今作のプロモーションで来日したフランツ・ロゴフスキの来日インタビューをお届けします。
【ストーリー】
内気で引きこもりがちな27歳のクリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)は、ある騒動の後に建設現場での仕事をクビになってしまう。在庫管理担当としてスーパーマーケットで働き始めたクリスティアンは、レジでの雑踏やフォークリフトなど、自分にとって全く未知の世界に放り込まれるのだった。そこで飲料セクションのブルーノ(ペーター・クルト)と出会い、彼から仕事のいろはやフォークリフトの操縦の仕方を教えてもらったクリスティアンは、ブルーノを父親のように慕っていく。ある日スイーツセクションのマリオン(ザンドラ・ヒュラー)と出会ったクリスティアンは、彼女の謎めいた魅力に一瞬で惹かれる。コーヒーマシーンが置いてある休憩所で二人は親密になっていくが…。
フィクションで描かれている人物より
“人間そのもの”を見ることを大事にしています
本作は、旧東ドイツ生まれのクレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」を映画化したもの。同じく、旧東ドイツ生まれのトーマス・ステューバー監督は、マイヤーの短編「犬と馬のこと」を2012年に中編作品として映画化し、ステューバー監督の初長編映画『ヘビー級の心』(15/Netflixにて配信)ではマイヤーと共同で脚本を執筆。そして本作も2人の共同脚本作である。
主人公のクリスティアンを演じるのは、全編140分ワンカットで撮影された『ヴィクトリア』(16年)やミヒャエル・ハネケ監督の『ハッピーエンド』(18年)で注目されたドイツ人男優フランツ・ロゴフスキ。
今作で内面にさまざまな葛藤を抱える寡黙な青年を好演し、第68回ドイツアカデミー賞主演男優賞を受賞している。
ーークリスティアンは寡黙で口下手なキャラクターですが、フランツさんの目やちょっとした表情から彼の感情がしっかりと伝わってきました。どんなことを意識して演じられたのでしょうか?
「演じるというのは反応することでもあって、ワンシーンワンシーン相手(共演者)の話を聞くことが大事なんです。何故ならクリスティアンも職場の先輩であるブルーノの話をよく聞いていたから。もちろん今作に限ったことではなくて、人間を演じるということはどんな役であれ人の話を聞くことが重要だと思っているんです。今作の撮影でもとにかく相手の話を聞くことを意識して演じるようにしていました。それから口下手なクリスティアンのことをお客さんによく観察をしてもらいたいという思いもありました。全てを言葉で説明するのではなく、観る人がクリスティアンをじっくりと観察して何かを感じ、それぞれの解釈でこの映画を観てもらいたいと。クリスティアンは本当に魅力的な役で、だからこそ演じてみたいと思いました」
ーー劇場にも足を運んでクリスティアンをじっくり観察してみますね。
「ありがとうございます。劇場で観てもまだ観察しきれなかったらDVDを送りますよ(笑)」
ーーいえいえDVDも買わせて頂きます(笑)。巨大スーパーで働くクリスティアンはフォークリフトで商品が入ったケースなどを運んでいましたが、フランツさんはフォークリフト講座を三日間学んで撮影に挑まれたそうですね。フォークリフトの乗り心地はいかがでしたか?
「それが、フォークリフトのハンドルは左に回すと右に行って、右に回すと左に行くので凄く難しいんです(笑)。でも、その場でクルクルと回転できたのは楽しくて、車でそれができたら最高なのになんて思いながら楽しく運転していました(笑)。映画の後半ではクリスティアンがかなり乗りこなしているので、それが自然に見えるように待ち時間など暇さえあればフォークリフトの運転と操縦の練習をしていました」
ーーかなり高い場所に箱を積み上げるシーンもありましたが怖くなかったですか?
「気をつけなきゃいけないのは、物を乗せていないフォークリフトのほうが乗せているときよりも危険だということ。例えば角を曲がるときに物を乗せていないと重心が不安定で倒れてしまう可能性があるんです。だから何も乗せてないフォークリフトを見たら危ないので逃げてくださいね(笑)」
ーー気をつけます(笑)。劇中で「美しく青きドナウ」や「G線上のアリア」などクラシックの名曲が流れますが、撮影中に実際に音楽を流すこともあったのでしょうか?
「撮影を始める5分ほど前にクラシックを流して軽くリハをしていました。それはシーンの雰囲気を掴むためです。でも撮影中は音楽は止めていました。ヒップホップが流れているシーンもありますが、あれは撮影後の編集段階で足しています。実はあそこでヒップホップが流れることをしらなかったので、完成を観て良い意味で驚きました。最後に流れるSon House のブルース「GRINNIN’IN YOUR FACE」は編集者が提案したらしいんですけど、この曲を監督が気に入って使ったと聞きました。エンディング曲になっているカナダのゴシックフォーク・グループ、ティンバー・ティンバーの「Moments」も撮影後に作られたものだそうです。今作は音楽の使い方も面白いですよね」
ーーちなみにフランツさんだったらどんな音楽を流してフォークリフトを運転したいですか?
「僕は静寂さや無音、そして生活環境の中で自然に鳴っている音が好きなんです。だから音楽は流さずに運転したいですね(笑)。普段は車じゃなくて自転車に乗ってるんですけど、そのときも音楽じゃなくて風の音を聴いています」
ーー自然の音をBGMにしているフランツさん、凄く素敵です!
「ありがとうございます。環境音はオススメです(笑)」
ーー自転車に乗って風の音を感じるようにしてみます。
「是非! ベルリン市内って車だとどこに行くにも凄く時間がかかってしまうので、公共機関や自転車で移動したほうが早いし環境にもいいんです。親の世代だとベンツに乗ることが男のステイタスみたいな感じですけど、僕らの世代は自転車に乗っているほうがカッコイイんですよ」
ーー話は変わりますが、ザンドラ・ヒュラーさん演じるマリオンとクリスティアンのシーンが凄く好きでした。誕生日ケーキや冷凍倉庫での鼻先でのキスシーンなど、スーパーの中なのに何故かとてもロマンティックで(笑)。フランツさんのお気に入りのシーンを教えて頂けますか。
「スーパーの中でのロマンティックなシーンは全て好きなので、あなたと僕は趣向が似ているみたいですね(笑)。でも一番のお気に入りはクリスティアンが初めてフォークリフトに乗るときにヒップホップが流れるシーンです」
ーー物語の終盤に、ある悲しい出来事が起こりますが、何故あのようなことになったのだと思いますか?
「人間同士というのはお互いに完全に理解し合うのは不可能ですよね。誰しもが秘密を抱えていて、いくら親しい間柄でも本当は何を考えていたのかというのは本人以外誰もわからない。映画を観ていればあの出来事の原因の予想はつくと思いますけど、解釈しすぎるのは危険なことで、それは映画じゃなくて実際に自分の人生においても同じだと思うんです。人のことを分かった気になってはいけないんですよね」
ーー本当にそう思います。この映画ではクリスティアンが人との出会いによってだんだん変わっていきますが、フランツさんは今までに誰かの影響でお芝居の仕方が変わったとか芝居に対する考え方が変わったといったことはありましたか?
「僕は音楽を聴くより環境音を、写真を見るより目の前の世界や風景を、フィクションで描かれている人物より“人間そのもの”を見ることを大切にしていて、常にリアリティを参考にしています。だから何かや誰かに影響を受けるといったことはないですね」
ーーでは最後にSCREEN ONLINE読者のためにフランツさんにとって思い出深い映画を1本教えて頂けますか。
「映画を観る喜びは、世界の視点の違いを発見できるところにあると思っていて、同じテーマや同じストーリーのものがいくつかあったとしてもそれぞれの視点で描かれていて解釈はひとつではないですよね。そういった違いを発見するのが面白いので世界各国の様々な映画を沢山観るようにしています。何が言いたいかというと、1本に絞るのは難しいってことです(笑)。でもあえて挙げるなら『フォレスト・ガンプ/一期一会』。一番最初に気に入った映画なんです。好きな映画って毎年増えるので、どんどん選べなくなっていくんですよね(笑)」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『希望の灯り』
4月5日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
監督:トーマス・ステューバー
原作・脚本・出演 クレメンス・マイヤー
出演:フランツ・ロゴフスキ、サンドラ・フラー
ペーター・クルト、アンドレアス・レオポルトKUNZE-LIBNOW 配給:彩プロ
©2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH