。近年の出演作で演じたクールな役柄とは違い、今作ではとびきり明るいチャーミングな笑顔を見せる小塚を演じた西島に、役への思いや実際の遊園地で撮影して感じたこと、更にオススメの映画などを聞いた。
【ストーリー】
夢と希望にあふれて、彼氏と同じ超一流ホテルチェーンに就職した波平久瑠美(波瑠)に言い渡されたのは、系列会社が運営する地方の遊園地グリーンランドへの配属辞令だった…!ふてくされながらも、“魔法使い”と呼ばれる風変わりなカリスマ上司・小塚慶彦(西島秀俊)と個性的すぎる従業員たちに囲まれる日々を過ごすうち、少しずつ働くことの楽しさ・やりがいに気づいていく。小塚に対して、憧れとも恋ともわからない感情を抱きだしたある日、久瑠美は小塚の秘密を知ってしまい…。
遊園地の裏側を知るのは面白かったですし、もっと知りたい
ーー常に明るい笑顔を絶やさない少し風変わりな小塚というキャラクターをどのように捉えて演じられたのでしょうか?
「小塚は仕事に一生懸命で、笑顔の裏ではもの凄い苦労を重ねている人です。僕自身もキツい現場が好きで、どんなに大変でも芝居を楽しんでしまうところがあるので、小塚に共感できる部分も多くて普段の自分で演じることができたように思います。近年は公安部の巡査部長とか天才的な能力を持つ医師といった非日常的な役柄を演じることが多かったのですが(笑)、今回は遊園地で働くスタッフなのである意味穏やかな現場だったのではないかなと思います」
ーー小塚の台詞で「やめろよ呼び捨ては。キュンとすんだろ!」や、「バカ、ちっげーよ」など普段の西島さんからは想像のつかない言葉遣いがとても新鮮でした。
「確かに新鮮かもしれませんね(笑)。脚本家の吉田恵里香さんが瑞々しい素敵な台詞を沢山書かれていたので、何も変えずにそのまま台本通り言わせて頂きました」
ーーあんなに笑顔の多い役も久々ですよね。
「そうですね。ただ、僕としてはぶっきらぼうでデリカシーのないキャラクターを演じたつもりだったんですけど、強烈なキャラクターを演じられた共演者の皆さんとお芝居しているうちに楽しくなってしまったのか、完成を観て“あれ? 僕ってこんなに笑ってたんだ!”と気付きまして…(笑)。結果的に小塚は自分が最初に考えていたよりも、楽しみながら喜びを持って仕事をしているキャラクターになっていました」
ーー小塚のモデルになった方にもお会いになられたそうですね。
「もの凄く二枚目で、情熱とアイデアでグイグイと人をひっぱっていくようなエネルギッシュな方でした。撮影が始まってしばらく経ってからお会いしたので、全く違うタイプのキャラクターを作って演じてしまってすみませんという感じで…(苦笑)」
ーーその方とお話して印象に残った言葉があれば教えて頂けますか。
「小塚さんは撮影で使わせて頂いたグリーンランドという実際の遊園地で以前働いてらっしゃったのですが、僕が撮影で使っていたトランシーバーを見て“この中に涙と笑いのドラマが本当に色々とあったんですよ”と感慨深げにおっしゃったんです。それがもの凄く印象的でした。園内ではトランシーバーを使ってスタッフ同士で連絡を取り合うので、きっとトランシーバーを見た瞬間に色んなことを思い出されたのではないかと。遊園地で非日常的な時間をお客様に楽しんでもらうためには裏でスタッフが様々な大変な思いをしているんだなということが伝わって、凄いお仕事だなと思いました」
ーー今作では遊園地の裏側を描いていますが、西島さんが裏側を知ってみたいと思うお仕事は何かありますか?
「遊園地の裏側を知るのは面白かったですし、もっと知りたいという気持ちになりました。今作で描かれているトラブルはごく一部であって、想像もつかないような色んな出来事があると思うので興味深いです」
ーー“1ヶ月間だけでいいからグリーンランドで働いてください”とお願いされたらどうしますか?
「お芝居を通して素晴らしいお仕事だと感じたので、やらせて頂けるなら是非! 営業中のグリーンランドで撮影している時に、沢山の人達が園内で思い切り楽しんで、そして明るい笑顔で帰っていかれる姿を見て本当に素敵な仕事だなと思いました。そう言えば、待ち時間にグリーンランドの制服を着て園内をウロウロしていても誰にも気付かれなかったので、一ヶ月バレずに働けるような気がします(笑)」
ーー波瑠さん演じるグリーンランドで働く波平は恋と仕事で揺れて悩みますが、彼女のような悩みを抱えている人に対して西島さんだったらどんなアドバイスをしてあげますか?
「本気で悩んでいるときはとても辛いと思いますけど、それを乗り越えると悩んでいた時間も大切だったんだなと気付くこともあると思います。僕はとにかく辛くてキツい現場が好きなので、積極的にそういう仕事を求めていくようなところがありますけど(笑)、辛いことを乗り越えることで大きく成長できるというか。仕事や恋愛で悩みながら迷いながら傷つきながら、それを全て楽しんでしまえるようになるといいかもしれませんね」
ーーグリーンランドで働く従業員達を柄本明さんや濱田マリさん、橋本愛さんなど個性的な役者が演じています。中でも印象深かった方とのエピソードがあれば教えて頂けますか。
「尊敬している役者の一人である柄本明さんとは以前レンタルビデオ屋で何度かお会いしたことがあります。そのときに映画の話を沢山してくださって、柄本さんオススメのオタール・イオセリアーニ監督作品を借りて帰ったこともありました(笑)。でも、ちゃんと共演させて頂くのは今作が初めてで、現場で柄本さんに“今日から宜しくお願いします!”と挨拶しに行ったら “あれ? なんでいるの?”と言われて(笑)。柄本さん流のユニークな挨拶だと思うのですが、いきなり強烈なパンチを喰らったのを覚えています(笑)」
ーー劇場はもちろん、レンタルビデオ店に通われるほど映画が大好きな西島さんからSCREEN ONLINE読者のために最近オススメの映画を教えて頂きたいのですが。
「濱口竜介監督の『寝ても覚めても』には度肝を抜かれました。脚本、演出、役者さん達の演技も素晴らしかったですし、映像、ロケーションも凄く良くて大傑作だなと。途中からどんどん“あれ? この先どうなるんだ?”と展開が読めなくなっていって、更に“こうなるの? え! まだ先があるのか!”と、とにかく驚きの連続でした。濱口監督は凄まじい才能をお持ちの方だなと思って鳥肌が立ちましたし、めちゃくちゃオススメです!!」
ーーでは最後に、西島さんが今までに大きな影響を受けた映画を教えて頂けますか。
「沢山ありますけど、2000年にビターズ・エンドさんが『カサヴェテス2000』というジョン・カサヴェテス監督の『ハズバンズ』、『ミニー&モスコウィッツ』、『愛の奇跡』を特集上映したのを観に行って、『ミニー&モスコウィッツ』の上映中に観客がみんな笑ったり泣いたりしてもの凄い一体感だったのが衝撃的で。『ハズバンズ』では一番のクライマックスシーンで思いっきり音声マイクが映っているのがOKカットになっていて、そのことに凄く感動しました。今だったらCGで消せますけど、当時はそういう技術もなかったですし絶対にこのテイクじゃなきゃダメだったんだなと思って胸がアツくなったというか。映画ってそれでいいんだよなと実感したんです。この2本の劇場体験からは大きな影響を受けていますし、そのおかげである意味遠回りをすることになった原因を作ったとも言えます(笑)。僕に夢を見させてくれた映画なので、良かったら是非ご覧になってみてください」
■スタッフクレジット
メイク:亀田雅(The VOICE)
スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI(MILD)
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』
2018年10月26日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督:波多野貴文
脚本:吉田恵里香
原作:小森陽一『オズの世界』(集英社文庫刊)
出演:波瑠 西島秀俊
岡山天音 深水元基 戸田昌宏 朝倉えりか
久保酎吉 コング桑田
中村倫也 濱田マリ/橋本愛/柄本明
配給:HIGH BROW CINEMA、ファントム・フィルム
(C)小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会