【PROFILE】杉山すぴ豊 SUGIYAMA SUPI YUTAKA
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。
興行界の常識を超えてきたのはいつもアメコミ映画だったという事実
「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、今までマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を見続けてきて本当によかった!と心から思える傑作でした。この作品の内容・レビューについては様々なところで多くの方やファンが書かれているので、ここでは視点を変えて「エンドゲーム」の大ヒットぶりについて振り返ってみましょう。
僕が原稿を書いている現時点で、全米興行成績7億8556万ドルで歴代2位(1位は「スター・ウォーズ:フォースの覚醒」の9億3666万ドル)、世界興行成績26億5000万ドルで歴代2位(1位は「アバター」の27億8800万ドル)です。この数字はまだまだ伸びそうなので、それぞれの1位にどこまで迫れるかですね。
「エンドゲーム」が世界興行成績でそれまでずっと不動の2位だった「タイタニック」の数字を抜いた時、監督のジェームズ・キャメロンがアベンジャーズのマークでもあるAが大きく描かれた氷山がタイタニック号にぶつかる絵をツイートして「エンドゲーム」の大ヒットを祝いました。
昔、「スター・ウォーズ」が大ヒットして「ジョーズ」の記録を抜いた時、スピルバーグはR2-D2がジョーズのサメを吊り上げるイラストをルーカスにプレゼントしたそうですが、こういう称え方は楽しいですね。キャメロンはこのツイートで、「エンドゲームは映画業界がビッグな産業であることも証明してくれた」みたいなコメントを残しています。
「エンドゲーム」の社会現象的大ヒットは様々なエンタメがあふれるこの世界において、100年以上の歴史を持つ映画がいまだに娯楽の王者であることを示してくれたことへの嬉しさですね。
僕は今回の「エンドゲーム」がアメリカ映画史上、オープニング3日間で初の3億ドル突破ということに感慨深いものがあります。というのも、初の全米オープニング3日間2億ドル突破は12年の「アベンジャーズ」。では初のオープニング3日間1億ドル突破は?実は02年の「スパイダーマン」なんです!そうアメコミ・ヒーロー映画はいつも興行界の常識を超えてきたのです。
「ファンタジーと冒険には国境はないんだ」というスタン・リー氏の言葉が蘇ります
日本ではアメコミ物は(「スパイダーマン」を除き)ずっと当たらない、と言われていたのですが、今回の「エンドゲーム」は60億円を突破、あの「名探偵コナン」から週末ランキング1位を奪いました。5年前のゴールデンウィーク興行では「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」は初登場4位でした。「名探偵コナン」が1位で、春休みから続くエルサ姫、クレヨンしんちゃんにも数字的に負けていました。
あれから5年。MCUは日本でもビッグ・コンテンツになったのです。アメリカのみならず、世界で、日本で、MCUがここまで人気になると、僕はスタン・リー氏のこの言葉を思い出します。「ファンタジーと冒険には国境はないんだ」。
一方で、アメコミ・ヒーロー映画ばかりが公開されることに批判的な意見もあります。でもMCUのおかげで、何度も映画館へ行く習慣を若い世代に作り上げたのは素晴らしいことだと思います。それがきっかけで、予告編を観て他の映画にも興味を持っていく。かくいう僕も、ゴジラ、ブルース・リー、パニック映画が定期的に上映されたことで映画館通いが始まりました。MCUはマーベルのみならず、映画館という素敵なユニバースへと導いてくれるのです。
さてMCUに先立ち、ハリウッドがアメコミ・ヒーロー物(特にマーベルに)注目する転機となったのが、00年に公開され大ヒットとなった20世紀フォックスの「X-MEN」。MCUは11年目ですが、X-MENシリーズは20年近く続いています。その最新作が「X-MEN:ダーク・フェニックス」。これが期待以上の面白さ!今までX-MENを見続けてきたよかった!と心から思える傑作。20世紀フォックスのディズニー買収に伴い、20世紀フォックス版X-MENの最終作ですが、それにふさわしいフィナーレです。ぜひ、みなさんも見てみてください。