2014年にドン・チードル主演のドラマ「ハウス・オブ・ライズ」でエミー賞の美術賞を受賞したロサンゼルス在住の日本人アートディレクターChikako Suzuki。今年の11月に日本の映画製作者や役者、脚本家などの素晴らしい才能を直接ハリウッドに紹介することを目的とした映画祭「Japan Cuts Hollywood」を開催するという彼女のインタビュー第二弾をお届けする。

メンタルをやられるような職場環境ではないですけど、体力的にはキツいです(笑)

Chikako Suzukiはエミー賞を受賞した後にドラマ「エージェント・カーター」のセットデザインや「ニュースルーム」、マーベルドラマ「マーベル ランナウェイズ」、J・J・エイブラムス製作の映画『オーヴァーロード』などの美術監督を務めてきた。

SCREEN ONLINEでは彼女に独占取材を敢行し、ハリウッドで仕事をすることになったきっかけや、アートディレクターの仕事について、映画祭の詳細等興味深い話をインタビュー第一弾で紹介した。
インタビュー第二弾では、ハリウッドの現場の様子やオクタヴィア・スペンサーとの交流秘話、いつか仕事をしてみたい監督などを聞いた。

ーー日本では今月10日にJJエイブラムス製作の映画『オーヴァーロード』が公開されたのですが、そちらにもアートディレクターとして参加されているそうですね。

「J.J.エイブラムス率いる制作会社バッド・ロボットの仕事はよくしていて、去年はJ.J.が製作した『オーヴァーロード』という、第2次世界大戦時のナチス占領下のフランスの小さな村を舞台にしたサバイバルアクション映画に参加しました。映画はほぼイギリスで撮られているんですけど、あとで撮り直しや付け足しがあったので、それをロスで撮ったんです。その時にお手伝いさせて頂きました」

画像: 『オーヴァーロード』特報【2019年5月10日(金)公開】 youtu.be

『オーヴァーロード』特報【2019年5月10日(金)公開】

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ーーマーベルの「エージェント・カーター」(2015年〜2016年)や「マーベル ランナウェイズ」(日本では2018年4月より配信されている)も参加されていたのですよね?

「やらせて頂きました。マーベルはご存知の通りアベンジャーシリーズなど大きなコンテンツも多いので、とてもセキュリティがしっかりしているんです。例えば関わっている作品は本当のタイトルではなく違うタイトルで共有したり。「エージェント・カーター」のときはそこまで厳しくなかったですけど、「マーベル ランナウェイズ」に参加したときは最初に携帯の暗証番号を変えさせられました(笑)。

それから関係者しか使えないようなプログラムを私のパソコンに入れて、そのプログラムのメールシステムしか使ってはいけないというルールもありました。それがまたダサいシステムで使いづらくて(笑)。しかもオフィスに窓がないという徹底っぷり。マーベル作品を撮影中の役者さんは、着ているコスチュームが外から見えないように黒いマントを着て移動してるんです(笑)」

画像: Huluプレミア「マーベル ランナウェイズ」予告編 youtu.be

Huluプレミア「マーベル ランナウェイズ」予告編

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ーー仕事をする時の契約も大変そうですね(笑)。

「どの会社と仕事するにも最初に契約書を書かなければいけないんですけど、特にディズニーは厳しいです。とにかく書類の量が多いので、だんだんいい加減なサインを書くようになってきました。CHIKAKOと書かずにCHIだけとか(笑)」

ーー働く環境はどの作品の現場も快適ですか?

「メンタルをやられるような職場環境ではないですけど、体力的にはキツいです(笑)。アジア人差別も受けることはなく基本は良い環境で働いてるのですが、ごくたま〜に女性全般が嫌いなプロデューサーはいます。女性に対してやたら失礼な態度や言動をとってくるとか(笑)。ただ、最近はMeTooムーブメントのおかげでかなり変わってきてると思います」

ーー女性スタッフも多いですか?

「去年Appleが手掛ける独自製作ドラマの第一作目「Truth Be Told(原題)」(キャスリーン・バーバーの同名小説をドラマ化したもので、犯罪情報を提供するポッドキャスト番組を舞台にした作品)に参加したんですけど、この番組のプロダクションはクリエイターが黒人の女性で、主演がオクタヴィア・スペンサーなので女性スタッフを多く起用していて、ロケバスに乗ってもプロデューサーの男性1人を除いてあとは全員女性スタッフでした。大抵の現場は男性スタッフの中に女性が2人ぐらいなんですけど、この現場では女性が多くて、色んな国籍の人もいて楽しかったです」

画像: メンタルをやられるような職場環境ではないですけど、体力的にはキツいです(笑)

ーーオクタヴィア・スペンサーさんとお仕事されてみていかがでしたか?

「オクタヴィアと仕事をするのは2度目でしたが、いわゆる裏方を支える全てのスタッフを大切にする方でした。美味しいハンバーガーのフードトラックをスタジオやロケ先にケータリングとして差し入れしてくれたりすることもありましたし、とにかく現場が盛り上がるようにしてくださいました。ハリウッドでは毎週金曜日にセットの中でスタッフもキャストも全員が5ドルずつバケツに入れて、最後にくじ引きをして当たった人がそのバケツに入ったお金を全部もらえるということをやるという習慣があるんですけど、この現場でもやっていました」

ーー全員でやれば1人5ドルでも割と良い金額になりますよね?

「そうなんです(笑)。それで、クランクアップの時に“バケツの金額を大きくしましょう”ということになって、オクタヴィアや他の役者さんも協力して莫大な金額に増やしてくれたんです。Appleの番組なのでオクタヴィアがAppleと交渉してApple商品まで貰ってきてくれて(笑)。

そう言えば最後はバケツには入れずに1人ずつ5ドル札を持ってオクタヴィアに直接渡しに行ってましたね。彼女が刑務所のセットの面会室の中で座って待ってるんですけど、机の上に札束がドーンと積み上げられていてあってめちゃくちゃ怪しい光景でした(笑)。わざとあの場所にしたのかもしれませんね(笑)。

それで結局、総合12万ドル(12万ドル、1300万円)ぐらいになったんですけど、個人ではなく美術部と大道具として参加したら両方当たったんです。色んな部署の人達が当たっていて、私は二つの部署の配当金をみんなで分けて、それぞれ1万円ぐらいずつ頂きました」

ーーどのぐらいのスタッフが関わってましたか?
「だいたい一つの番組で100人のスタッフは参加してるので、そのぐらいの人数は参加していたと思います」

ーー色んな方々とお仕事されてきたChikakoさんですが、いま一番お仕事してみたい監督は誰ですか?
「いつかクエンティン・タランティーノ監督と仕事がしたいです。前にチャンスがあったんですけど、伸び伸びになってしまって頓挫してしまって。あれは残念でした。タランティーノが今度『スター・トレック』の新作映画を手掛けるみたいで、ものすっごく観たいです!!

あとウェス・アンダーソン監督も好きです。彼が作る映画って凄く細かいところまでこだわって作っていて毎回凄いなと感心します。『ロイヤル・テネンバウムズ』はデイヴィット・ワスコ(『ラ・ラ・ランド』のプロダクションデザインや『ロイヤル・テネンバウムズ』、『キル・ビルvol.2』、『パルプ・フィクション』などの美術などを担当)という私の大好きなデザイナーが関わっているんです。

壁紙や装飾のこだわりも凄くて、例えば壁の絵で“絶対にこんなの家に飾らないでしょ”というものがあっても、その家に住んでるキャラクターを知って納得みたいな(笑)。本当に素晴らしいので、いつか私も彼と仕事してみたいです」

ーー日本でもいつかお仕事をしたいというお気持ちはありますか?

「日本でお仕事するなら時代劇に参加してみたいです。昔から日本史が好きで、暇があれば史跡めぐりをしていますから(笑)。もし日本で時代劇に参加できるならそれを最後にこの仕事を辞めてもいいぐらい(笑)。それぐらい大事な夢です」

ーーChikakoさんは“Japan Cuts Hollywood”という映画祭を立ち上げて、今年の11月にハリウッドで開催されますね。ハリウッドの人達はアジアで作られる作品に対してどう思っているのでしょうか?

「いまハリウッドはアジアに関わっている作品に注目しています。というのも『クレイジー・リッチ!』が凄くヒットしたので、いまアジアはチャンスだと思うんです。日本人にももっともっとハリウッドで活躍して頂きたいです」

ーーハリウッドで活躍したい方には是非“Japan Cuts Hollywood”に応募して頂きたいですね。

「私がハリウッドにいる理由を考えたときに、日本の才能ある人や日本の素敵な文化をハリウッドの人達にももっと知ってもらいたいと思ったんです。映画を通じて日本の文化をアメリカに、日本で映画を撮っている人達をハリウッドに紹介できるような橋渡しの役割がしたいと思って“Japan Cuts Hollywood”を立ち上げました。是非多くの人にチャンスを掴んで頂きたいです」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

Japan Cuts Hollywood 映画祭
ハリウッドの第一線で活躍する業界人達の手によって立ち上げられた日本映画祭。
アメリカに住む人々はもちろんのこと、ハリウッドの映画業界人にアプローチするチャンスが与えられる。
開催概要
[日時] 2019年11月1日〜11月3日
[会場] アメリカ・ロサンゼルス TCL Chinese 6 Theatres
[対象作品] 日本人映画制作者の作品、 又は外国人映画制作者による日本をテーマにした作品。
短編:3分から25分
長編:26分から120分以内。
ジャンルはフィクション、ドキュメンタリー、アニメーション、ミュージックビデオなど(※英語字幕付きであること)。
[エントリー費] 短編:30USドル、長編:50USドル

応募手続はコチラから↓

応募締め切り:2019年7月25日
[問い合わせ先]
info@japancutshollywood.com

Chikako Suzukiプロフィール
日本生まれの日本育ち。現在はアメリカ国籍で、カリフォルニア州ロサンゼルス在住。
カーネギーメロン大学、演劇学部で修士号を取得。卒業後はハリウッドで美術監督として活躍。
2014年に”ハウスオブライズ”でエミー賞を受賞。英語と日本語のバイリンガル。現在古文書の勉強中。将来の夢は時代劇の美術を担当する事と日米合作映画を作る事。
http://chikakosuzuki.com
ブログ:https://ameblo.jp/chikakoart/entry-12436107694.html

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