アメコミライターとして活躍する杉山すぴ豊さんの連載コラムです。 アメコミ関連の映画について、縦横無尽に楽しい知識、お得な情報などをみなさんにお届け。今月は、いよいよ公開され大ヒット上映中の「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒BIRDS OF PREY」。なんでハーレイがあんなに魅力的なのかを分析します。
(カバー画像:© 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics)

杉山すぴ豊
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。

ジョーカーもハーレイも悪の帝王になりたいわけじゃない
自分の好きなことをやってるだけ。そこが魅力的なんです

遅ればせながら「ジョーカー」のホアキン・フェニックス、アカデミー主演男優賞受賞おめでとうございます!アメコミ・ヒーロー映画の人気が出すぎて一部の映画人からバッシングを受ける中、今回の「ジョーカー」の快挙は素直に嬉しい。

それにしてもジョーカー。2008年公開の「ダークナイト」でこの役を演じたヒース・レジャーもアカデミー助演男優賞の栄誉に輝いています。アカデミー賞の歴史の中でも2回も役者にオスカーを獲らせたキャラってそうそうないのでは?役者にとってハムレットに匹敵するぐらい挑戦したくなる人物かもしれませんね。

ジョーカーというのはアメコミが生んだ最高のヴィラン(悪役)の一人であることは間違いありませんが、悪の権化とはまたちょっと違います。ヒース・レジャー版ジョーカーは自分のことを「俺はカオス(混迷)の使者なのさ」と言います。そう、ジョーカーにとって善悪の物差しなんてどうでもいい。この世に混乱を巻き起こすことが彼の喜びなのです。だからバットマンvsジョーカーは、善と悪の戦いというより、ヒーロー=秩序を守る者vsヴィラン=無秩序を愛する者の対決。秩序と無秩序。

画像: ジョーカー曰く『俺はカオスの使者なのさ』 © 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

ジョーカー曰く『俺はカオスの使者なのさ』

© 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

同じ主旨のことをホアキン・フェニックスのジョーカーは「この世は笑えるか、笑えないかのどちらかしかない」という風に言っています。確かにコミックではジョーカーは笑っているしバットマンは無口ですからね。

さて、このジョーカーの価値観は彼の恋人であるハーレイ・クインにも受け継がれています。「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒BIRDS OF PREY」のハーレイは確かにヴィランですが、世界征服とか大量殺人を企てているわけではない。自分が楽しいと思うことをするだけで、それが世の中のルールからみれば犯罪であり、街中をひっかき回してるわけです。彼女もまた“カオス(混迷)の使者”。

画像: ハーレイ・クインが悪党からも憎まれるのはやることすべて無秩序だから © 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

ハーレイ・クインが悪党からも憎まれるのはやることすべて無秩序だから

© 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

その一方で、ユアン・マグレガー演じる犯罪王ブラック・マスクは本当に残忍で極悪。ブラック・マスクは暗黒街の支配を夢見ており、裏社会に俺が掟だ!を徹底しようとしている。つまりヒーローではないけれど彼なりに犯罪界に対し“秩序”を求めているわけです。だからハーレイが許せない。つまり「ハーレイ・クイン…」は秩序系極悪ヴィランvs無秩序系お気楽ヴィランの物語となっています。

BIRDS OF PREYとはゴッサムを守る獰猛な鳥たち、みたいな意味

ところで副題のBIRDS OF PREYとはなにか?原作コミックでは初代バットガールでゴードン警部の娘バーバラがブラックキャナリーやハントレスらと共に立ち上げた女性ヒーロー・チームです。BIRDS OF PREYとは鷹などの猛禽類をさす言葉。バットマン=コウモリと共にゴッサムを守る獰猛な鳥たち、みたいな意味でしょう。

この時のバーバラはジョーカーの凶弾に倒れ車椅子の身(このいきさつはアニメ映画化もされた「キリング・ジョーク」というお話で描かれています)。だから彼女はコンピュータを駆使し、仲間に情報提供をして指揮をとります。02年にTVドラマ化され、日本では「ゴッサム・シティ・エンジェル」のタイトルで放送されました。また「ARROW/アロー」シーズン2の“復讐の終焉”というエピソードは、原題がBIRDS OF PREYでハントレスも出てきます。

今回の映画でも注目なのはやはりハントレス。演じるメーリー・エリザベス・ウィンステッドは「ダイ・ハード4.0」のマクレーン刑事の娘、「スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」や「遊星からの物体X ファーストコンタクト」、最近では「ジェミニマン」等で有名ですが、なんといってもタランティーノの「グラインドハウス:デス・プルーフ」のチアガール姿がキュート。ジャンル映画ファンにとっていつかアメコミ・ヒーロー映画に出て欲しい女優さんでした。

ハントレスもコミックではバットガールの名を襲名したり、別次元の世界の設定ではバットマンとキャットウーマンの間に生まれた娘(!)だったりと人気があります。従って、今回の女優とキャラの組み合わせはファンにとって嬉しいものとなりました。

前回の連載はこちら!

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