“35mmフィルムに対し最後の貢献をさせてもらった”
映画『七人樂隊』は、ジョニー・トー監督のプロデュースで、長らく香港映画界を牽引してきた七人の名匠が集結。1950年代から未来まで、10年ずつ年代を分けて担当した短編7本から成るオムニバス映画。七人の監督が特別なノスタルジーをこめ、腕によりをかけて映像化した7つの物語は、デジタルカメラが主流の現代にあえて35mmフィルムでの撮影を行い、過ぎ去りし“フィルムの時代”への敬意を表明していることでも注目されている。
⽇本での公開に際し、7作品中の掉尾を飾る「深い会話」を監督したツイ・ハークによるコメント映像が公開された。
ツイ・ハーク監督は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ天地黎明』『⻄遊記2 妖怪の逆襲』等で⽇本でも多くのファンをもつ⾹港を代表する監督のひとりです。創作アイデアだけでなく技術⾯でも、⾰新の先駆者であり、武侠映画の伝統を覆した出世作の『蝶変(原題)』、『天上の剣The Legend of ZU』ではSFXの威⼒を⽰し、“⾹港のスピルバーグ”としても名を馳せた。「王朝の陰謀」シリーズ、『タイガー・マウンテン雪原の死闘』等、今なお、最もヒットを⾶ばす監督のひとりでもある。
今回、ハーク監督が担当した時代は「未来」。完成した「深い会話」のストーリーは、精神科医(チョン・カムチン)と患者(チョン・タッミン)の対話を中⼼に進み、⾹港映画ファンにとっては思わず笑わずにはいられないスターや監督たちの固有名詞も挟みつつ、予測不能にねじれていく不条理コメディとなっている。さらに、その医師と患者のやりとりを、隣の部屋にいる別のふたりの男性(ローレンス・ラウとラム・シュ)がガラス越しに観察しており、観るものを「⼀体、誰が医師で、誰が患者なのか︖」と混乱させる。全7作品中、最も⼀筋縄ではいかない作品であるとともに、最も鮮烈な印象を与える作品と⾔っても良いかもしれない。未来という先の⾒通せないテーマに対して、ハーク監督ならではのユーモアの効いた回答といった趣もあり、⾒逃せない⼀作だ。
しかし、インタビューに答えるハーク監督は、作品で見せた観客を煙に巻くような受け答えはせず、次のように真摯に語る。「すでに僕たち映画界から関係がきれた(35mm)フィルムに対し、最後の貢献をさせてもらったこと、これは映画スタッフにとって意義があることです」また、仲の良い友人であったリンゴ・ラム監督の遺作となってしまったことにも触れ、観客が彼の作品に込められたメッセージを感じて欲しいとも話した。
『七人樂隊』10月7日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
第73回カンヌ国際映画祭カンヌセレクション2020で上映された本作は、ジョニー・トー監督のプロデュースで七人の監督が集い、担当する年代をくじで選び製作されたオムニバス作品。
まだ貧しかった50年代、必死にカンフーの稽古に励んだ幼い自分と仲間の姿を描くサモ・ハン監督「稽古」。教育に生涯を捧げる校長先生と、家族のように日々を過ごした、女性教師の淡い憧れを描いたアン・ホイ監督「校長先生」。移住を控えた恋人たちの別れをスタイリッシュな映像で描いたパトリック・タム監督「別れの夜」。移住する孫と香港に残るおじいさんの温かな交流を描くユエン・ウーピン監督「回帰」。香港特有の喫茶店“茶餐廳”を舞台に、庶民が株価に右往左往するジョニー・トー監督の「ぼろ儲け」。イギリスから久しぶりに帰って来た主人公が、香港の変わり様に翻弄されるリンゴ・ラム監督「道に迷う」。精神科の治療風景を描き、たたみかける台詞が魅力のツイ・ハ―ク監督「深い会話」。フィルム時代に敬意を表し、全編35mmフィルムで撮影されている。
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