APARTMENTは、1989年のオープン以来ミニシアターブームをけん引してきたBunkamuraル・シネマが、独自に権利を取得した日本初公開作品を中心にオンラインで配信上映するサービス。渋谷の劇場で上映される作品とは異なるラインナップ編成を行う。
オープニングを飾るのは、2021年英国アカデミー賞で『ノマドランド』の7部門を上回る最多8部門でノミネートされ、「最もパワフルなシスターフッド映画」と評される『Rocks/ロックス』(サラ・ガヴロン監督)と、リレーションシップ、ロマンス、そもそも映画を観ることとは──『恋人たちの予感』から『ブリジット・ジョーンズの日記』、『ゴッズ・オウン・カントリー』まで幾多のロマコメ映画の名場面を引用しつつ、その魅力とこれからについて語り合うフィルム・エッセイ『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』(エリザベス・サンキー監督)の2本。
月額等を支払うサブスクリプション形式ではなく、1本ごとに買い切りの有料鑑賞となる。
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/apartment
<作品①>『Rocks/ロックス』8月、APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMAにて配信上映開始
15歳の少女ロックスは、いたずら好きな弟エマニュエル、そして母親とイースト・ロンドンの公営住宅で暮らしている。メイクアップ・アーティストになることを夢見る彼女は、親友にも囲まれ学校では人気者。しかしある日、母親が突如姿を消してしまう。心配した隣人が福祉局に連絡するも、「見つかれば弟とはなればなれになってしまう」と恐れたロックスは、右も左も分からないままロンドンの街を漂流する。やがてお金も尽き限界を迎えるロックス。そんな彼女に助けの手を差し伸べたのは、これまでいつも支え合ってきた親友たちだった──。
『ファーザー』『ミナリ』、そして『ノマドランド』……錚々たる話題作が肩を並べた2021年の英国アカデミー賞。ノミネーション発表の段階で最大のサプライズとして迎えられたのが、本作『ROCKS/ロックス』だ。ほぼすべてのキャストがプロの俳優ではなく無名、作品知名度の圧倒的な差にも拘らず、監督賞・主演/助演女優賞の主要部門、公募部門のライジング・スター賞を含め『ノマドランド』を上回る最多8部門ノミネートを果たし、主役のロックスを演じたブッキー・バックレイは見事ライジング・スター賞を受賞。その快挙はオーディエンスに鮮烈な感動をもたらした。
「最もパワフルなシスターフッド」と評され、ガーディアン、エンパイア、テレグラフなど多くのメディアで最高評価の5つ星を記録、ロッテン・トマトでも97%フレッシュをキープする本作の監督は、20世紀初頭のロンドンで女性の参政権を求め闘う「サフラジェット」を描き絶賛された『未来を花束にして』のサラ・ガヴロン。貧富も、人種も混じり合うロンドンの公営住宅=カウンシル・エステートを舞台に、社会問題と思春期の少女の心の動きを真摯な眼差しと力強い手触りでリンクさせる。撮影には『17歳の瞳に映る世界』『幸福なラザロ』『Pina / ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』のエレーヌ・ルヴァール、前述の英国アカデミー賞を受賞したキャスティング担当には『アメリカン・ハニー』『フィッシュ・タンク』『アタック・ザ・ブロック』のルーシー・パーディーと、確かな腕を持つスタッフが集結。さらに、ロンドンの演劇シーンでデビュー直後から注目を集めるテレサ・イココ、TVシリーズで高評価を得たクレア・ウィルソン、ふたりの新星が脚本に息吹を吹き込み、Ray Blk、Jorja Smith、Little Simzらの楽曲がサウンドトラックで映画を彩る。誰かのことを強く想い、青い光をまばゆいストロボライツに変えてみせようとするロックスたちの声は、人を信じ身を預けることの困難と希望を、これ以上なく真摯に語りかける。
配給:Bunkamuraル・シネマ
2019年/イギリス/英語/93分
監督:サラ・ガヴロン(『未来を花束にして』)
脚本:テレサ・イココ、クレア・ウィルソン
撮影:エレーヌ・ルヴァール(『17歳の瞳に映る世界』『幸福なラザロ』)
編集:マヤ・マフィオリ
キャスティング:ルーシー・パーディー
キャスト:ブッキー・バックレイ、コーサル・アリ、ディアンジェロ・オセイ・キシェドゥ、シャネイヤ=モニク グレイソン、ルビー・ストークス、トゥヒーダ・ベガム、アナスタシア・ディミトロウ、アフィ・オケイジャ、サラ・ナイルズ
<作品②>『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』8月、APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMAにて配信上映開始
ティーンエイジャーの頃、私はロマコメ映画に狂おしいほど恋をしていた。ロマコメ映画は孤独への不安を和らげ、甘美な人生が待っていると約束してくれた。大人になった今はいろいろなことを考えてしまう。なぜ『プラダを着た悪魔』でアンディはネイトの誕生日に怒られるの?マグノリアのカップケーキじゃだめ?ブリジット・ジョーンズが57kg でオーバーウェイトだとバカにされるなら、私はどうなるのだろう。ロマコメ映画ではなぜ、キャリアウーマンはみんな惨めに描かれるの?みなが白人で、異性愛者で、誰もが結婚を望む、非現実なおとぎ話の世界。なのに、なんで私はまだロマコメ映画を観てしまうのだろう。何度も、何度も。あなたはどう思う?ロマコメ映画のこと──。
ラブコメ=ロマコメ映画は多くの人々に深く愛されている一方で、本格的な分析はほとんどなされてこなかった。本作は幾多の名作映画の実際のシーン映像を抜粋し、「あの映画を観たときの高揚」を観客とともに追体験しながら、「ロマコメ映画とは?愛とは?」というテーマを探求し、自己発見の旅に出るフィルム・エッセイである。
監督はインディポップ・バンドSummer Camp として活動し、本作と同様のスタイルで青春映画について語ったドキュメンタリー『ビヨンド・クルーレス』のサントラも勤めたエリザベス・サンキー。膨大な数の名シーンを巧みに切り取り、自らのボイスオーバーで個人的な想いを重ねつつ、サウンドトラックも手掛ける。監督以外の「声」として、『このサイテーな世界の終わり』『ロブスター』で注目を集めるジェシカ・バーデン、前述の『ビヨンド・クルーレス』の監督チャーリー・ラインをはじめとして、Pitchfork、NME、Rolling Stone 等のカルチャーメディアで活躍する批評家やライターたちが集結。多様な視点からロマコメ映画について語り尽くす。
旧来のロマコメ映画を礼賛すると同時に、現代的な視点で問題提起を行う本作。その言及対象は、「愛」を描く映画のオルタナティブなスタイルとしてのブロマンス≒バディものにまで及ぶ。愛について語るとき、わたしたちはどのような言葉を持ち得るのか?そもそも、映画を観て感動するとはいったいどういうことなのだろうか。相反するふたつの存在が互いの違いを認め、補い合うのがロマコメ映画の定石だとするならば、今あらためてロマコメ映画を語り直す意義は、きっと想像以上に大きいはずだ。
配給:Bunkamuraル・シネマ
2019 年/イギリス/英語/ 78 分
監督・脚本・編集:エリザベス・サンキー
音楽:Summer Camp、ジェレミー・ワームスリー
キャスト:ジェシカ・バーデン(『このサイテーな世界の終わり』『ロブスター』)、チャーリー・ライン、アン・T・ドナヒュー、キャメロン・クック、シムラン・ハンス、ブロディ・ランカスター、エレノア・マクドーウォル、ローラ・スネイプス