イラク戦争の大義名分である“大量破壊兵器”の存在に疑問を持ち、真実を追い続けた実在の記者4人の奮闘を描いた『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』。今作のプロモーションで来日したロブ・ライナー監督のインタビューをお届けする。

【ストーリー】
2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領はサダム・フセイン政権を倒壊させようと「大量破壊兵器の保持」を理由にイラク侵攻に踏み切ることを宣言し、イラク戦争が始まろうとしていた。アメリカ中の記者たちが大統領の発言を信じ報道するなか、新聞社ナイト・リッダーの記者であるジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)はその発言に疑いを持ち真実を報道するべく、情報元を掘り下げていくが……。

画像: 『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』
ロブ・ライナー監督来日インタビュー

私自身がいま関心を持って大切にしていることを描きたい

これまで『スタンド・バイ・ミー』や『ミザリー』などの名作を世に送り出し、近年では『LBJ ケネディの意志を継いだ男』(2016)でケネディ暗殺後に公民憲法制定に奔走するリンドン・B・ジョンソンを描くなど幅広い作品を作り続けているロブ・ライナー監督。
「イラク戦争が起きた当時から、このテーマで映画化を考えていた」とロブ監督は語り、自らナイト・リッダー社ワシントン支局長ジョン・ウォルコットを演じている。
また、ナイト・リッダー社の記者ジョナサン・ランデーを『スリー・ビルボード』(2017)のウディ・ハレルソン、同じく記者のウォーレン・ストロベルを『大統領の執事の涙』(2013)のジェームズ・マースデン、元従軍記者のベテランジャーナリストであるジョー・ギャロウェイ役をトミー・リー・ジョーンズが演じている。
監督人生34年目にして初来日したロブ・ライナー監督に、今作の撮影秘話や映画作りにおける心境の変化などを聞いた。

ーー今作では監督を務めただけでなく、非常に重要なポジションであるナイト・リッダー社ワシントン支局長ジョン・ウォルコットを演じられていますね。 
「監督デビュー作の『スパイナル・タップ』にも役者として出演していますが、自身が監督を務めた作品で大きな役を演じたのは今回が初めてです。というのも、出演シーンが多い役と監督を兼任するのはとても困難だからです。監督として現場にいる全員に目を配りながら、役者としてお芝居もしなければいけない。それって凄く大変だと思いませんか?(笑)。最初はジョン役にアレック・ボールドウィンを配役していたんですけど、NBCの長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」(SNL)で彼がトランプを演じることが決まっていたので、SNLを収録しているニューヨークから撮影スタジオに通いやすいようにスケジュール調整をしていたんです。ところがクランクインして一週間が経ったところで彼が降板することが決まってしまった。それでどうしようかなと思っていたら、妻でありプロデューサーのミシェルが“あなたがやればいいじゃない”と言ったので自分で演じることにしたんです(笑)」

ーーご自身のお芝居をジャッジするのは難しいですよね?
「それはもう…最悪ですよね(笑)。芝居が終わったらモニターまで走ってプレイバックを見て、そのシーンがちゃんと成立していれば次のシーンにいくという判断をしていました」

画像1: 私自身がいま関心を持って大切にしていることを描きたい
画像2: 私自身がいま関心を持って大切にしていることを描きたい

ーー実話をもとにした作品ということもあって、ジョン・ウォルコットさんご本人も現場を訪れていたと聞きました。ジョンさんとはどんな話をされましたか?
「今回は実在する記者4人全員が製作の全ての過程で密接に関わってくださいました。改稿するたびに脚本も読んでくださいましたし、撮影現場にも毎日のように来てくださって色々と話すことができたんです。劇中でジョン・ウォルコットが部下達を激励するシーンがありますが、あれは最初脚本にはなかったもので、撮影現場を訪れていたジョナサン・ランデーさん(国家安全保障担当の特派員でご本人)が、隣りにいたジョンさんに“あの日こういうこと言ってなかった?”と聞いて、“そういえば言っていたね”とジョンさんが返事をしていたのを見て、それをそのまま劇中の台詞として盛り込ませてもらったんです」

ーーということはジョンさんの台詞である「我々は我が子を戦争にやるものたちの味方だ」も実際にご本人が発した言葉ということですか?
「もちろんジョンさんご本人が当時発した言葉です。彼らは“他人の子供が戦地に行くのをただ見ている人のためではなく、自分の子供を戦地に送らなければならない人”のために記事書いているのだということを意識していたそうで、そんな気持ちで正義を持って戦っていたと言っていました」

Photo by Tsukasa Kubota

ーー今作を観て“真実を伝えることの大切さ”に改めて気付かされましたが、監督は『スタンド・バイ・ミー』や『ミザリー』といった長年愛され続けている作品、そして近年は『LBJ ケネディの意志を継いだ男』や今作など社会的なメッセージ性のある作品を撮られていますよね。長いキャリアを通して何か心境の変化などがあったのでしょうか?
「もともと政治には関心を持ち続けてきましたが、年を重ねたいまは自分が感じていることを表現したいという気持ちが強くなっているんです。なんと言っても余命が少なくなってきていますから(笑)。それは必ずしも商業的な作品にはならないかもしれないし制作費を集めるのが困難かもしれない。でも、私自身がいま関心を持って大切にしていることを描きたいんです。世界は非常に多くの問題を孕んでいますよね。だから作品を通して良い世界にしていきたいと思っています」

ーーこれからもどんどん色んな作品を撮り続けて頂きたいです。
「長生きできるように頑張ります(笑)」

Photo by Tsukasa Kubota

ーー最後に、『スタンド・バイ・ミー』に関してもお話を伺いたいのですが、この映画は30年以上も世界中で愛されています。監督にとって『スタンド・バイ・ミー』という作品はどのようなものですか?
「『スタンド・バイ・ミー』は私の感受性や性格に一番近い作品です。メランコリックだしユーモアも入ってますからね(笑)。今まで手掛けた作品の中で“ベスト”と言えるかどうかはわからないけど、私にとって一番意義深い作品で、私自身を大きく変えた作品でもあります。というのも、父のカール・ライナーは50年代に風刺的なテレビシリーズに出演していて、その影響なのか僕が手掛けた『スパイナル・タップ』や2作目の『シュア・シング』も少しだけ風刺的な面を持っています。それで父と全く違うテイストのもの、つまり自分自身に近い作品として3作目に『スタンド・バイ・ミー』を撮りました。その結果『スタンド・バイ・ミー』は多くの人達に受け入れてもらうことができました。それは私にとって凄く大きな出来事だったんです。当時すでに30代でしたけど、『スタンド・バイ・ミー』の少年達が経験したような大人になる瞬間を、私もあの作品で経験しているんですよ」

Photo by Tsukasa Kubota

今後は9人の最高裁判事を描いたジェフリー・トゥービン原作の『ザ・ナイン アメリカ連邦最高裁の素顔』というノンフィクション作品と、JFKの暗殺に関するテレビシリーズの企画を進めているというロブ監督。インタビュー中はリラックスした雰囲気でどんな質問にも気さくに、そして丁寧に答えてくれた。そんなロブ監督の新作を楽しみに待ちたい。

(インタビュアー・文/奥村百恵)

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督:ロブ・ライナー
出演:ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン
   ジェシカ・ビール、ミラ・ジョヴォヴィッチ
   ロブ・ライナー、トミー・リー・ジョーンズ他
配給:ツイン
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画像: 『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』予告編 youtu.be

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』予告編

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