ジェニファー・ロペスが明かす主演作「ハスラーズ」の裏側とは?
ジェニファー・ロペスがコンスタンス・ウーとW主演を務めた『ハスラーズ』。2008年のリーマン・ショック後の急激に景気が悪化したニューヨークのストリップクラブで働く4人のダンサーが中心となり、ウォール街の裕福な男たちから数年に渡って大金を巻き上げ2013年に摘発された事件を基に映画化した衝撃作。当事者や警察など関係者に取材を重ね、2015年に「NewYork Magazine」誌に掲載されたジェシカ・プレスラーによる記事“ザ・ハスラーズ・アット・スコア(原題:The Hustlers at Scores)” から着想を得て、製作された。
初日ランキング1位(2019.9.13 Box Office Mojo調べ)、興行収入100億円突破の大ヒットを記録し、ジェニファーが第77回ゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネートされるなど、賞レースも賑わせた本作。このたびブルーレイ&DVDの発売を記念し、主演・製作総指揮を務めたジェニファーのインタビューをお届けする。
「ポールダンスはとても難しくて“私の人生どうなってるの?”」って(笑)
インタビュー取材のため、ビバリーヒルズのホテルに現れたジェニファー・ロペス。マルベリー色のレザードレスに揃いのベレー帽と、爪先がゴールドのバックストラップ付きピンヒールといういでたちで、手にはキラキラのストーンで覆われた超ビッグサイズのタンブラーを持っている。中身は水らしく、「お酒じゃないわよ」と言って笑った。
彼女が演じるラモーナは、ニューヨークのとあるストリップ・クラブのナンバーワン。しかし2008年のリーマンショックで経済が破たんしたのをきっかけに、ストリッパー軍団を引き連れて何人もの男性客から金を不正に巻き上げる大胆な計画を企てる。実話に基づくこの物語を描くにあたって、ロペスは半年間にわたり、ポールダンスの特訓で鍛えあげて役に挑んだそう。今回は、そんな撮影の裏側などの製作秘話を語ってくれた。
——今回の役はこれまでとは随分と違うものだったのではないでしょうか。これもまたキャリアにおける転機だと思いますか?
思います。ある程度の年齢に達した女性って、とかくズレて描かれがちですけど、私は自分がまだまだこれからだと感じているんです。勉強すればするほど、人生を重なれば重ねるほど、成長していけるような気がするし、その分仕事も充実するのだと信じています。女優としてのみならず、歌手としてもパフォーマーとしてもプロデューサーとしても、日々新たなよりよいものをもたらすことができるようになると感じています。人生やキャリアにおけるこの時点で、そう思えるのって嬉しいですよね。
——ポールダンスやお色気たっぷりの役柄を演じるのは大変な面もあったのでは?
ありました。最初は高を括っていたんですけれど、いざポールダンスを始めてみたら難しいのなんの。そして今度は本番で、300人のエキストラがやいのやいの叫んでる中へ飛び込んでいって、クラブの舞台に上がって、身につけた限りのもので踊る羽目になった時には、ただただ「これってあり得ないわ。私の人生どうなっちゃってるの?」と思いましたよ(笑)。でも役者としては、ラモーナのような濃いキャラクターを演じられると考えるだけですごく刺激になりました。だって彼女はタフだし熱いし、野望に燃えてるし、強いし、それでいて愛と慈しみにあふれているでしょ。
——演じるご本人そのものですね。
そういう面もあるかもしれませんが、彼女がしたことは私には到底できませんよ。というのはラモーナの場合、あの悪びれない独特な生き方があったでしょ。ただそれは彼女が、あの駆け引きが展開されているのを見抜いていて、その駆け引きに参加しなければ、いいように利用されるだけだとわかっていたからです。その点では私よりも厳しい世界で生きていたわけですよね。
——本作ではコンスタンス・ウーと自然体で、いい空気感をたっぷりと醸しだしていますね。
彼女との関係については、初めからああじゃなくちゃと思ってました。どんな現場でも私は必ず、みんなに気持ちよく仕事してほしいんです。相手が女性ならなおのこと、そして私がプロデューサーならなおのことね。現場が快適で気分よく過ごしてもらえて、心置きなく表現してもらえる場なんだってわかってもらいたいんです。今回もあの空気感は本物でしたし、それがスクリーンでふたりの美しい関係に結実したんだと思います。
——カーディ・B、アッシャー、リソといった大物も登場する映画です。全員が同じ日に現場入りしたというのは本当ですか?
本当ですよ。あれは楽しかったですねえ。ローリーン(・スカファリア監督/脚本)が脚本に書いてくれた雰囲気そのものでした。まさしく「最後の盛り上がった夜の思い出」でしたよ。アッシャーがクラブにやってきて、お店も女の子を大勢抱えていて、みんなが大儲けしていて景気がよかった頃のお話ですよね。まだ株式市場が暴落する前によく見られた完璧な夜です。誰もが大金を手に入れて、憧れのシンガーがご来店して、彼の曲が流れて、女の子がズラリと並んでる。そういうシーンを実現できました。
——プロのダンサーであるあなたも、ポールダンスを披露したのは初めてかと思います。難しかったですか?
それはもう! あれは曲芸とかスポーツの次元ですからね。もちろんスポーツなら私もしますよ。筋トレはするし、ウェイトもやるし、ダンサーとしていろんなダンスを踊るし、運動もあれこれ経験しています。でもああいうアクロバットは初めてでした。あれは違う種類の力を要するんです。なにしろ、振付師のジョアンナ・サパーキが「これ、きっとできるわよ」なんて言いながら、逆さまになったかと思うとてパッと開脚するんですからね。「いやあ、そこまで柔らかくないわ」と尻込みしても「逆さにぶらさがってみてよ。できるってば」なんて言われて。ジョアンナはすごい人で、シルク・ド・ソレイユに長年いたプロだし、今はラスベガスで仕事しているから、ストリップ・クラブの様子もよくわかってるんです。つまり技術をしっかりと身につけたうえで、実際のストリッパーがどう動いたりするのかをきちんと把握しているんですよ。だからかなり融通をきかせてくれました。私言っちゃいましたもん、「あなたみたいに美しく踊りたいんだけど、それと同時に、ストリッパーらしい感じを出したいの」って。そうしたら彼女は「それはあとでちゃんと教えるから、まずはテクニックを身につけてもらわないと実際に踊れないでしょ」ですって。
——ポールダンスを習得するのには、どのくらいかかったんですか?
2カ月くらいですね。笑っちゃうのが、カーディに初めてこの映画の話をした時に「ポールダンスを習い始めたところなんだけど難しくて」とこぼしたら、彼女が「私は今でこそ得意だけど、マスターするのに何年もかかった」とか言うじゃありませんか。心の中で「私はあと7週間でものにしなきゃならないのに?」と思いましたよ。一時は自分のコンサート・ツアーに取り入れようかとも考えていましたけど諦めました(笑)。
——ラモーナは「母性は心の病」という意味のことを言います。難しいセリフでしたか?
いえ、あれがラモーナの語り口なんだと思うんですよね。ラモーナを知れば納得がいくというか。いずれにしても、私にとってあれは、この映画の中で特に重要なセリフでした。ラモーナはコンスタンス・ウーが演じる女性のことが大好きなんです。だから、彼女がしまいにみんなのことを密告すると知っても、娘のためなんだと理解して、あのセリフを言ったのでしょう。
——今回は製作も務めていますね。そうまでしてこの物語を伝えたいと思った理由は何でしょうか?
脚本を読んだ瞬間に気に入ったんです。物語や脚本はさておき、アイディアそのものにね。プロデューサーとして名を連ねているのは、私のほかにエレイン・ゴールドスミス=トーマス、ジェシカ・エルバウム、それからローリーンも。つまり、これは女性たちが製作している作品なんです。監督も女性、脚本も女性、主なキャストも女性、編集も女性です。それだけでワクワクしました。これは絶対にすごい企画になると思いましたし、実際に本物志向の気骨ある作品に仕上がったと自負しています。少なくともフワフワした映画なんかじゃありません。深みにハマっていきますし、キャラクター設定もすごいし、巧みに綴られる物語は見事です。そういう意味でも各別な作品になると確信していました。一方で、私にとっても没頭しがいのある作品だったんです。というのは、今自分のことだけを考えて振り返ってみても、かなりおいしい役でしたからね。
——市場の話になりますが、興行成績が見込めるメジャーな映画で、ラテン系の女性たちが主役として活躍できる機会を増やすのは重要なことだと思いますか?
もちろんです。現に昔から、そういう機会を広げるようにみんなで努力をしてきたつもりですよ。私も20代の頃からラブコメの主役を演じてきましたが、あの手の役柄を演じるタイプの女優って昔からだいたい決まってますよね。そのあたりもクイッと変えていきたいんです。すべてをできるだけ、絵空事から現実へと近づけていきたいんですよ。そしてその目標は達成できているとも思います。女性にとって、いい時代になったと感じているんです。いよいよ私たちが真価を発揮して、堂々と意見を言い、任せてもらえるようになってきました。
——このわずか数年でそのように変化してきたと感じませんか?
しばらくそんな状態が続いていると感じますね。ただそうは言っても「まだまだ満足できない、真の平等に至るまでには時間がかかりそう」と考えてしまいます。とにかく、実現に向けて頑張るしかないですね。
——実在のラモーナに会おうとは思わなかったのでしょうか?
会いたかったんですが、会わない方がいいという結論に達したんです。実在の人物を演じるのは大好きで、セレナ(『セレナ』<97>)を演じた時にもプチ(『エル・カンタンテ』<06>)を演じた時にも、嬉々として本人の頭の中を覗きに行って、彼女たちの言動を肌で感じるようにしていたんですが、今回はもう少し作り込んでいきましたからね。
——ありがとうございました。
ハスラーズ ブルーレイ&DVD発売中
ブルーレイ=4800円+税、DVD=3900円+税|【映像特典】インタビュー集(コンスタンス・ウー&ジェニファー・ロペス/リリ・ラインハート&キキ・パーマー/ローリーン・スカファリア)、トロント国際映画祭 ワールドプレミア、予告集(本予告/TVスポット)|発売・販売元=ハピネット
【STORY】祖母に育てられたデスティニー(コンスタンス・ウー)は、祖母を養うために働き始めたストリップクラブでトップダンサーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)出会う。2人は協力して大金を稼ぐようになるが、金融危機によりクラブで働くダンサーたちも大打撃を受け……