いよいよ2020年も終わり。新型コロナで世界中が大変な1年だったが、そんな中、多くの著名な映画人たちがこの世を去った。その主な顔ぶれを振り返ってみると……

ショーン・コネリーらベテランからチャドウィック・ボーズマンなど旬の人まで

 コロナ禍に話題が集中する中、2020年も映画界の大物スターや人気者が亡くなるニュースも舞い込んできました。ショーン・コネリーはじめ「007」シリーズの出演者が次々亡くなったり、まさかのチャドウィック・ボーズマンの急死など……そこでもう一度彼らの業績を振り返ってみよう。(文・清藤秀人)

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開再再延期が発表された今年10月、ショーン・コネリーがこの世を去った。『ドクター・ノオ』(62)以来シリーズ全7本で彼が定着させたのは、クールで女好きで酒好きの敏腕スパイ像。5人の後輩ボンド役者たちはそれを超えようとしたが超えられなかったと思う。シリーズ卒業後は『薔薇の名前』(86)で英国アカデミー賞、『アンタッチャブル』(87)でアカデミー賞に輝くなど、人間味溢れる自然体の演技が評価される。亡くなったのは『ドクター・ノオ』のロケ地ジャマイカに近いカリブ海のバハマ。彼はボンドの故郷に帰ったのだろうか。
 トランプ政権下でブラック・ライブズ・マター運動が盛り上がった今年、映画界がチャドウィック・ボーズマンを失ったことは大きい。43歳という年齢だけではない。『42 世界を変えた男』(13)や『ブラックパンサー』(18)を例に挙げるまでもなく、彼が築き上げた物静かで上品な黒人像は、演技派スターのデンゼル・ワシントンでも、アイドルのウィル・スミスでもない、人種差別への怒りを自尊心で隠した唯一無比のものだったからだ。果たして、今後いつ後継者が出てくるだろうか?

画像: チャドウィック・ボーズマン

チャドウィック・ボーズマン

 音楽界はエンニオ・モリコーネを失った。2006年にアカデミー名誉賞、2015年の『ヘイトフル・エイト』では86歳で同作曲賞を受賞。『荒野の用心棒』(64)のトランペット、『続・夕陽のガンマン』(66)の口笛など、全ての音を自らオーケストラ用にアレンジするスタイルは、他の作曲家にはない独特のもの。そうして紡ぎ出された郷愁をそそるメロディは、全音楽ファンに愛され続けていくに違いない。

画像: エンニオ・モリコーネ

エンニオ・モリコーネ

 巨星・逝く! この表現が相応しかったカーク・ダグラス。享年103歳。ハリウッドのゴールデンエイジを代表する存在でありながら、製作総指揮と主演を兼任した『スパルタカス』(60)では、“赤狩り”(共産主義者排斥運動)で仕事を干されていたドルトン・トランボを本名で脚本家として迎え入れ、不遇の映画人たちを現場に復帰させるきっかけを作ったと言われる。自ら主演したブロードウェー舞台劇の映画化『カッコーの巣の上で』 (75)でも製作と主演を兼任するつもりだったが、息子のマイケル・ダグラスに製作が移った頃には、もはや年齢を理由に諦めざるを得なかった。常に戦い続けた気骨の映画人だったのだ。

画像: カーク・ダグラス

カーク・ダグラス

 オリヴィア・デ・ハヴィランドは享年104歳。『遙かなる我が子』(46)と『女相続人』(49)で2度オスカーに輝き、『風と共に去りぬ』(39)のメラニー役は最高の当たり役だった。2003年の第75回アカデミー賞授賞式ではスタンディング・オベーションと共に迎えられ、ステージ上に勢揃いした歴代の受賞者たちを紹介したハヴィランド。壇上には、ショーン・コネリーとカーク・ダグラスの姿もあった。

画像: オリヴィア・デ・ハヴィランド

オリヴィア・デ・ハヴィランド

 魅力的なベテラン俳優たちが次々と旅立って行った。『第七の封印』(56)以来、巨匠イングマル・ベルイマン作品の常連で、『エクソシスト』(73)では命を張って悪魔と対決する無神父に扮したスウェーデンの名優、マックス・フォン・シドー。『軽蔑』(63)、『昼顔』(67)等、女優たちの前にはいつもこの人がいたフランス映画界の重鎮、ミシェル・ピコリ。『ランボー』(82)ではシルヴェスター・スタローンを執拗に追う警官を演じ、『建築家の腹』(87)では一転して奇才ピーター・グリーナウェーに招かれ、苦悩と狂気の日々を送る中年建築家の内面を演じ切ったブライアン・デネヒー。『エイリアン』(79)ではサイボーグ然とした無表情で通し、『炎のランナー』(81)では自ら育て上げたユダヤ人短距離ランナーの勝利に歓喜するコーチを演じて、アカデミー助演男優賞候補に名を連ねたイーアン・ホルム。『ジャッカルの日』(73)では暗殺者を追跡する平凡だが優秀な刑事を、『007 ムーンレイカー』(79)ではボンドと対決する悪役ドラックスを演じたマイケル・ロンズテール。みんな一筋縄ではいかない曲者ばかりだ。

画像: マックス・フォン・シドー

マックス・フォン・シドー

 ブルース・リーの『燃えよドラゴン』(73)で武術トーナメントにエントリーする格闘家を演じて、映画と共に伝説的な存在になったジョン・サクソン。そして『スラムドッグ$ミリオネア』(08)や『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(13)に出演し、映画ファンに愛されたインドの名優、イルファン・カーンの突然の死も、ここに記したいと思う。

2020年に亡くなった主な映画人

バック・ヘンリー(1月8日)
テリー・ジョーンズ(1月21日)
カーク・ダグラス(2月5日)
ロバート・コンラッド(2月8日)
マックス・フォン・シドー(3月8日)
スチュアート・ホイットマン(3月16日)
ケニー・ロジャーズ(3月20日)
スチュアート・ゴードン(3月24日)
シャーリー・ダグラス(4月5日)
オナー・ブラックマン(4月6日)
アレン・ガーフィールド(4月7日)
ブライアン・デネヒー(4月15日)
アレン・ダヴョー(4月15日)
シャーリー・ナイト(4月22日)
イルファン・カーン(4月29日)
リトル・リチャード(5月9日)
ミシェル・ピコリ(5月12日)
リン・シェルトン(5月15日)
リチャード・ハート(5月26日)

画像: ブライアン・デネヒー

ブライアン・デネヒー

イーアン・ホルム(6月19日)
ジョエル・シューマカー(6月22日)
カール・ライナー(6月29日)
エンニオ・モルリコーネ(7月6日)
ナヤ・リヴェラ(7月8日)
ケリー・プレストン(7月12日)
ジョン・サクソン(7月25日)
オリヴィア・デ・ハヴィランド(7月26日)
アラン・パーカー(7月31日)
ウィルフォード・ブリムリー(8月1日)
リンダ・マンズ(8月14日)
ベン・クロス(8月18日)
チャドウィック・ボーズマン(8月28日)
イジー・メンツェル(9月5日)
ダイアナ・リグ(9月10日)
マイケル・ロンズデール(9月21日)

画像: イーアン・ホルム

イーアン・ホルム

マーガレット・ノーラン(10月5日)
ロンダ・フレミング(10月14日)
ヴォイチェフ・プショニャック(10月19日)
ショーン・コネリー(10月31日)
フェルナンド・E・ソラナス(11月6日)
ソン・ジェホ(11月7日)
ダリア・ニコロディ(11月26日)
デーヴィッド・プラウズ(11月28日)
ヒュー・キース・バーン(12月1日)
パメラ・ティフィン(12月2日)
キム・ギドク(12月11日)
ジョン・ル・カレ(12月12日)
アン・ラインキング(12月12日)
ジェレミー・ブロック(12月17日)
クロード・ブラッスール(12月22日)

Photos by Getty Images

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