気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な時代の「良い日」に生きる人間の物語を「映画」で伝えていく『YOIHI PROJECT』がスタートする。

気候変動や地球環境の危機が叫ばれている今、100年後の未来の子孫に映画を楽しむ「良い日」が訪れることを願ってエンターテイメントの力でアクションを起こす。発起人は日本を代表する映画美術監督・原田満生。名だたる映画監督とタッグを組み、数々の賞を受賞してきた美術監督が志を持ったものづくりで次世代にメッセージを伝えていく。それに賛同した日本映画界気鋭のクリエイター、俳優たちが集結。地球環境を守るために考えたい課題を、様々な時代や地域に生きる人間を描くことで誰もが共感できる物語として伝えていく。

記念すべき第1作目は阪本順治監督、黒木華、寛一郎、池松壮亮出演『せかいのおきく』(2023年4月28日全国公開)。江戸時代のサーキュラーバイオエコノミーを題材にした、観るものすべてを、愛おしいほどのぬくもりで包み込む、至福のヒューマン・ストーリー。

画像: 『せかいのおきく』 ©2023 FANTASIA

『せかいのおきく』 ©2023 FANTASIA

今後、飯嶋和一原作の同名小説『プロミスト・ランド』の映画化(2024年公開予定)のほか、三重県南伊勢町の炭焼き職人、山形県庄内地方のマタギを追ったドキュメンタリー映画2本の制作を予定している。

そして、『YOIHI PROJECT』は映画人と自然科学研究者が連携してアカデミックな観点を作品制作、プロジェクト活動に反映していくユニークな取り組み。世界のサーキュラーエコノミー、バイオエコノミーの研究者たちとネットワークを持つ藤島義之をテクノロジー・イノベーション・ディレクターに迎え、さらに東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻教授で東京大学にOne Earth Guardians(地球医)育成プログラムを立ち上げた五十嵐圭日子がプロジェクト・フェローを務め、ドイツ、イギリス、フィンランド、アメリカなど世界トップレベルの自然科学研究者たちと連携し、世界の潮流を捉えながらプロジェクトに反映させていく。また、映画制作を通して地域創生に繋がる活動を支援したり、将来的には教育・体験プログラムを実施していく予定。

映画美術監督/YOIHI PROJECT 代表 原田満生

世界が一斉にサーキュラーバイオエコノミーに舵を切ってる姿を目の当たりにして、ごく普通に生活を送る我々には、実際に、何をどう変えなければならないのかもわからない。ましてや、その行動がどのように私たちを幸せにするのかを想像できないのが現実です。
『YOIHI PROJECT』が創りたいものは、バイオエコノミー、サーキュラーエコノミー、サステナブル、 SDGs、などの様々な環境問題に触れながら、人間を描いた映画を創ること。その映画やプロジェクトが起点となって、環境問題に興味をもってもらい、考える時間が生まれることを目指します。私たちの映画を通じて、メッセージや宝物を次世代に伝えていく。それを受けたひとりひとりが、自発的に知識を育み、さらなる次世代へ継承するような土壌を創っていく。
100年後の子孫が、『YOIHI PROJECT』が創った『映画』を観て何を想うか?それを想像しただけでもワクワクする。
『YOIHI PROJECT』は志のある映画を創り、人々に伝えていく革命です。
私たちは一つになって未来に繋げていきます。

阪本順治(『せかいのおきく』監督)

気候変動による災害、戦争を終わらせられない指導者たち、真っ先に死んでゆくのは、なんら世界経済の恩恵を受けないひとたち。消費されるのは、モノだけではなく、社会の底辺でうごめくひとびとの人格。これまで、その底辺から世の中を見据え、低い地平から社会を描こうとした映画は多々あったが、今回、私はさらに視線を下げ、違った方角から社会を観てみようと想った。
云い方を替えると、〝汚い〟ところから社会を観る、そんな試みだ。はるか以前の日本における食のサイクルを基軸として、没落した武家の娘と、糞尿の処理に携わる賤民たちを主人公に、その青春を、軽妙に描きたいと想った。その軽妙さこそが、庶民のたくましさであり、本音でもあり、自尊心を誰にも奪われてなるまいとする彼らの抵抗だ。そして、現代社会への痛烈な皮肉だ。
『YOIHI PROJECT』で『せかいのおきく』を作ったことは、私自身への自戒ともいえる。

藤島義之(YOIHI PROJECTテクノロジー・イノベーション・ディレクター)

産業革命以降の化石資源の恩恵で我々は重労働から解放され、豊かな生活を送れております。しかしながら化石資源の過剰な使用によって、食料が満たされ、プラスチックや化学繊維の処理が追い付かないほどあふれています。また、気候変動ガスが毎年増え続けています。
でも、日本は1970年代のオイルショックを機に、化石資源への依存から脱却するための研究開発を産官学でやってきました。しかしながら経済活動は世界からすると異端であり、経済活動としては主流になりえませんでした。
欧米の多くの国とは異なり、日本は自然との共生を古来からの価値としている国民だと思います。気候変動課題やサステナビリティに経済活動を移さなければと気づいた今が、全世界の人の目を日本の文化に向ける時期が来たと思います。
開国前の日本はすべてを循環させ人々を生かさせる、江戸時代の日本の人口3千万を超え、江戸だけでも100万人が暮らしていたといいます。その頃の江戸ができていたなら今の日本ならもっと優れた社会が作れるのではないでしょうか?そんな気付きを『せかいのおきく』や『YOIHI PROJECT』で可視化してゆければと思います。

五十嵐圭日子(YOIHI PROJECTプロジェクト・フェロー)

バイオエコノミーに関する情報が日本に届き始めたとき、多くの人が自分たちには関係ない話だと思っていました。「生物圏に優しい(負荷をかけない)経済活動」と捉えてもっと多くの人が取り組むべきだと言い続けてきましたが、そのような中で日本でもSDGsが浸透しはじめ、国として脱炭素社会(カーボンニュートラル)に向かうという決断をしました。
一方、欧州でバイオエコノミーは循環型社会を意味するサーキュラーエコノミーと合流して「サーキュラーバイオエコノミー」にアップグレードし、最近ではウェルビーイングや生物多様性とも同時に語られるようになっています。これら全ての根本にあるのは「自然がきちんと動いていてはじめて人間は幸せに生きていくことができる」という考え方で、「ネイチャーポジティブ」という言葉に集結しようとしているのが世界潮流と言えます。
現代の日本人がこのような流れに乗り切れていないのは明らかですが、実はたった160年前の日本人の生活は、まさにサーキュラーバイオエコノミーだったという“気づき”を与えてくれるのが『せかいのおきく』であると言えます。
ご覧頂いた皆様が、幸せとは何か、自然と人間との関係を考える機会となることを祈っています。

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