伊集院静の短編小説をもとに、大切な存在を亡くした少女と老人の心温まる交流を描いた
映画『駅までの道をおしえて』。
今作で主人公サヤカの父親役を演じた滝藤賢一のインタビューをお届けする。
画像1: 『駅までの道をおしえて』
滝藤賢一インタビュー

主人公のサヤカを演じるのは、映画『3月のライオン』のモモ役や、米津玄師がプロデュースした 「パプリカ」を歌うユニット Foorin の最年少メンバーとしてブレイク中の新津ちせ。オーディションで受かった直後から愛犬ルーとの特別な絆を表現するため、自宅でルーとの共同生活を開始。そしてその後、一年にわたる丹念な撮影を通してサヤカの心身の成長をカメラに刻み付けた。 サヤカの友人となるフセ老人役には、約半世紀にわたってヨーロッパの演劇界で俳優・演出家として活躍し、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙—サイレンス—』など映画でも強烈な印象を残してきた笈田ヨシ。
今作で娘・サヤカの成長を優しく見守る父親役を演じた滝藤賢一に、撮影秘話や今作を通して感じたこと、更にオススメの映画について語ってもらった。

とても贅沢な体験をさせて頂いた現場でした

ーー娘役の新津さん、妻役の坂井さんとはどのように関係性を作っていかれたのでしょうか?
「部屋のセットの中で1時間ぐらいお2人と一緒に過ごす時間を頂いたので、3人でゲームしたりテレビ見たりお話ししているうちに自然と関係性はできていったように思います。そのあと何度もリハーサルを重ねてから撮影に挑むというスタイルだったんです。なかなか共演者の方となんでもない時間を過ごさせてくれる現場はないので、とても贅沢な体験をさせて頂いたなと思います」

画像1: とても贅沢な体験をさせて頂いた現場でした

ーー新津さんはルー役の犬と実際に生活を共にして、四季に合わせて1年にも渡る撮影に挑まれたと聞きました。そんな彼女との撮影はいかがでしたか?
「先ほどお話した家族3人での撮影から9ヶ月ほど空いて新津さんに再会したのですが、その間もサヤカとして生きていたんじゃないかと思えるほど色んな意味で変わっていました。それは劇中でルーがいなくなってしまうことが原因かもしれないし、サヤカが大きく成長していく過程が新津さん自身にも影響を与えたのかもしれないし、それは僕にはわからないですけど、以前の新津さんとは全く違っていましたね」

ーー撮影中に“変わったな”と感じられた出来事があったのでしょうか?
「例えば、監督が“このタイミングでこの料理を食べて”と指示しても彼女は食べなくて、それを何度も繰り返したんです。新津さんがサヤカを自分の中に取り込んでいった結果、食事する気になれなくなってしまったということだと思うのですが。きっと彼女以外、いや、彼女自身さえもその原因はわからないんじゃないかなと思います。僕は監督から食べろと言われたら食べてしまうので、そういう経験はありませんが(笑)」

画像2: とても贅沢な体験をさせて頂いた現場でした

ーー子供だからこその感性や感受性、もしくは新津さんだからそういう変化が起きたのかもしれないですね。
「そうかもしれないですね。とても声をかけられる状態じゃないほど最初に会った時とは別人になっていましたから、僕はただ彼女を見守ることしかできなくて。ただ、新津さんは子供とはいえプロの俳優ですから、映画を観ていただければサヤカの成長をしっかりと感じて頂けるんじゃないかなと思います」

画像3: とても贅沢な体験をさせて頂いた現場でした

ーー大切な存在を亡くした少女と老人の物語ですが、今作を通してどんなことを感じましたか?
「今作のようになかなか死を受け止められない方もいると思いますが、僕は命あるものはいつか亡くなるという考えなので、自分の父親が亡くなった時は割とスッと受け入れることができたんです。不思議なことに、ちょうどNHKのドラマ「破裂」で難病にかかった父親を安楽死させるという役を演じていた時に僕の父親が入院していて、その横で台詞を覚えたりしていたんです。もちろんもっと活躍を見てもらいたかったとか後悔することは沢山ありましたけど、それでも父親の死は自然と受け入れることができました。ただ、やはり「破裂」という作品はどこか自分にリンクするようなところがあったので、“父は途轍もないものを僕に残して逝くんだな”と思ったのを覚えています」

ーーちなみに滝藤さんはペットは飼ってらっしゃいますか?
「飼いたいんですけど妻が猛反対しているので難しいですね(笑)。僕が小さい頃も母親に反対されて飼えなかったので、せめて自分の子供には生き物と共に生活をするという経験をさせてあげたいんですけど…。うちの長男は車に愛着があるみたいで、車を買い変えるというだけで嫌がりますから、それが生き物となったらもっと心がえぐられるような経験をするかもしれないですよね。だけど、命あるものの大切さを身を持って感じて欲しいなとは思っています」

ーーここからはScreenOnline読者に滝藤さんオススメの映画などをご紹介頂きたいのですが、家族をテーマにした好きな作品はありますか?
「アスガー・ファルハディ監督の『誰もがそれを知っている』は、ある家族の娘が誘拐されるのですが、誰が嘘をついているのか全く分からない作りになっていてスリリングで面白かったです。もの凄く引き込まれましたし、ああいう作品なら日本でも作れるんじゃないかなと思いました。同じファルハディ監督の『別離』なんて、日本の社会問題とそっくりです。夫婦の問題から雇用の問題、宗教や介護の問題など様々なことを扱っていますから、日本で作るには最高の題材ですよね。あと『セールスマン』も性暴力を描いていて衝撃作でした。アスガー・ファルハディ監督の作品は人間の本質をえぐっている様に思うので是非ご覧頂きたいです。

それから『ヴィンセントが教えてくれたこと』も好きです。ビル・マーレイ演じるヴィンセントが、隣りに引っ越してきた男の子と交流を深めていく展開が素晴らしくて。ヴィンセントが亡くなった奥さんの位牌を杖でポンポンと叩くシーンもいいんですよ(笑)。ああいう役をいつか演じてみたいです」

ーー妊娠中の娼婦役を演じたナオミ・ワッツも良かったですよね!
「ナオミ・ワッツよかったですよねぇ。ちょっとロシア訛りなのも好きでした(笑)。あともうひとつオススメなのが、自分がこの映画の父親と同じ立場だったらどうするかと考えさせられたのが『ビューティフル・ボーイ』。ドラッグ依存症に苦しむ息子のニックをティモシー・シャラメ、ニックを懸命に更正させようとする父親をスティーヴ・カレルが演じていますけど、依存から立ち直らせるというのは本当に大変なんだということがこの映画を観るとわかります。自分だったら見放してしまうかもしれないとか、むしろ関わらないほうがいいのかなとか子供を持つ父親として凄く考えさせられました。もうひとつ紹介していいですか?」

ーー是非お願い致します!!
「高橋一生くんと以前ご一緒した時に“面白いですよ”とオススメしてもらって観た「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」という配信系のドラマも凄く良くできていて引き込まれました。この作品も父親の立場として観ると色々思うところがありました。めちゃくちゃ面白かったんですけど、夜中にトイレに行けなくなりましたよ。リアルに首折れ女が出てきそうで(笑)。首折れ女の正体も衝撃だったので、まだご覧になってない方は是非!」

ーー沢山ご紹介頂きありがとうございます! 滝藤さんはこれまで様々な役を演じてらっしゃいますが、肉体改造をしてでも挑んでみたい役柄はありますか?
「僕は太れない体質なのか55キロから75キロぐらいまでしか増減できないんです。でも、チャンスを頂けるのであれば、『レイジング・ブル』でロバート・デ・ニーロが演じたようなボクサー役に挑戦したいと思っています。そういう役を演じるには体力も必要だから年齢制限ありますしね…だけど60歳過ぎたリーアム・ニーソンを見ているとまだまだ自分はいけるのかなと思えてくるから不思議です(笑)。役者はイメージを崩していくことも大事なので、そういう役にもどんどんチャレンジしていきたいです」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

<STORY>
いつも一緒だった愛犬のルーの帰りを8歳のサヤカ(新津ちせ)はいつまでも待っていた。ある夏の終わり、サヤカは一匹の犬に導かれ、喫茶店のマスター・ フセ老人(笈田ヨシ)と出会う。彼もまた、大きな喪失を抱えて独りで生きていた。別れを受け入れられない2人は、互いのさびしさに寄り添ううちに、思い がけない友情で結ばれていく......。

『駅までの道をおしえて』
10月18日(金)より全国公開
脚色・監督:橋本直樹
原作:伊集院静「駅までの道をおしえて」(講談社文庫)
出演:新津ちせ 有村架純
坂井真紀 滝藤賢一 羽田美智子 マキタスポーツ
余 貴美子 柄本明/市毛良枝 塩見三省
笈田ヨシ
主題歌:「ここ」コトリンゴ
企画・製作:GUM・ウィルコ
配給・宣伝:キュー・テック
©2019 映画「駅までの道をおしえて」production committee

画像: 駅までの道をおしえて予告 youtu.be

駅までの道をおしえて予告

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