クロサワもまた文豪なり
2010年の「生誕100年 映画監督 黒澤明」、2018年のポスター展「旅する黒澤明」、2020年の「公開70周年 映画『羅生門』展」とこれまで同センターは幾度も展覧会を通じて黒澤映画の先端的な探求を推し進めてきた。今回は専門家の全面的な協力を得て、そのシナリオ術に照準を当て、黒澤映画を新しい角度から研究する。
全体を8つの章と特別コーナーに分け、『書く人』黒澤の仕事をたどっていく本展覧会。
第1章「脚本家・黒澤明の誕生」では1936年にPCL映画製作所に入社した頃、シナリオ修業が映画監督への道であると教えを受けた若き頃澤が助監督の業務の傍らに書いた数々の台本を展示。第2章「敬愛した文豪たち」では黒澤に影響を与えた文豪として、シェイクスピア(『蜘蛛巣城』『乱』)、ドストエフスキー(『白痴』)、山本周五郎(『椿三十郎』など)らの名著と黒澤映画の関係を検討する。
第3章「『七人の侍』創作の秘密」では映画史に残る名作のキャラ作りはどう行われていったのかを追い、第4章「創造の軌跡1──『隠し砦の三悪人』をめぐって」では黒澤、橋本忍、菊島隆三、小國英雄の4人が本作を旅館に泊まりこんで書き込んでいく様子を「デジタル展示システム」(IT-ONE Quest)を用いて紹介する。
第5章「創造の軌跡Ⅱ──改訂の過程をたどる」では『悪い奴ほどよく眠る』『生きる』などの名作のシナリオを執筆の段階ごとに読み解き、第6章「創造の軌跡Ⅲ──井手雅人とともに」では『赤ひげ』以降黒澤映画に欠かせない存在となった脚本家・井手の功績を明かしていく。
第7章「黒澤が提供した脚本たち」では自身では監督していない、他の監督のために書いた提供作品を展示、第8章「映像化されなかった脚本たち」では途中降板となったことで有名な米国との合作『トラ・トラ・トラ!』をはじめ、新発見のテレビドラマ脚本『ガラスの靴』など多くの未映像化作品のシナリオを展示する。
そして特別コーナーとして「海外での脚本出版と合本用の英語脚本」では海外で出版に至った脚本と、海外出資調達用に必要になった英訳版シナリオを展示。
いずれのコーナーも黒澤映画研究の最新形となる必見の展示物揃い。マニアならずとも見逃せない。
また10月4日からの上映企画「東宝の90年 モダンと革新の映画史2」の中では本展覧会に関連した作品を11月後半に上映するというので、これも楽しみだ。