杉山すぴ豊
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。
アメコミの大イベント東京コミコン2019。
いよいよ開幕を前にアメコミ映画に愛をこめて
あるコスプレーヤーの方から聞いた話なのですが、今回のホアキン・フェニックスの「ジョーカー」のメイクは今までのジョーカーの中で一番難しいのだそうです。というのも普通の人があれと同じメイクをしても、志村けんさんのバカ殿みたいにしか見えない。あの凄味は出ない。恐らくホアキン・フェニックスのほうれい線とか顔の形とか照明とかを計算したメイクだろうと。
また赤いジャケットを着ていますが、クライマックスで青い照明を浴びた時、一瞬ジョーカーが紫色の服を着ているように見える。紫というのはコミックやティム・バートンの「バットマン」のジャック・ニコルソンや「ダークナイト」のヒース・レッジャー、「スーサイド・スクワッド」のジャレッド・レトのジョーカーの服の色なので、実は歴代ジョーカーを意識しているわけです。こういう風にコスプレからも映画の魅力ってわかるんだなと感心しました。
さて、こうしたコスプレーヤーたちも集まる東京コミコン2019がいよいよ開幕です。僕が楽しみにしているのは何系のファンが多いかです。まず今年はMCUが「アベンジャーズ/エンドゲーム」で大きな区切りを迎えたので、マーベル系のコスプレーヤーや、グッズを身に着けたファンが多いでしょう。一方、「アクアマン」「シャザム!」そして「ジョーカー」とDCも軌道にのってきましたからDC勢も負けてはいない。
今年のセレブでロンことルパート・グリントが来るから「ハリー・ポッター」好きもたくさん来るでしょうし、コミコン1か月後にいよいよ「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」が公開ですからスター・ウォーズ熱も高いハズ。アベンジャーズ VS ジャスティス・リーグ、ホグワーツ VS ジェダイな会場になるのかな。こうしたカオスにひたることもまたコミコンの楽しさです。
僕がアメコミ映画って素晴らしいな、と思うのには3つの理由があります
アメコミ映画もすっかり市民権を得たわけですが、一方であるアメリカの有名な映画監督が“マーベル映画は映画というより、テーマパークみたいなものだ”的発言をしてちょっと物議をかもしました。要はハリウッドがアメコミ・ヒーロー映画ばかりを作って、映画館もそれに占拠され、いわゆる映画らしい映画が隅に追いやられている。そうした状況について危機感を抱いているのでしょう。
この監督の作品は好きだし、またアメコミ映画に限らず、人気の娯楽映画(アクション映画やホラー映画等)というものは、今までも“こんなの本当の映画じゃない”みたいに言われることは多々あったので、この手の発言については“またか”という印象です。
ただ、アメコミ映画について僕は3つのことが素晴らしいなと思います。
1つは、若い世代が何度も定期的に映画館に足を運ぶきっかけを作ってくれたこと。僕自身小さい頃、夏と冬に公開されるゴジラやガメラの映画を観て映画に興味を持ち、映画館が好きになり、それがきっかけで映画ファンになりました。アメコミ映画が映画ファンを増やしていくと思うのです。
2つ目は、アメコミ映画というのはファンが育てたということ。このジャンルに魅せられた人たちがSNS等を通じ、気持ちを込めて語ったからその熱気が新たなファンを生み拡大していったのです。これほど作品たちとファンの気持ちのつながりが強いジャンルって他にないでしょう。
そして3つ目は、アメコミ映画こそ“人がどうあるべきか”を誰にもわかりやすく語ってくれる、すばらしい神話であり寓話だということ。基本、アメコミ映画はヒーロー物です。つまり心正しき者が邪悪を打ち破る、というお話。だからこそ“なにが正しくて、なにが悪いのか”というテーマに真摯に取り組んでいるわけですよね。ファンのお目当ては確かに派手なアクションだけれど、こうしたエモーショナルな部分に心揺さぶられるわけです。
アメコミ映画ばかり見ているとオタクにはなるかもしれないけれど、心正しい大人になると僕は信じています(笑)。