世界中で蔓延した新型コロナウイルスのために、映画界が大きなダメージを受けたこの1年が暮れゆこうとしています。映画界の今後の在り方も変えてしまうほどの様々な出来事が次々起きた2020年をもう一度振り返って、新たな年を迎えましょう。まずはいまだに映画館が再開できずにいるハリウッド・レポートから。 (文・荻原順子)

アカデミー賞で史上初の外国語映画が作品賞に輝いたが……

 アメリカ映画界は例年、年が明けるとアカデミー賞の候補が発表され、2月の授賞式に向けて各映画会社が自社作品のプロモーションにスパートをかける。2020年もそのように始まり、2月9日に授賞式が催された2019年度のアカデミー賞では、韓国映画の「パラサイト半地下の家族」が、アカデミー史上初めて外国語映画として作品賞を受賞するという快挙を成し遂げて話題になった。世界の映画界に新風を吹き込むような受賞結果はエキサイティングな出来事だったが、その16日後の2月25日、アメリカ疫病予防管理センター(CDC)は、アメリカ国民にコロナウイルス大流行の警告を発することになる。

画像: オスカーを受賞した「パラサイト半地下の家族」のポン・ジュノ監督

オスカーを受賞した「パラサイト半地下の家族」のポン・ジュノ監督

イベントはすべて中止、ウイルスに感染するスターも次々と

 3月に入ると、コロナウイルス感染がさらに拡大。米国政府は海外からの渡航制限を開始し、多人数が集まるイベントの中止を勧告する。3月16日には米国内のほとんどの映画館が営業を休止。それを受けて、それ以降に予定されていた新作の公開は次々と延期され、既に公開が始まっていた作品は、急遽インターネット配信に切り替えられるなどの措置が取られた。
映画関係のイベントも、3月9日にハリウッドのドルビーシアターで行われたディズニーの「ムーラン」のプレミアを最後に全て中止。(「ムーラン」は、その後、何度か公開日を延期し続けたのち、ディズニーの配信サービス、ディズニープラスで有料公開された。)多人数のキャストとスタッフが、互いに距離を取らずに閉め切ったスタジオで撮影を行う映画・テレビ製作も当然のことながら休止された。

画像: 上映が予定されていた「ムーラン」の広告

上映が予定されていた「ムーラン」の広告

その間に、トム・ハンクス&リタ・ウィルソン夫妻やアントニオ・バンデラス、ロバート・パティンソン、ドウェーン・ジョンソンなど、コロナウイルスに感染したことを明らかにする映画人も出て来た一方、感染拡大を防ぐために外出を自粛していたファンたちを少しでも楽しませようと、自宅で踊ったり楽器を演奏したりするスターたちも見られた。

映画館が休業を余儀なくされて上向きになるビジネスもあり

 コロナウイルスの感染拡大防止のために従来型の映画館が休業を余儀なくされた一方で、全米の郊外を中心にいまだに残っていたドライブインシアターは、車の中で家族や友人だけで鑑賞できるゆえ各自治体の規制適用外だということで人気が復活。大手映画会社が揃って大作・期待作の公開を延期しているため、独立プロダクションの作品や低予算の作品、それに過去のヒット作に限られた上映ではあるが、家から出たくて仕方がない映画ファンたちで賑わっていた。

画像: ドライブイン・シアターが盛況に

ドライブイン・シアターが盛況に

 同様にビジネスが上向きになっているのはインターネット配信サービスで、業界最大手のNetflixは映画館が休業に入ってから1600万件もの新規契約を取り付けている。また、小規模な映画館チェーンの中には、上映するはずだった作品の配給会社と共同で、3月から4月にかけて独自のサイトから有料配信する試みも行われた。(売り上げは従来の映画館上映と同じ比率で配分されたとのこと)

画像: 配信サービスが業績を伸ばした

配信サービスが業績を伸ばした

ブラック・ライブズ・マター運動がセレブの間でも広がる

 米国内のコロナウイルスによる死者が10万人になろうとしていた5月25日、ミネソタ州ミネアポリス近郊で、偽ドル札の使用容疑をかけられた黒人男性ジョージ・フロイドが、逮捕の過程で白人警官に殺される事件が起きる。それに先だち、2月にジョギング中の黒人男性が理由も無しに白人3人組に射殺された事件や、3月には容疑者の住所を間違えた警察が自宅に居合わせた無関係の黒人女性を射殺する事件が起こっていたが、フロイドの事件で黒人たちの怒りは限界に達し、全米各地で人種差別に抗議するデモが起きた。

画像: ブラック・ライヴズ・マターの運動にはセレブも参加

ブラック・ライヴズ・マターの運動にはセレブも参加

ブラック・ライヴズ・マター(BLM)と総称されるこの動きには、ハリウッド・スターたちも参加。ブラッド・ピットやジェニファー・ロペス、ジョン・ボイエガ、マドンナのようにデモに参加したり、ビヨンセやライアン・レーノルズ&ブレーク・ライヴリーのようにソーシャルメディアで抗議の声を発信したりしてBLMへの支持を表明した。

アメリカ大統領選で『投票へ行こう』と呼びかけたスターたち

2020年は米国大統領選挙の年でもあったが、2016年の大統領選の際、ハリウッド・スターたちが民主党候補のヒラリー・クリントンを派手に応援したことが一部の国民から反感をかって、ドナルド・トランプの勝利に一役かった可能性がある指摘されたこともあってか、今年は民主党候補のジョー・バイデンを積極的に応援するスターたちの姿はごく少数だった。その代わり、概してリベラルだが選挙に無関心だと言われている若い世代の有権者たちを投票に導くべく「投票しよう!」とソーシャルメディアなどを使って呼びかけるスターや、11月3日の投票日が近づくと期日前投票した自分の姿をインスタグラムに載せるスターが多かった。

秋になっても新作が公開されないハリウッドでは新作が配信に直行する例も

いつもの年であれば、秋に入るとアカデミー賞を意識したような力作・話題作が次々に公開され、テレビ界でも新番組や新シーズンが開始されるアメリカだが、今年は全くの例外。アメリカ国内での感染拡大はなかなか収まらず、ニューヨークシティやロサンゼルスなどの主要マーケットの映画館はいまだに休業中で、大手映画会社の新作はほとんど劇場公開されていないし、新しいテレビ番組も放映されていない。既存のドラマシリーズも11月に入ってやっと新シーズンのエピソードの放映が少しずつ始まっている程度だ。そのような状況で、映画会社も大作の作品公開を延ばし続けるわけにもいかず、ワーナーブラザーズは、今年の目玉作品の1つだった「ワンダーウーマン 1984」を、米国内では12月25日に映画館と有料配信サービスHBO MAXとで同時公開することを明らかにした。

画像: 「ワンダーウーマン1984」は劇場公開と配信が同日に開始となる措置に (C)2020 Warner Bros. Ent. all Rights reserved. TM & (c)DC Comics

「ワンダーウーマン1984」は劇場公開と配信が同日に開始となる措置に (C)2020 Warner Bros. Ent. all Rights reserved. TM & (c)DC Comics

 11月末の感謝祭と、それに続くクリスマスには国内での人の往来が増えることが予想されてさらなるコロナウイルス感染拡大が見込まれているため、大都市部の映画館の営業再開は望み薄で、筆者のようなロサンゼルス在住の映画ファンは、やむを得ず大型アクション映画である同作を小さなスクリーンで見ることになりそうなのは残念な限りである。その他にも、ユニバーサル・ピクチャーズは、通常1か月だった劇場公開の優先期間を縮め、新作公開後17日経ったらビデオ・オン・デマンドでも公開を開始しできるという協定を大手映画チェーン2社と結んでいる。
 アメリカでは現在、現大統領のドナルド・トランプがジョー・バイデンの当選を認めず、政治的な紛糾が続いているが、1月20日に無事、新政権が誕生すれば、より強力なコロナウイルス感染対策が期待できるし、ワクチンの開発も最終段階に来ていると報じられている。これまでは2月末に開催されていたアカデミー賞は4月25日に延期されたが、それまでにコロナウイルス感染がスローダウンし、ハリウッドもアメリカ社会も回復に向かっていることを祈るばかりである。

photos by Getty Images

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