東京・京橋の国立映画アーカイブで2023年2月7日(火)から行われる上映企画「日本の女性映画人」では、日本における女性映画人の歩みを歴史的に振り返り、監督・製作・脚本・美術・衣裳デザイン・編集・結髪・スクリプターなど様々な分野で女性が活躍した作品を取り上げる。

無声映画期から1960年代まで

従来の日本の製作現場では男性が圧倒的多数を占めており、スタッフとして貢献した女性たちの存在の多くはこれまで見過ごされてきた。 近年再評価が進んでいる、女性監督第1号の坂根田鶴子、女優から監督に進んだ田中絹代や望月優子、脚本の水木洋子や田中澄江、編集の杉原よ志、衣裳デザインの森英恵のみならず、多様な領域で手腕を発揮した女性映画人たちにスポットライトを当てる。

また、戦前の日本映画の黄金期に大手映画会社で健筆をふるった鈴木紀子(1909-1985)を中心として、戦前の女性脚本家の小特集も行う。

画像: お父さんの歌時計

お父さんの歌時計

本企画は、Part 1として、無声映画期から1960年代以前にキャリアを開始した女性映画人80名以上が参加した作品を対象に、劇映画からドキュメンタリーまで、計81作品(44プログラム)を上映する大規模な特集上映となる。

▼無声映画期から戦後にかけての女性脚本家たちの活躍

戦後には文芸映画を中心に女性脚本家の活躍が目立ったが、無声映画期には幅広いジャンルで女性たちが執筆しており、剣戟時代劇を多作した林義子や社喜久江、松竹蒲田で母ものや少女ものに携わった水島あやめを取り上げる。また、無声映画期から戦中にかけて活躍した鈴木紀子は、『チョコレートと兵隊』(1938、佐藤武)や『花つみ日記』(1939、石田民三)などの秀作を手がけた。そして、戦後にデビューした水木洋子、田中澄江、橋田壽賀子、楠田芳子、和田夏十らが個性豊かな作品群を送り出した。

画像: キクとイサム

キクとイサム

▼戦前から専門職として確立されていた結髪やスクリプターに注目

無声映画期には、撮影所に女優が誕生するよりも先に結髪部の女性スタッフが定着していた。増淵いよのと伊奈もとは、1917年から日活向島で女形の結髪を手がけて以来、戦後にかけて活躍した。また、製作現場での記録を担当するスクリプターは女性採用がある限られた職種だったが、戦前から女性が主力の専門職として確立され、40年以上の長いキャリアを歩んだケースや、スクリプターを出発点に監督やプロデューサーなどへ進んだケースもあった。
日本の女性スクリプター第1号と推定される坂井羊子はじめ、戦前からの草分けである三森逸子、鈴木伸、藤本文枝、城田孝子から、戦後にデビューした中尾壽美子、秋山みよ、宮本衣子、野上照代、白鳥あかね、梶山弘子、高岩禮子まで、日本映画黄金期の多大な貢献に光を当てる。

▼文化・記録・教育映画で手腕を発揮した女性監督たち

戦前より先駆的活動をした脚本家の厚木たか以降、文化・記録・教育映画の発展を背景として1950年代から女性監督たちが実績を上げていた。科学映画で定評のあった中村麟子、岩波映画でデビューして活躍した時枝俊江と羽田澄子、教育映画の西本祥子、PR映画なども含め幅広く手がけたかんけまり、人形アニメーションの神保まつえ、さらに1960年代に監督デビューした藤原智子と渋谷昶子を取り上げる。

画像: 猫の散歩

猫の散歩

上映作品
<先駆的な歩み>
婦系図 1934
江戸子守唄 1930
雁來紅かりそめのくちべに 1934
浪華悲歌 1936 溝
開拓の花嫁 1943
美はしき出發 1939
第十回 芸術祭 1955
岩尾内ダム その建設の記録 ―第二部建設篇―1969
<《小特集》 鈴木紀子と戦前の女性脚本家たち>
宮本武藏[部分] 1929
親 1929
辻占賣の少女 1933
母の微笑[部分] 1934
お父さんの歌時計[無声短縮版] 1937
銃後 1938
チョコレートと兵隊 1938
花つみ日記 1939
幼き者の旗 1939
母を讃へる歌 1939
女學生記 1941
わたし達はこんなに働いてゐる 1945
<脚本家>
キクとイサム 1959
乳房よ永遠なれ 1955
姉妹きょうだい 1953
夕やけ雲 1956
木内克とその作品 1972
黒い十人の女 1961
お染久松 そよ風日傘 1959
<製作者>
狂った果実 1956
人間の壁 1959
<美術監督>
愛情の都 1958
<編集者>
女性の勝利 1946
胸より胸に 1955
女の防波堤 1958
のれんと花嫁 1961
女探偵物語 女性SOS 1958
妖星ゴラス 1962
<スクリプター>
明日を創る人々 1946
真人間 1940
野口英世の少年時代 1956
宗方姉妹 1950
忘れられた子等 1949
おなじ太陽の下で 1962
結婚する娘へ ―父の愛 1971
母なれば女なれば 1952
地獄門[デジタル復元版] 1953
夕日と拳銃 1956
才女気質 1959
蜘蛛巣城 1957
ギターを持った渡り鳥 1959
独立機関銃隊未だ射撃中 1963
五番町夕霧楼 1963
<文化・記録・教育映画>
或る保姆の記録 1942
少女たちの発言 1948
新しい歌声 1950
産業科学映画大系 化学せんい 1951
小さな芽ばえ 1958
明治の絵画 1968
五島列島の若者組 1986
理科映画大系 ころと車 1956
理科映画大系 雨水のゆくえ 1959
町の政治 べんきょうするお母さん 1957
絵図に偲ぶ江戸のくらし ―吉左衛門さんと町の人々― 1977
光った水とろうよ ―幼児の知的好奇心をさぐる― 1979
村の婦人学級 1957
女たちの証言 ―「労働運動のなかの先駆的女性たち」― 1996
友だちのできない子 1957
8ミリと教室 1958
ガジュマルは生きている―沖縄小笠原の返還をめざして― 1965
鳴らせ自由の号笛 ─人権と民主主義を守るたたかい─ 1975
花と昆虫 1956
受胎の神秘 1958
猫の散歩 1962
冬の日 ごごのこと 1964
オランウータンの知恵 1960
挑戦 1963
わが映画人生 藤原智子監督 2007
アニメーション グリム童話より くつやとこびと 1960
アニメーション もりのおんがくたい グリム童話より 1960
アニメーション ジャータカものがたり しろいぞう 1962
アニメーション セロひきのゴーシュ 1963
アニメーション 泣いた赤おに 1964

企画名:日本の女性映画人(1)――無声映画期から1960年代まで
(英題: Women Who Made Japanese Cinema [Part 1]: From the Silent Era to the 1960s)
会期:2023年2月7日(火)-3月26日(日)(休映日:月曜日および3月18日(土))
会場:国立映画アーカイブ 小ホール[地下1階]
主催:国立映画アーカイブ
協力:協同組合 日本映画・テレビスクリプター協会

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