直木賞作家・白石一文による著作の初の映画化となる『火口のふたり』。
数年ぶりの再会をきっかけに、抑えきれない衝動の深みにはまっていく男女を演じた
柄本佑と瀧内公美のインタビューをお届けする。

今作の監督を務めるのは、数々の作品で男と女のエロティシズムを表現してきた脚本家の荒井晴彦。荒井にとって今作は、『身も心も』、『この国の空』に続き脚本・監督に挑んだ渾身の一作となる。
主演を務めたのは『きみの鳥はうたえる』などで数々の賞を受賞するなど実力派俳優として活躍する柄本佑と、廣木隆一監督の『彼女の人生は間違いじゃない』での演技が評価され、活躍の場を広げている瀧内公美。
今作で大胆かつ濃密な演技を披露した柄本と瀧内が撮影秘話を語る。

画像: 『火口のふたり』
柄本佑×瀧内公美インタビュー

2人しか出ないってことはこんなにも台詞量が多いのかと、
やってみて改めて気付きました

ーー原作と台本をそれぞれお読みになった時の感想からお聞かせ頂けますか。
瀧内「原作は、直子や賢治がその時何を感じていたのかということが具体的に書かれていたので、演じる際の手助けをしてくれました。そのあとに台本を読んだところ、濡れ場の描写が原作とほぼ同じと言っていいぐらい事細かに書かれていたので驚きました。これまでに一貫してエロスを描いてこられた荒井さんだからこその台本だなと感じましたし、本当に2人しか出てないんだな、と思いました」
柄本「僕は先に台本を読んで、そのあと原作を読んだんですけど、台本の台詞がほとんど原作と一緒なことに驚きました。不思議なのが、同じと言えども台本として読むと全て荒井さんの台詞になっているんですよね。“これは明らかに荒井さんの台詞だ”と思えるというのは凄いことだなと。普段話す言葉とは少し違うというか、フィクション度が強めな感じするよね?」
瀧内「しますね」

ーー劇中で使われているお2人のモノクロ写真も凄く素敵でしたが、映画の撮影よりも前に写真撮影をされたのでしょうか?
柄本「そうですね。先に写真の撮影からやりました。映画は直子と賢治が久々に再会を果たすところから始まるので、恋人同士だった頃の写真を撮影できたのは良かったなと思います。写真撮影から約一ヶ月後ぐらいに映画本編の撮影に入ったのですが、空いた期間は短くても2人が久々の再会を果たすところから始める今作にとって、良い効果をもたらしたのではないかなと思います」

画像1: 2人しか出ないってことはこんなにも台詞量が多いのかと、 やってみて改めて気付きました

ーー写真の撮影中はお2人でコミュニケーションを深めながら役の関係性を作っていかれたのでしょうか?
柄本「というよりは、“もうやるしかないよね”みたいな感じでしたね(笑)。瀧内さんがドシっとされていたので、その居ずまいや佇まいに凄く助けられました。“なんでもどうぞ!”といった感じで男前なんです(笑)」
瀧内「あははは!」
柄本「僕が実際に写真を撮ったりもしていたので、“直子役が瀧内さんで良かった〜”と心底思いました(笑)」
瀧内「佑さんと一緒にいると安心感があるので、こちらこそ“賢治役が佑さんで良かった〜”ですよ(笑)」

ーー登場人物がお2人だけということへのプレッシャーはありましたか?
柄本「プレッシャーは無かったんですけど、2人しか出ないってことはこんなにも台詞量が多いのかと、やってみて改めて気付いたというか。撮影期間は10日間だったんですけど、とても10日間でしゃべりきれる量じゃないんですよ!台詞が(笑)」
瀧内「夜になると喉が痛くて大変でした(笑)」
柄本「同じく(笑)」
瀧内「台詞の量も多かったんですけど、覚えなきゃいけないことが多かったので、そっちのほうがプレッシャーでした。例えば、濡れ場に関しても台本にこと細かく動きが書いてあるので、覚えてからシミュレーションをして現場に行かないと佑さんに迷惑をかけてしまうし、ひとつ間違えると怪我にも繋がってしまうので大変でした」
柄本「段取りでだいたいの動きを確認して、カメラマンさんや照明さんがセッティングしている最中にベッドシーンの動きの確認を2人でやっていましたからね(笑)」

ーーまるで殺陣の確認のような(笑)。
柄本「ほんとにそうですよ。ある意味アクションシーンと言っても過言ではないので(笑)」

ーー荒井監督の印象もお聞かせ頂けますか。
瀧内「優しくてチャーミングでおしゃれな方という印象を受けました。映画の現場って割と皆さん着ている服がラフといいますか(笑)」
柄本「言いたいことはわかる(笑)」
瀧内「でも荒井さんは凄くおしゃれな服で毎日現場にいらして、“そのシャツどこのですか?”なんて会話を結構しました。あと、繊細なところもあって、伝え方が遠回しというかなんというか(笑)」
柄本「荒井さんはシャイボーイだからね。初日の最初にただ2人が歩いてるだけのシーンを撮っていたら、“佑ちょっと”と荒井さんに呼ばれて“さっきの瀧内の歩き方、変じゃなかった?”って。“佑さ、情事のあとに歩いてるシーンだから世を忍んでる感をもうちょっと出したいんだよね。だから「歩き方ちょっと変えてみて」と瀧内に伝えてくれるかな”と言われたので“監督、それは直接自分で伝えましょうよ”って(笑)。そんな感じのシャイボーイな方です」
瀧内「わたしも“うまく伝えられないのは荒井さんが照れてらっしゃるからなんだな”と途中で気付きました(笑)」

画像2: 2人しか出ないってことはこんなにも台詞量が多いのかと、 やってみて改めて気付きました

ーー荒井監督との会話で印象に残った言葉があれば教えて頂けますか。
瀧内「みんなで飲んでる時に“瀧内には幸せになってもらいたいんだよ”と荒井さんに言われて泣きそうになったのを覚えています。撮影の最初の頃は“佑のことは小さい時から知ってるけど、君のことは全く知らないからね”なんておっしゃっていたのにと。なので驚きましたけど、とても嬉しかったです」
柄本「僕は…なんだろう…すぐに出てこないなぁ…」
瀧内「あの、荒井さんが佑さんにかけた言葉でわたしが羨ましいなと感じたことをお話してもいいですか?」
柄本「え? なんだろう?」
瀧内「“佑でもう一本撮りたいな”と荒井さんがおっしゃったのが凄く羨ましくて(笑)。今作の撮影が終わってすぐにおっしゃったんです」
柄本「あ〜! 言ってくださったのを覚えてます!」
瀧内「できればわたしもまた荒井さんとご一緒したいなと思ったので、佑さんのことが羨ましかったです(笑)」

ーー是非またお三方で作品を撮って頂きたいです! 話は変わりますが、劇中で賢治がホイル焼きのハンバーグやアクアパッツァなど凝った料理を作っていたのが印象に残りました。情事のシーンと同じぐらいの熱量で食事のシーンも丁寧に撮られているのではないかなと感じたのですが。
柄本「食べるシーンは多かったですね。そのどれもが撮影していて楽しかったです。特にアクアパッツァを作るシーンは、2人で料理している感じが好きだなと思いました。ただ、アクアパッツァを食べながらしゃべるのは苦労しました(笑)。骨が多いから台詞をしゃべっていても食べるほうに意識がいってしまうんです。荒井さんから“二人ともアクアパッツァ全然食べてないじゃん”と言われたので、“こんなに複雑な料理をあれだけの量をしゃべりながらは難しいですよ。頑張りますけど”って言いましたもん(笑)」
瀧内「アクアパッツァのシーンは本当に難しかったですよね(笑)」
柄本「基本的に荒井さんは食べるシーンはしっかりと量を食べて欲しい方なので大変で(笑)。今作の面白いところは、ベッドシーンがそこまで主張してこないというか、食欲と睡眠欲が性欲と同じぐらい描かれているんですよね。男女の普通の営みが過剰ではなく地に足がついた形で描かれている。そういう意味でも食事や料理のシーンは好きです」

ーーでは最後にSCREEN ONLINE読者にオススメの映画をご紹介頂きたいのですが、お2人が衝撃を受けた恋愛映画を教えて頂けますか。
瀧内「ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(01年)には衝撃を受けました」
柄本「お尻ばっかり出てくる映画だよね(笑)」
瀧内「そうです(笑)。20歳の時に母親に薦められて観たんですけど、それまで観てきた映画とは違い、全てが衝撃でした。大人になったよ、わたしって感じでした(笑)」
柄本「何もしゃべらずにただ歩いてるだけというシーンもあったよね(笑)。僕はNetflixで観た「LOVE/ラブ」というドラマがめちゃくちゃ面白かったです。映画監督のジャド・アパトーが共同クリエイターと製作総指揮を務めていて、基本1話30分でシーズン1が全10話、シーズン2が全12話、シーズン3が全12話で完結するんですけど、とにかく面白い!」
瀧内「どんなドラマなんですか?」
柄本「脚本家を目指すオタクの男と、セックスとドラッグ依存症の女の恋愛ドラマなんですけど、脚本がよくできるんですよ。どん底まで落ちた2人が1話のラストで出会うところから始まって、シーズン1ではお互いに告白はせずにただなんとなく一緒にいる様子を描いていて、シーズン2では恋人同士なのかは微妙だけど順風満帆にいっていたのに7話ぐらいから一気に最悪な展開になって(笑)。それでシーズン2のラストの12話がもの凄くヤバいことになるんです。シーズン3でもまだまだ色々なごたごたがあるので楽しみにしていて欲しいです。いつ観たかというと、ポルトガルで撮影していた時に、休みの日があって1話を見始めたら面白くて止まらなくて。一日で一気見してしまったんです(笑)。毎回エンディング曲が違うのもいいんですよ。『火口のふたり』を観たあとにもっと刺激が欲しくなった方には是非観て頂きたいです!」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

画像3: 2人しか出ないってことはこんなにも台詞量が多いのかと、 やってみて改めて気付きました

<STORY> 
十日後に結婚式を控えた直子(瀧内公美)は、故郷の秋田に帰省した昔の恋人・賢治(柄本 佑)と久しぶりの再会を果たす。
新しい生活のため片づけていた荷物の中から直子が取り出した1冊のアルバム。
そこには一糸纏わぬふたりの姿が、モノクロームの写真に映し出されていた。
蘇ってくるのは、ただ欲望のままに生きていた青春の日々。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
直子の婚約者が戻るまでの五日間。
身体に刻まれた快楽の記憶と葛藤の果てに、ふたりが辿り着いた先は―。

『火口のふたり』
9月23日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
脚本・監督:荒井晴彦
原作:白石一文「火口のふたり」(河出文庫刊)
出演:柄本 佑 瀧内公美
配給:ファントム・フィルム
©2019「火口のふたり」製作委員会
R18+

画像: 8.23(金)公開『火口のふたり』大胆過ぎて上映NG!幻の予告編 youtu.be

8.23(金)公開『火口のふたり』大胆過ぎて上映NG!幻の予告編

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