50年以上続いたコロンビアの内戦を下敷きに、モノスと呼ばれる少年少女兵たちの狂気の暴走を生々しく、そして幻想的に描き、サンダンス映画祭ほか世界中の映画祭で30もの受賞を果たした映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』。10月12日の公開を前に、特別上映会が行われトークショーが開催された。
画像: 左から、映画評論家の森直人さん、Base Ball Bear の小出祐介さん、映画音楽作曲家で演奏家の世武裕子さん

左から、映画評論家の森直人さん、Base Ball Bear の小出祐介さん、映画音楽作曲家で演奏家の世武裕子さん

3人の識者の評価は……?

世武裕子さん

「年間ベストに挙げるレベルで好き。インテリジェンスと野性的なもののバランスがいい。地獄みたいなリアリティを描く一方で、音楽や映像の作り込みが細部までちゃんとされている。でも狙い過ぎていない。ミカ・レヴィが手掛けた音楽って、気持ち悪い感じというか、不穏な気持ちにさせるじゃないですか。それはやっぱりすごいことですよね。そして何よりもパンク精神がある。作家性が強いというか……。ただ、ミカ・レヴィ的なミニマルな音作りをするには、印象的な画と脚本と構成じゃないときついと思います。私も本来やりたかったので。『MONOS』を初めて観た時に、めちゃくちゃすごい!ってテンション上がったのと同時に、悔しいっていう気持ちもありました」

森直人さん

「大傑作だと思います。描写としてはある種リアリズムに近いものがありつつ、南米文学や映画にあるマジックリアリズムのような、めまいのするような映画体験でした。細部の詰まり方がすごいなと思いました。表象としては出さないけれども、各シーンがどういう意味を持つのか監督の中でしっかり出来上がっている気がする。かといって理詰めの窮屈な感じもなくて。野生味とか野蛮な感じが、肉体性をもって勢いよく解き放たれている。本当に欠点がないなって思います」

小出祐介さん

「登場人物の背景や、ゲリラ兵としての役割、さらに登場人物の性別も曖昧ではっきりしない中で、権力体制がくずれ秩序が乱れていく様子はまるで猿山をみているようだった。普段は作品の背景を考えたりしながら観るので、これだけぼかされてて面白いと思うのは、根本的な構造がまず面白いんだろうなと思いました。音楽も笛の音やアナログシンセの音が序盤からずっと効果的に使われていて、組み合わせを変えたり、変奏したりしながら展開していく音の作り方は『アンダー・ザ・スキン』にも共通しますよね。こういう音の作り方が、ミカ・レヴィの作家性と言っていいのか、と。意外と観る人を選ばない作品なんじゃないかなと思います。いわゆる万人向けに作られているものではないけど、見たらちゃんと誰にでも刺さると思います。深掘りして観ることも、映像や音といった観点からアート的な見方もできますし、誰にでも開かれた映画なんじゃないかな」

画像: © Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine

© Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine

MONOS 猿と呼ばれし者たち
10月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本・製作:アレハンドロ・ランデス
音楽:ミカ・レヴィ
出演:モイセス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソン

世間から隔絶された山岳地帯で暮らす8人の兵士たち。ゲリラ組織の一員である彼らのコードネームは“モノス”(猿)。「組織」の指示のもと、人質であるアメリカ人女性の監視と世話を担っている。ある日、「組織」から預かった大切な乳牛を仲間の一人が誤って撃ち殺してしまったことから不穏な空気が漂い始める。ほどなくして「敵」の襲撃を受けた彼らはジャングルの奥地へ身を隠すことに。仲間の死、裏切り、人質の逃走…。極限の状況下、”モノス”の狂気が暴走しはじめる。

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