1970年代は「タワーリング・インフェルノ」に代表されるパニック映画が大流行したり、映画史を塗り替える「スター・ウォーズ」の第1作目が登場したりと、現在にも語り継がれる名作が続々誕生しました。そんな革新だらけの1970年代に製作された作品が、12月にキングレコードから3作品続けてリリースされます。国内初ブルーレイ化となる「ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖」「パニック・イン・スタジアム」含め、幻の日本版を収めた「カプリコン1《特別版》」といずれも曲者……もといカルト的な名作揃い。SCREEN ONLINEでは毎週1作品ずつじっくりご紹介していきます。

初回はジョージ・A・ロメロ監督の未公開ホラー「ザ・クレイジーズ」

第1回目は“ゾンビ映画の巨匠”ジョージ・A・ロメロ監督が「ゾンビ」以前に製作した未公開作「ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖」を紹介。2019年11月29日(金)より「ゾンビ 日本初公開復元版」がリバイバル上映されるなど、今なお熱狂的に支持されるロメロ監督の伝説的パニックホラーが、満を持して国内初ブルーレイとして世に放たれる!(文・久保田明)

画像: 初回はジョージ・A・ロメロ監督の未公開ホラー「ザ・クレイジーズ」

「ゾンビ」「死霊のえじき」などでゾンビ映画の巨匠と呼ばれ、ホラー映画のスタイルを革新! 2017年の他界後も多くのファンを魅了しつづけているジョージ・A・ロメロ監督。今回初の国内ブルーレイ・リリースとなった「ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖」は、出世作である「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)から悲哀と噴血の吸血鬼映画「マーティン/呪われた吸血少年」(1977年)を経て、歴史的傑作「ゾンビ」(1978年)に至る時期の1973年に発表された意欲作だ。

THE CRAZIES MEMO 01
ロメロ・ゾンビ映画の原点ともいえる作品

人口3613人のペンシルヴァニア州の小さな町エヴァンス・シティに突然防護服とガスマスクを付けた異様な一団が進軍してくる。同時に町のあちこちで住民たちの常軌を逸した暴力事件が続発する。一帯は隔離、封鎖され、そのうち驚愕の情報が漏れ伝えられてくる。近郊に墜落した輸送機から極秘開発されていたレイジ(錯乱)ウイルスが流れ出し、政府はその事実を隠蔽しようとしていたのだ。パニックに陥った町から逃げようとする消防隊員のデイヴィッドたち。核攻撃まで考え、病原菌の蔓延を防ごうとする軍上層部。ドキュメント・タッチの緊迫した描写がつづく。

回想などの手法を用いず、世界が同時進行で崩壊してゆく。死者が生き返るわけではないけれど、このパンデミック・パニック・ドラマは間違いなくその後のロメロ・ゾンビ映画の原点だ。

画像: THE CRAZIES MEMO 01 ロメロ・ゾンビ映画の原点ともいえる作品

THE CRAZIES MEMO 02
ロメロファンおなじみの顔ぶれが集結

盟友トム・サヴィーニ演出のリメイク作品「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記」(1990年)では音楽を手がけたポール・マッカローの原案「The Mad People」が下敷き。舞台になったエヴァンス・シティは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の墓地などのロケ撮影が行なわれた実在の所縁(ゆかり)の町で、ワクチン開発に労力するワッツ博士役のリチャード・フランスは「ゾンビ」の眼帯をした科学者役でファンにはおなじみ。発狂する娘キャシーの父親を演じたリチャード・リバティは「死霊のえじき」ではゾンビを飼い慣らす研究に没頭するマッド・サイエンティスト、ローガン博士を演じていた。撮影のビル・ハインツマンは、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」にゾンビ役で出演と、当時のロメロ組が大集結。改めて、ファンには見逃せない一作だろう。

画像: THE CRAZIES MEMO 02 ロメロファンおなじみの顔ぶれが集結

THE CRAZIES MEMO 03
作品に社会状況を内包するロメロ的演出

劇中、パニックに陥った神父が「神は我と共にあり」と叫んでガソリンをかぶり焼身自殺をするショッキングなシーンがあるけれど、これは1963年6月にベトナム戦争と南ベトナム政府による仏教徒迫害に抗議して焼身自殺した僧侶ティック・クアン・ドック事件の翻案だ。声も上げず背筋を伸ばしたまま焼け崩れていった僧侶の写真は当時世界中にショックを与え、政治メッセージを前面に掲げたロック・バンド、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは1992年のデビュー・アルバムのジャケットにその写真を使用した。

画像: THE CRAZIES MEMO 03 作品に社会状況を内包するロメロ的演出

このような社会状況を内包するのもロメロ監督のホラー映画が長年語りつづけられている理由のひとつ。映画的冒険を追い求めた、まさしくインディペンデント・フィルム界の騎士だったのだ。2017年の7月16日、監督は3人目の妻スザンヌ・デロシュ・ロメロと、2番目の妻クリスティン・フォレストとの娘ティナに見守られながら永眠した。部屋には監督が長年愛したジョン・フォード監督の名作「静かなる男」(1952年)のテーマ曲が流されたという。

画像: 2005年のカンヌ国際映画祭に参加したジョージ・A・ロメロ監督(Photo by Gareth Cattermole/Getty Images)

2005年のカンヌ国際映画祭に参加したジョージ・A・ロメロ監督(Photo by Gareth Cattermole/Getty Images)

STORY
アメリカの田舎町で、男が突然発狂する殺人事件が発生。そして町には防護服の軍隊が訪れ、伝染病が発生したとの情報を流す。しかし、人々の発狂の本当の理由は墜落事故により流れ出た細菌兵器のせいだった。

画像: 【短期連載】70’sカルト映画を味わい尽くす!Vol.1「ザ・クレイジーズ」

「ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖」THE CRAZIES
2019年12月11日(水)発売
ブルーレイ4,800円+税、DVD=3,800円+税
特典=ロメロはここにいた「ザ・クレイジーズ」のロケ地、リー・ヘッセル オーディオインタビュー、「ザ・クレイジーズ」撮影風景(ジョージ・A・ロメロによるオーディオコメンタリー付き)他
発売・販売元:キングレコード
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