「ポケモンは"カワイイ"という要素が重要です」
映画に登場するポケモンの数は数千頭、登場する種類は54種。そんな膨大な数のポケモンたちを、まるで現実に存在するかのように描き出した監督は、ロブ・レターマン。ファンタジー映画の名手で、ジャック・ブラック主演で名作小説を映画化した『ガリバー旅行記』や『グースバンプス モンスターと秘密の書』などを手がけた監督だ。そして彼にはポケモン映画を監督する下地があった。
「私はハワイで生まれて、幼い頃から西洋文化と東洋文化の両方に触れながら育ちました。小さい頃から日本のポップカルチャーにも親しんでいたんです」
しかしそんな彼でも、ポケモンの実写化には緊張したという。
「すごくプレッシャーがありました。ファンの年齢層は子供から大人まで、幅広い。とくに今20~30代のポケモンと一緒に育ったファンたちは、実写映画になることをとても真剣に受け止めている。すべてのファンが納得のいく映画にしたいと思いました。
監督に決まってまず最初にしたことは、日本に来て株式会社ポケモンをはじめとしたポケモン関係者の方々にお会いすることでした。コンセプト作りの段階から、ゲーム用3Dモデルの製作ディレクターの氏家淳子さんと直接話して、それぞれのポケモンをどう解釈してどういう形にすればいいのか、細かく相談しながら進めて行ったんです。それから約2年半かかって、やっと映画が完成しました」
そして、彼には心強い味方がいた。それは本作のスタッフたち。
「スタッフのほとんどはアメリカ人ですが、彼らの90%はポケモンのファンなんです。だから、彼らと一緒に納得のいくものを作ればいいわけです。今や世界中の人たちが、ポケモンと一緒に育っているんですよ」
もちろん、意識したのはファンたちだけではない。
「ストーリーを大切にしました。笑えて、アドベンチャー要素もあって、そして感動する部分のある物語でなくてはならない。それと"絆"を描くこと。ティムとピカチュウの絆、ティムと父親の絆を描く、力強いストーリーを目指しました」
本作は映画の一部で、ポケモンたちを'50年代の犯罪映画"フィルム・ノワール"のような世界で描いたところも魅力的。このコンセプトは、製作のレジェンダリー・ピクチャーズが目指したもの。監督が本作に参加した時点で、ゲーム「名探偵ピカチュウ」をベースにした映画であることと、ピカチュウが探偵なのでフィルム・ノワール的な世界観を描くことは、既に制作側が決めていたという。しかし、それを魅惑的な映像に仕上げたのはレターマン監督の手腕だ。
「そのコンセプトに沿いながら、自分の大好きなさまざまな映画をパレットに並べて、それで画を描いていくように映画を作っていきました。パレットに並べたのは、まず『第三の男』などモノクロの古典的なフィルム・ノワール映画。それからフィルム・ノワールを意識した70年代のネオ・ノワールも。
『ブレードランナー』も僕にとってはフィルム・ノワールです。それに日本のアニメ『AKIRA』、僕はあのアニメを見て育ちました。あの映画に出てくる都市、"ネオ東京"の色調は重要です。あの超高層ビル群も。そして『2001年宇宙の旅』などのSF映画。70年代の探偵映画や警官映画のギラギラした映像。黒澤明監督の『天国と地獄』。そういう映画をすべて参考にしました」
そして注目なのは、54種類のまるで生きているようなポケモンたち。彼らはさまざまな理由から選ばれた。
「まず、ストーリー上で必要なポケモンがいます。それから新しい世代の好きなポケモン、古いファンが見て思い出深いポケモンも。
加えて、技術的な観点も必要でした。VFXスーパーバイザーのエリック・ノルディーと一緒にリストを見ながら、実写化したときにイメージ通りで、かつ実際に生きているように見えるポケモンを選んだんです。特に彼らの体表は複雑で、それが実写で描けるかがポイントになりました。
ポケモンの体表の質感はすべて、動物、植物、鉱物など自然界にあるものの質感を使っているんです。だから彼らが現実に存在しているように見えるんですよ。
それに(日本語で)"カワイイ"という要素も重視しました。ピカチュウは毛がある方が、カワイイ、抱きしめたい、という感じになるので、毛がある形にしました。体毛がないと、黄色い風船のように見えてしまうんです」
そのようにして登場するポケモンは厳選されたが、中にはごく少数だが、監督が好きで登場させたポケモンもいる。
「個人的に登場させたかったのは、バリヤードです。ものすごく奇妙なキャラクターですが、笑えるんですよ。うまく実写化できるか心配でしたが、短い映像を作って見せたら、みんなが気に入ってくれました。
それと、コダック。僕に似ているんです。僕も混乱したりストレスが溜まったりすると、頭が爆発しそうになるから(笑)」
『名探偵ピカチュウ』
世界中であらゆる世代に愛される“ピカチュウ”がハリウッドで初の実写映画デビュー。見た目はかわいいけど、中身はおっさん?な名探偵ピカチュウが、ライムシティを舞台に難事件に挑む。長い間会っていなかった父ハリーが亡くなったという知らせを受けた青年ティムがライムシティにやって来て、偶然出会った記憶喪失のピカチュウとコンビを組み、ハリーを巻き込んだ謎の事件の真相に迫っていくが……ピカチュウの声をライアン・レイノルズが演じ、ティム役のジャスティス・スミスのほか、キャスリン・ニュートン、渡辺謙らが共演。監督・脚本はロブ・レターマン。
2019年5月3日(金)より全国公開。配給:東宝
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