成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて約40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
英国生まれだが小さい頃、気管軟化症を患いスペインに移住してから元気一杯の少女に
「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」「ミッドサマー」(共に2019)、期待の「ブラック・ウィドウ」などなど話題作に登場してはパワフルな存在感を見せてくれるフローレンス・ピューは映画業界を震撼させた「レディ・マクベス」(2016)で主人公を演じた時、たった20歳だったのである。
ハリウッドの新人らしからぬ存在感、挑戦的な表情、怖いものなしの姿勢、などなどが全て新鮮でユニークだった上に何よりも大事な演技力が度肝を抜くばかりのレベルゆえに、短い間に凄まじいスピードでスターにのし上がってしまった。まだ24歳である。
英国はオックスフォード生まれだが、小さい時に気管軟化症を患って入院ばかりして、病弱だったために、暖かいスペインのアンダルシアに3年余り移住、すっかり元気になったフローレンスは色々なアクセントの物まねが上手なのを利用して、見よう見まねの舞台劇やミュージカルを家族の前で披露しては大威張りではしゃいでいたと言う(今の彼女を見るとほとんどそのまま成長したようだが)。
父親はレストラン経営、母親はダンスのインストラクター、4人兄弟の末っ子でミュージシャンのトビー・セバスチャンは兄貴、他の姉上たちも女優と家族全員が歌や踊りが大好きで『まるで、トラップ・ファミリーそのものだったのよ!』とフローレンスは嬉しそうに説明していた。あの「サウンド・オブ・ミュージック」の合唱団家族である。
高校時代から既に映画にテレビに出演、鼻っ柱の強い女の子の役を持ち前のガッツを武器に演じては諸々の映画祭で注目されるように。当時のレッドカーペットの彼女は小さ目のドレスを若さではちきれそうに着こなしていた。
「ブラック・ウィドウ」で共演したスカーレットとはすぐに大の仲良しになったという
初めてフローレンスにインタビューしたのはTV ミニシリーズ「ザ・リトル・ドラマー・ガール」(2018)の時。
肩に垂れるブロンドの髪にカジュアルなブラウスというシンプルなスタイルで現れ、にこやかに笑いながら、低い太目の声で質問に答えてくれる。
『売れない女優が観光地のギリシャで英国のスパイの任務を与えられるって、凄く面白い役でしょう。私が全く有名でなかったためにプロデューサーたちは苦労したみたいだけれど、役とほとんど同様な立場にいる私だからこそリアルな存在になるってグリーンライト(ゴーサイン)が降りたみたい。
相手役のアレクサンダー(スカルスガルド)が凄くハンサムでその上すごいのっぽでしょう。暑いギリシャのロケで私は汗ダクダクだというのに彼はすっきり、クールな状態を維持している。どう見ても私は彼の引き立て役でちょっと縮んでしまったけれど、新米の私を見て彼はさり気なく助けてくれてね。
スカンジナビアの人達って背が高くて、取っ付きにくそうに見えるけれど実は誠実で、親切で、結構下品なジョークも発する楽しい人達が多いのだなあと印象を良くしたわね。この撮影でギリシャがすごく好きになって、ロンドンで雨の日が続いたりすると、ああ、ギリシャに飛んでいってチーズがたっぷりのサラダが食べたい!って凄く思ってしまう』
さて「ストーリー・オブ・マイライフ…」の時はというと、
『誰もがジョーがローリーと結婚するべきと思う中で私が演じるエイミーが横から略奪するように結婚してしまって、うーん、何か嫌われそうな役になりそうと思ったけれど、いかにエイミーが自分の将来を考え、ジョーのキャリア志向をも踏まえて、そういう決断を取ったのだと納得してもらえるように役作りをしたのよ。
もっともジョーの原稿を焼いたりするエイミーの気持ちは分からないでもないけれど、私自身は姉の大事なものを焼いたり絶対にしないわね』と懸命に説明していた。
次の「ブラック・ウィドウ」では主演のスカーレット・ヨハンソンも舌を巻いたほどの活躍を見せ、撮影のスタートから二人は大の仲良しになったと言う。約1年余り前からアメリカ人俳優のザック・ブラフと交際中である。
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