アルトマンの演出が冴える、ぎこちない愛の物語
『ボウイ&キーチ』Thieves Like Us (1974)
製作は1974年。アメリカン・ニューシネマ終わりの時代に花開いたギャング映画、黄昏の名篇である。1930年代、アメリカ大恐慌の時代。3人の男がミシシッピー州の州立刑務所から脱走する。彼らの名は年長のチカモーとTダブ、そして年少のボウイ(キース・キャラダイン)。銀行強盗をつづける3人はアジトでキーチ(シェリー・デュヴァル)という口数の少ない娘に出会う。
監督はTV界出身で、その後『ナッシュビル』『三人の女』『ザ・プレイヤー』『ショートカッツ』『今宵、フィッツジェラルド劇場で』など多くの名作を撮るロバート・アルトマン。彼の初期を飾る逸品である。基本は犯罪映画なのだが、へそ曲がりのアルトマンなので、趣きがいささか異なっている。世界のどこにも居場所を見つけることのできないふたり、ボウイとキーチのロマンス映画なのである。
その後『ギャンブラー』や『ナッシュビル』でアルトマン監督と組むキャラダインとデュヴァルだが、初期の『ボウイ&キーチ』ではまだ初々しい。いつもタバコを吹かし、コカ・コーラを飲んでいるキーチと、やがて彼女への愛を明かす年若いギャングのボウイ。ポーチのロッキングチェアに座り、とりとめのない話をするふたり。脇のラジオでは当時人気のあった犯罪ラジオドラマ「シャドー」やらが流れ、やがてそれが「ロミオとジュリエット」に変わる。〝こうしてふたりは激しい恋に落ちる〟のだ。
このあとスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』などで当代有数の個性派女優となるシェリー・デュヴァル(当時25歳)が、映画のなかで魅力を増してゆくのが本当に不思議。ここでも「強盗の最中に私を思った?大事なのは私より彼らなのね」と駄々をこねる女なのだが、それが個性的なルックスと共にチャーミングにも思えるのだから大したもの。
劇中、くり返される銀行強盗シーンは逃走用の車のなかでボウイが待っているだけという素っ気なさで、犯行の様子が映されるのは最後の一回だけ。それも建物内を淡々ととらえるワンシーン、ワンカット撮影だ。ほかにも被写界深度の深いカメラ(画面の手前と奥の様子がピタリと捉えられる)の使用など、異才アルトマンの演出は冴えわたっている。
犯罪映画のなかに灯るぎごちない愛の物語。1970年代を飾る心に染みわたる一本だろう。
ロバート・アルトマン Robert altman
1925年2月20日、ミズーリ州生まれ。ベルリン、ヴェネツィア、カンヌ映画祭で最高賞を獲得した名監督にして個性派ディレクター。テレビ界で「コンバット」などを発表後、映画界に進出。
朝鮮戦争を風刺した『M★A★S★H マッシュ』を筆頭に、『ギャンブラー』『ロング・グッドバイ』『ボウイ&キーチ』『ナッシュビル』『ザ・プレイヤー』など多彩なジャンルの作品を発表した。後期は即興演出を利用した集団劇が多い。2006年11月20日没。
\日本発Blu-ray化!/
ボウイ&キーチ
Blu-ray & DVD 6月24日(金)発売
Blu-ray=5280円(税込)
DVD=4180円(税込)
【封入特典】解説書(執筆者:柳下毅一郎)、縮刷版劇場チラシ
【映像特典】オリジナルトレーラー
発売・販売元:マクザム
© 1974 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
ハイアムズらしい見せ場も多い刑事バディ物
『破壊!』Busting(1973)
ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの『明日に向って撃て!』や、ジーン・ハックマンとアル・パチーノ共演の『スケアクロウ』といったニューシネマ時代の名篇。1980年以降の『リーサル・ウェポン』『ミッドナイト・ラン』『ラッシュアワー』などの刑事ドラマの人気作。最近もタランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』など、バディ(相棒)物のドラマは大人気だ。
でもこれを忘れてはいけない!それが1974年公開の『破壊!』だ。『M★A★S★H』『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドと、『冷血』『グライド・イン・ブルー』のロバート・ブレイクがコンビを組んだ警察映画の大快作である。同年公開のジェームズ・カーンとアラン・アーキン共演の刑事アクション『フリービーとビーン/大乱戦』と並ぶ痛快作じゃないかな。製作は、相棒のロバート・チャートフと組んで『ロッキー』シリーズなど多くの名作を作ったアーウィン・ウィンクラー。サンフランシスコで風俗取り締まり班としてホシを追うふたりの刑事の奮闘を描いた一作である。
オープニングから歯科医のもとを訪れる娼婦のおねえちゃんが登場。キニーリー(グールド)とファレル(ブレイク)のふたりはズカズカと診療室に入ってゆき、一戦交えていた歯科医と娼婦のジャッキーを詰問し、彼女とつながっている街の顔役リゾー(アレン・ガーフィールド)の存在を知る。ふたりをいさめる上司とぶつかりながら、キニーリーとファレルの捜査はつづいてゆく。
クラブで逮捕されたゲイ・カップルを審理する法廷、アダルト・ショップの怪しげな店主、ボクシング・ジムなど舞台は次々と変わり、野良犬のように事件を追うふたりの姿が描かれる。
演出は、これが第一作となったピーター・ハイアムズ。以降『カプリコン・1』など多くの快作を放った俊英である。撮影を兼任する才人として知られており、このデビュー作でもところどころで本人がカメラを回しているのは間違いない。スピーディーな街中での追跡シーンや、地面ぎりぎりにカメラを置いたカーチェイスなど工夫が目立つ見せ場がいっぱいだ。いつもクチャクチャとガムを噛むグールドと、吸いもしないタバコをくわえているブレイク。ふたりの掛け合いの妙が最高。幕切れの苦みも忘れられぬ一作である。
ピーター・ハイアムズ Peter Hyams
1943年7月26日ニューヨーク生まれ。TV局CBSで働いたのちロサンゼルスへ移り、『破壊!』で監督デビューを遂げる。以後、『カプリコン・1』『アウトランド』『プレシディオの男たち』『カナディアン・エクスプレスなど、幅広いジャンルの娯楽作を手がけて人気を博す。
また『2010年』では原作者のアーサー・C・クラークと協力して、名作『2001年宇宙の旅』の続篇に挑んだ。演出作の多くで脚本と撮影を兼任する多才な才能の持ち主。
\日本発Blu-ray化&ノーカット日本語吹替音声収録!/
破壊!
Blu-ray & DVD 7月29日(金)発売
Blu-ray=5280円(税込)
DVD=4180円(税込)
【封入特典】解説書(執筆者:尾崎一男)、縮刷版劇場チラシ
【映像特典】オリジナルトレーラー
豪華メンバーが集まった吹替版!
日本語吹替音声には伊武雅刀、尾藤イサオ、高畑淳子、富山敬、増岡弘らが集結。
こちらでもぜひ楽しんでみてほしい!
発売・販売元:マクザム
© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.