“呪われてるのかなというくらい本作とのつながりを感じていた”
——『ドクター・スリープ』の吹き替えを終えられて感じた作品の印象を教えてください
『シャイニング』の40年後の話ということで、自分の中でもいろんなものがつながっていると感じました。『シャイニング』はスタンリー・キューブリックが監督されていますが、彼の遺作『アイズ ワイド シャット』でトム・クルーズの吹替えをしていたり、(自身が吹替えを担当することの多い)ユアンがダニーを演じていたりとか、いろんなものが絡み合っていて、僕自身も呪われているのかなというぐらいのつながりを感じていて(笑)、収録するのが楽しみでした。『アイズ ワイド シャット』の吹替版が収録されているキューブリックのDVDコレクターズBOXを持っているんですが、そこに収録されている『シャイニング』を見た時に衝撃を受けました。ダニーじゃないですけど、トラウマみたいになるぐらいの衝撃でしたね (笑)。それがずっと頭に残っていて、『ドクター・スリープ』として吹き替えをすることになり、ドキッとしました。
——ユアン・マクレガーも怖くて十代後半になるまで『シャイニング』を見たことがなかったそうです
『シャイニング』は本当に怖いですよね。インサートされるカットも脳裏に焼きついて、その怖さの演出というものが自分の中に刷り込まれていくみたいな、ちょっと夢に見るような感じの怖さがあります。
——“つながりを感じている”とおっしゃっていましたが、具体的にはどんなところにつながりを感じていたのですか?
『アイズ ワイド シャット』の吹替え収録時に、キューブリックの右腕で助監督のレオン・ヴィタリが来日して、彼が吹替えの演出を基本的に全部やっていたんです。レオンといろいろコミュニケーションを取りながら収録しました。そこでの付き合いがあったので、『シャイニング』のメイキングでレオンがダニーへの演技指導をしている昔の映像を見たときに、いろいろと思い返すことがありました。それにユアンの吹替えをずっとやらせていただいていたので、そういうところも絡み合って不思議な縁を感じました。
——今作の面白さはどこにあると思いますか?
『シャイニング』を見た時はホラーとして見えないものが想像のところにあったんですけど、『ドクター・スリープ』ではそれがすご く明確化されていて、輪郭がハッキリとしていてわかりやすくなっているところがいいですね。スティーブン・キングに失礼かもしれませんけど、ちゃんと話が収まっているというか(笑)。今回はダニーが主役ではあるんですけど、少女アブラもメインなので、ダニーとアブラとのやり取りや、2 人で立ち向かっていく様みたいなものがとてもいいなと思いました。
——今作の見どころについて教えてください
『シャイニング』を観ている人にとってみたら、ダニーがどう決着を付けるのかでしょうね。自分自身の背負ったものやトラウマに対してダニーが、アブラとの出会いによって立ち向かっていく姿が面白いです。それから、やっぱりあの呪われた展望ホテルですよね。外観は実際に存在するホテルですけど、撮影時のホテル内のセットの再現度がすごいんです。今の時代の映画だから少し変わってくるのかなと思ったんですけど、それが全く遜色なく『シャイニング』のままのホテルが残っていたというリアルさがあって、すごく感動しました。『シャイニング』を観ていなくて、『ドクター・スリープ』から観るという人でも楽しめるので、ぜひ両方を見てほしいですね。映画でも続編として前日譚が作られたりするので、『ドクター・スリープ』を見てから『シャイニング』という順番で観ても楽しめると思います。
——今作でのユアン・マクレガーの演技をどう思いましたか?
闇を引きずる役ってなかなか彼にはなかったので、今までのユアンとは違うなというのを感じました。 この作品では“シャイニング”という特殊な力のようなものを持っていますけど、ユアンといえばポジティブなフォースの力を持っているイメージが皆さんにはあるじゃないですか(笑)。それとは全く真逆の力である“シャイニング”を持っていて、トラウマやアルコール依存症を引きずりながら苦悩するという役は、いろんなユアンの作品を吹き替えてきましたけど新鮮でしたね。それに、少年時代のダニーをものすごく意識して演じているなと感じました。今のユアンがどう演じるかというよりも、少年だったダニーが今こうなっているという演じ方が素晴らしかったです。
——吹き替えにあたってどのようなことを考えて収録に臨まれましたか?
ユアンはすごく吹き替えがしやすいんですよ。『スター・ウォーズ エピソード1』のオーディションの時にユアンの声の波形と僕の声の波形を調べてもらったんですけど、声質が似ているんですよね。だから、声を作るということもなくて、しゃべっているとスッと入れるので、今回もあまり考えるということはなかったですね。
“欲しい能力はローズ・ザ・ハットが使っていたシャイニングですね”
——ユアン・マクレガー以外にも様々な出演者が揃っていますが、特に印象に残った俳優はいましたか?
レベッカ・ファーガソンはすごい女優さんだなと思いました。彼女はそんなに背格好が大きくはないんですけど、きれいで端正な顔立ちなので、日本やアジアの人が好きなタイプだと思いますね。それがローズ・ザ・ハットという怖い役を演じていているわけですが、体全身でというよりも彼女の表情の演技が怖いんですよ。冒頭のシーンである女の子を誘惑して誘拐するところなんか、普通に女の子と話しているだけなんだけど、少しずつ何かが出てくるという表情が怖くて、すごいですね。
——劇中、超常現象や霊現象がたくさん出てきますね。森川さんはそういった驚きの体験をしたことはありますか?
僕の事務所名「アクセルワン」は飼っていた犬の名前が由来なんですけど、その名前は僕が大好きなアメリカのロックバンド「ガンズ・アンド・ローゼズ」のヴォーカルのアクセル・ローズから付けたんです。2009年に愛犬アクセルが亡くなってしまってすごく落ち込んでいた時に、食事をしようとお店に入ったら、目の前にアクセル・ローズがいたんですよ。地球に60億人ぐらい人がいるのになんで出会うんだと。きっとアクセルが引き合わせたくれたのかと思います……。本当に偶然だったので、それは驚きの体験でしたね。
——『ドクター・スリープ』には様々な“シャイニング(特殊な力)”が登場しますが、欲しい力はありますか?
欲しいわけではないですけど、アブラが天井にたくさんのスプーンをくっつけているシーンがずっと印象に残ってますね(笑)。 欲しいのは、意識を飛ばして人の頭の中に入るローズ・ザ・ハットが使っていた“シャイニング”ですね。この人は何を思っているんだろうと困った時に、人の頭の中を覗いてみたいという願望はあります(笑)。でも、吹替えの収録時に演出家さんとはちゃんとコミュニケーションは取れているので、演出家さんの頭の中は覗かなくても大丈夫ですよ(笑)。
\SCREEN ONLINE独占Question!/
——今作や『シャイニング』以外の作品で、キング作品に思い出はありますか?
キング作品の吹替えだと、『スタンド・バイ・ミー』のVHS・DVD版でエースを演じていたキーファー・サザーランドの吹替えをさせていただきました。だから、僕からするとスティーブン・キングはヒューマンで素晴らしい青春をテーマとした素敵な作品を書く方だなというイメージだったんです(笑)。それ以外にもたくさん観ていますが、『ミスト』はなかなかショッキングな映画でしたね(笑)。彼は、序章の部分でお客さんの心を掴む能力がたぶん世界一の作家なんじゃないかと思うんです。予告を見ると気になっちゃう作品がいっぱいありますよね。『スタンド・バイ・ミー』のような作品も好きですけど、エンターテインメントとしては凡人の我々には想像できない展開が広がる作品が楽しいので、ホラー作品のほうが気になります。それから、スティーブン・キング本人が『ペット・セメタリー』(1989年版)や『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』などいろいろな作品にカメオ出演しているのも面白いですね。
——最後に、皆さんへメッセージをお願いいたします。
過去に映画『シャイニング』を観られた方はもちろんのこと、この作品だけでも十分に楽しめる映画になっています。ユアンの新しい面も見られますし、ダニーの苦悩や心理描写も細かく描かれています。ユアンの演技もとても素晴らしいのでそこも見ていただいて、ぜひスティーブン・キング・ワールドを堪能していただければと思います。
『ドクター・スリープ』
2020年4月8日(水)ブルーレイ・DVD リリース発売/デジタル先行配信中
【初回仕様】ドクター・スリープ ブルーレイ&DVD セット ¥4980(税込)(3枚組/ディレクターズカットブルーレイ、ポストカード1枚付)
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発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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