【ストーリー】
アメリカ・ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は、自分が周りの人間と何一つ変わらない普通の大人になりかけていることを感じていた。そんなある日、二人は大学図書館に時価1200万ドル(およそ12億円相当)の超える画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知る。「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」そう確信したウォーレンとスペンサーは、大学の友人を巻き込み、『オーシャンズ11』や『レザボア・ドッグス』、『スナッチ』などの犯罪映画を参考に強盗計画を立て始める。
エヴァンとバリーは芝居に対するアプローチが全く違いました
衝撃の実話の今作を手掛けたのは、ドキュメンタリー映画『The Imposter』で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞し、長編ドラマとしては本作が初監督作品となるバート・レイトン。
事件を起こした本人たちを劇中に登場させ、ドキュメンタリーとドラマを見事に融合したことでセンセーショナルな作品を誕生させた。
バート・レイトン監督がSCREEN ONLINEの単独インタビューに応じ、今作の撮影秘話やキャストについて、更に影響を受けた映画などを語った。
ーー試写会イベントに登壇された際に、「“実話に基づいた映画”ではなく“実話”です」とハッキリおっしゃっていて、更に実際に事件を起こしたウォーレン・リプカやスペンサー・ラインハード達が劇中に登場するという演出もありました。監督が“実話”にこだわる一番の理由を教えて頂けますか。
「まず、この話を知って“あり得ないようなこと”だなと思いました。だからこそ映画化する際にはできるだけ正確に描く必要があったのですが、劇中で大学生の彼らが犯行を思いついた時、これまで観てきた犯罪映画の世界に入り込んでしまっているが故にファンタジーな計画を企てていきますよね。だけど実際に起こった事件なので、“これは実話ですよ”と強調させる部分がないといけないと考えました。それをふまえた上で構成を練って、ドキュメンタリーとフィクションであるドラマの部分を融合させる手法をとってみたんです」
ーー監督はドキュメンタリー映画『The Imposter』を撮られているので、そのアイデアを思いついたのは必然だったのかもしれませんね。
「そうかもしれません。ドキュメンタリー作品は、観た人に大きな影響を与えてしまう。例えばバイオレンスな要素のあるドキュメント作品は本当に人が血を流したり、実際に人に向けて銃が発砲される場面が出てきてショックを受けることも多いです。なので実話を描いた今作ではあえてドキュメンタリーの要素を入れて、ストーリーやキャラクターに観客がより深く感情移入できるようにしたんです。それは実験的な挑戦ではありましたが、あまりにもエンタメ的要素やファンタジー要素が強いと“これは直接自分に関係のない話だ”と思ってしまうので、観た人にリアルに感じてもらって何かしらの影響を与えられるように“実話”にこだわって作りました」
ーースペンサー役のバリー・コーガンとウォーレン役のエヴァン・ピーターズは個人的に大好きな俳優なので、二人の共演を今作で観ることができて嬉しかったです。彼らとお仕事をされてみていかがでしたか?
「彼らは芝居に対するアプローチが全く違ったので興味深かったです。エヴァンは個人的なリハーサルを重ねてしっかりと準備をするタイプで、色んなアイデアを持って現場に来ていました。いっぽうバリーは深く考え過ぎるタイプではなく、現場で感じたことを大事にしながら芝居していました。正反対のアプローチをする二人の芝居は本当に素晴らしかったです」
ーー二人はアドリブをすることもあったのでしょうか?
「アドリブはほとんど出なかったのですが、事前に彼らから“こういう台詞に変えてみたらどうでしょうか?”という相談が結構あったので、それを脚本に反映させたりしました」
ーー大学の図書館から世界的に価値のある「アメリカの鳥類」をウォーレン達が盗んで逃げるシーンはハラハラしました。監督にとって撮影が最もスリリングだったシーンを教えて頂けますか?
「いまおっしゃったシーンの撮影は現場が最も緊迫していたと思います。というのも、今作において非常に重要なシーンであり、できるだけ事実に基づいて撮影したいと考えていたからなんです。そのためにはカメラを自由に動かさなければいけなかったので、出演者やスタッフが怪我をしないように細心の注意を払いました。また、図書館員の女性が強盗時に襲われるシーンも正確に描かなければいけなかったので、現場は緊張感に包まれていましたね。とにかくスムーズに撮影が進むように徹底的に綿密な計画を練ることが必要でした。観客同様に僕自身も撮っていて最もハラハラしたシーンだったと思います(笑)」
ーー実際に襲われた図書館員の女性が「この映画を観て彼らのことを許せると思った」とおっしゃったそうですね。映画化するにあたり、彼女の心情を一番に気遣ったとお聞きしました。
「彼女は被害者ですから、きっちりと承諾を得て進めることは今作にとって非常に重要でした。それから当然ながら最初は彼女の出演交渉にも苦戦しました。でも出演することを承諾してくださったので、撮影をして、いち早く完成したものを観て頂いたんです。そこでもし彼女が“ここは変えて欲しい”と言ったら編集を加えて別の作品が完成していたと思います。彼女が今作に満足してくれることが大切だったので、そこは最優先しました。その結果、”4人を許すことができた”と言ってくれたことは凄く嬉しかったです」
ーー監督も若い頃にリスクを犯してでもチャレンジしてみようと無謀なことをした、または計画したことはありますか?
「大学生の頃は色々とバカなことをやりましたよ。でも法は破ってないです(笑)」
ーー(笑)。普段はどういうところからインスピレーションを得ていますか?
「アイデアの源はひとつに絞れませんが、新聞や雑誌、映画やラジオなどからインスピレーションを得ています。中でもラジオが好きでよく聴くのですが、BBCという放送局はストーリーやアイデアの宝庫です。もちろん映画もよく観ますよ。写真や音楽、演劇や小説など色んな芸術が融合されているのが映画ですよね。だから僕は映画を作る道を歩み続けているんだと思います」
ーーでは最後に、監督が大きな影響を受けた映画を教えて頂けますか。
「70年代の映画が好きなのですが、当時の作品は本当に素晴らしいです。シドニー・ルメット監督(『狼たちの午後』『オリエント急行殺人事件』など)やシドニー・ポラック監督(『トッツィー』『愛と哀しみの果て』など)の作品、それからマーティン・スコセッシ監督(『タクシードライバー』など)やフランシス・フォード・コッポラ監督(『ゴッドファーザー』など)といった今の若手監督が影響を受けているような監督の作品をよく観ていました。あとクラシック映画も沢山観ています。黒澤明監督の作品はもちろんですが、主にアメリカ映画を観て育ちました。それらの作品から大きな影響を受けたと思います。ちなみに『アメリカン・アニマルズ』は、アル・パチーノ主演の『狼たちの午後』を主演の4人にも観てもらったんですよ。色々と参考にした部分もあるので、よかったら『アメリカン・アニマルズ』を観たあとにそちらも鑑賞してみてはいかがでしょうか」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
『アメリカン・アニマルズ』
2019年5月17日(金)より
新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督・脚本:バート・レイトン『The Imposter』(英国アカデミー賞受賞)
出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018