今作のプロモーションで来日したギャスパー・ノエ監督のインタビューをお届けする。
出演はソフィア・ブテラ(『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』、『華氏 451』)とスエリア・ヤクーブ以外は各地で見出したプロのダンサーたち。音楽は、ダフト・パンク、ザ・ローリング・ストーンズ、セローン、エイフェックス・ツインなどが使用されている。演技経験のないプロのダンサーによる度胆をぬくパフォーマンスとダフト・パンクらが手がけたエレクトロミュージック、そして、全編を通して多用される長まわし撮影で、ドラッグにより次第に充満していく地獄絵図を鮮烈に映し出した。歓喜からの狂乱、観る者を疑似トランス状態に放り込むサイケデリックな 97 分間に酔いしれる衝撃的な作品に仕上がっている。
ギャスパー・ノエ監督がSCREEN ONLINEのインタビューに応じ、今作について語ってくれた。
役者というのは体を使った表現がなかなかできないもので、
今作ではプロのダンサーを起用して正解だったと思います
ーー『CLIMAXクライマックス』を拝見させて頂きまして、なんというか…じっと座っていたにも関わらずトランス状態になりました(笑)。
「踊りたくなりませんでした?」
ーーなりました(笑)。今回は何故こういった映画を作りたいと思われたのでしょうか?
「“この映画でどんなメッセージを伝えたいのか”といったことをよく聞かれるのですが、答えは簡単、“ダンスは楽しい、アルコールは怖い”この二つだけですよ(笑)。これは“アルコールを飲まないキャンペーン用”の映画と言ってもいいかもしれない(笑)。だけど冗談じゃなく、体質的にダメな人がアルコールを飲むと実際にああいう異常な行為をすることはあると思いますけどね」
ーーこれまで作品を発表するたびに新しい試みをなさってきましたが、今作を撮っていて最もスリリングだったエピソードがあれば教えてください。
「前作と比べたら今作はそこまで挑発的じゃないですよね(笑)。そういえばプレス関係者用に試写を行った際に“最近のギャスパーは少し落ち着いてきたね”と言っていたから気をつけなきゃと思ったのをいま思い出しました(笑)。それで質問の答えはというと、撮影中は終始ワクワクしましたしスリリングでした。今回は順撮りしたのですが、シノプシス(あらすじ)はあってもシナリオはなかったんです。当然ながら台詞もありませんから、役者として参加してくれたダンサー達にはシーンごとに即興で演じてもらったんです」
ーー現実と役が混同してしまいそうですね(笑)。
「そう思われるかもしれませんが、作品のムードとは違って撮影中はずっと楽しい雰囲気だったんですよ。アルコールを飲み過ぎて酔っぱらう人もドラッグをやる人もいなかったですし(笑)、参加してくれたスタッフ、キャスト全員が神経を集中させて撮影に挑んでくれていました。本当に一生懸命やってくれましたよ。皆さんには撮影場所の前にあるホテルに宿泊してもらったんですけど、映画が夜から深夜、そして翌朝にかけて起こる出来事なので、毎日だいたい午後3時ぐらいから深夜1時〜2時ぐらいまで撮影をしていたんです。その時に思ったのが、ちょうど深夜24時前後ってみんな良い感じに疲れてきていて、その時間帯に撮ったカットが毎回出来が良かったんです。不思議ですよね(笑)」
ーー振付師のセルヴァ役を演じたソフィア・ブテラさんと女性ダンサーを演じたスエリア・ヤクーブさん以外は演技経験のないプロのダンサーが20名ほど参加していますよね。彼らに対してはどのような演出をされたのでしょうか?
「今作はブノワ・デビエという撮影監督はいましたが、実際にカメラをまわして撮っていたのは僕だったので、カメラの前で自分のダンスパフォーマンスを見せることを彼らは凄く喜んでいるように見えました。そして会話のシーンでは最初に“こういう感じでやってみて”とザックリ伝えて、一度演じてもらったあとに“これはよかったね”とか“これはあまり面白くなかったから変えて”とか“これは面白いよ!”と感想を言いながら何度もテイクを重ねていきました。ひとつのシーンに対してだいたい14テイクから16テイクぐらい重ねたかな。その中から一番良いカットを繫げて完成させていった感じです」
ーー彼らに関してもう少し詳しくお聞かせ頂けますか。
「キャスティングするにあたり、まずVOGUEINGやWAACKINGといった6種類のダンスが出来るプロのダンサーを探しました。役者を起用してダンスを踊ってもらうことは全く考えてなかったので、とにかくちゃんと踊れる人に参加してもらいたいと。今回選ばれた子のほとんどがフランスのバンリューという移民の多い貧しい公営住宅地帯に住んでいたのですが、彼らはまだ若く才能に溢れていました。フランスの役者のほとんどは中流階級以上の家庭で育っていますが、今作のダンサー達はそういう役者とは全く違います。
彼らは普段から週に1回〜2回はダンスバトルをやって自己表現をしたり、エネルギーを発散させていました。だから身体表現に対する意識がもの凄く高い。ところが、言葉を使って自分を表現するとなると話は別なんです。彼らにはなるべく自分の言葉で演じてもらい、それを見て“もっと面白く”とか“もっとクレイジーに”といった指示を出していたのですが、驚いたのが、クレイジーさが求められる現場であっても彼らの頭の中はとてもクリーンで真摯に撮影に臨んでくれたこと。だからこそ撮影がスムーズにいったんだと思います」
ーープロの役者がダンサーの役を演じていたら全く違う映画になっていたかもしれませんね。
「そう思います。もし全員がプロの役者でダンスのレッスンを受けてもらってから撮っていたら、おそらくダメなものが出来上がっていたでしょうね(笑)。役者というのは体を使った表現がなかなかできないもので、やはり今作ではプロのダンサーを起用して正解だったと思います」
ーーちなみにダンサーの皆さんは今作をきっかけに役者業に目覚めるといったこともあったのでしょうか?
「そうですね、みんな今回の経験を生かして何かを表現したいと思ったのではないでしょうか。出演が決まった時は“どれどれ、やってみるか”ぐらいの感じだったと思いますが(笑)、今は確実に違うと思います。実際に今作のあと別の映画に出演した人も何人かいますよ。ちなみに子供が一人出演していますが、彼もダンスの学校に通うダンサーなんです。きっと彼にとっても良い経験になったのではないでしょうか」
ーー日本にはソフィア・ブテラさんのファンも大勢いますので、彼女についてもお話をお聞かせ頂きたいのですが。
「彼女はもともと世界的なダンサーとして活躍していて、マドンナの世界ツアーにもバックダンサーとして参加したことがあり、ヒップホップダンスのクイーンと呼ばれているような凄い人です。ハリウッド映画の『キングスマン』や『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』などにも出演していますよね。もはや近年の彼女はダンサーというよりも女優としてのほうが有名です。
振付師であるセルヴァは演技力とダンサーとしての表現力の両方が求められる役なので、ソフィア以外には考えられなかったし、彼女自身もセルヴァを演じることに喜びを感じてくれていたようです。“私、妊娠しちゃったの”と女性がセルヴァに絡んでくるシーンは14テイクほど撮ったのですが、ソフィアの演技は毎回素晴らしくて、やはり天才的な感覚を持っている人なんだなと思ったのを覚えています」
ーー最後の質問になりますが、ダンサーを探す中で“今回は起用しなかったけど気になった”という方はいたのでしょうか?
「いましたね。実は日本人のダンサーも探したんですよ。例えばVOGUEINGというダンスが得意な素晴らしいダンサーも見つけましたし、今はAyaSatoさんしか活動されていませんがAyaBambiさんのダンスも素敵だと思います。今回は日本人ダンサーの方とご一緒できませんでしたが、世界的レベルのダンサーが沢山いることがわかったのでいつかご一緒してみたいです」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
【ストーリー】
1996年のある夜、有名な振付家の呼びかけで選ばれた 22人のダンサーたちが人里離れた建物に集まり、アメリカ公演のための最後のリハーサルをしている。彼らの集まる建物には電話がない。山奥のために携帯も通じない。そして、外では雪が降っている。公演前の最後の仕上げともいうべき激しいリハーサルを終え、打ち上げパーティを始めたダンサーたちは、爆音ミュージックに体を揺らしながら、大きなボールになみなみと注がれたサングリアを浴びるように飲んでいた。しかし、そのサングリアにはLSD (ドラッグ)が混入しており、ダンサーたちは、次第に我を忘れトランス状態へと堕ちていく。エクスタシーを感じる者、暴力的になる者、発狂する者……。
一部の者にとっては楽園だがほとんどの者にとっては地獄の世界と化していくダンスフロア。一体誰が何の目的でサングリアにドラッグを入れたのか? そして、理性をなくした人間たちの狂った饗宴はどんな結末を迎えるのか・・・?
『CLIMAX クライマックス』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ、ロマン・ギレルミク、
スエリア・ヤクーブ、キディ・スマイル
2018/フランス、ベルギー/スコープサイズ/97分/カラー
フランス語・英語/DCP/5.1ch/日本語字幕:宮坂愛
原題『CLIMAX』/R-18
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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