホラー映画系が多く公開される時期なのです。「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」も秋公開でした。「ヴェノム」のポスター等のビジュアルを見たら、全然ヒーローには見えない、むしろモンスターですよね。
そもそも宇宙から来たドロドロの生物が人にとりついて怪物化させるという設定からして典型的なエイリアン・ホラー。とどめは本作の監督が「ゾンビランド」のルーベン・フライシャーだということ。明らかに製作陣は「ヴェノム」をホラー・アクション仕立てにしようとしています。というわけで今年のハロウィンの仮装はヴェノムにしました。あの口自体、ハロウィンのカボチャのようですし(笑)。