アメリカン・ニューシネマの枠を超えた雄
ベトナム戦争渦中のアメリカの衝撃的実態を映し出して60年代に終わりを告げた『イージー★ライダー』(69)から2年、すでにこの国は終わっているという諦念をもって70年代という新しい時代を切り開いた映画『バニシング・ポイント』(71)。60年代末から70年代半ばにかけ、アメリカ映画界を根底から揺るがした<アメリカン・ニューシネマ>を代表する一作だ。コロラド州デンバーからサンフランシスコまでの2,000キロを不眠不休、15時間で走り切るという、スピードにすべてを賭けた男、コワルスキーの姿を、体制も反体制も超越した、乾ききった精神性で鮮烈に描く。既存の体制や文化への反抗や、現実に敗北する主人公の姿を描いた多くのニューシネマとは一線を画し、何も求めない主人公の虚無感が全篇を貫いている。そして、壮絶なカー・チェイスと高鳴るロックのなか、コワルスキーの不条理なまでの逃走劇は、観る者をかつて辿り着いたことのない次元にまで導いていく。
消失点の彼方に、地上最後の<自由の魂>が解き放たれる──。今回解禁されたメインビジュアルではそんなキャッチコピーと共に、放射状の中心点に主人公、コワルスキーが乗りこむ70年型ダッジ・チャレンジャーが据えられ、異空間/異次元への疾走を思わせる、どのジャンルにも括りがたい本作の魅力があらわれたものとなっている。
合わせて解禁となった予告編では、カー・アクション映画の頂点とも言われる理由も確認できる、スピード感溢れるものだ。コワルスキーが各地で出会うインパクトたっぷりな人々、彼を追う警官、アメリカの荒涼とした大地…。セガリーニ&ビショップの「オーヴァー・ミー」と、コワルスキーと精神的感応を繰り広げる人物、DJスーパー・ソウルの実況にのせて次々と印象的なシーンが映し出され、最後にはコワルスキーの意味深な微笑みと、勢いよく走り続けるダッジ・チャレンジャーで締め括られる。
カー・チェイスとアクション、ロックンロールと、まるで<メビウスの輪>のような円環的構造が混じり合う、鮮烈かつ孤高の作品『バニシング・ポイント』。約半世紀ぶりのスクリーンへの帰還は、本作に新たな解釈と評価をもたらす、千載一遇の機会になるはずだ。
●ものがたり
ベトナム戦争で名誉勲章、元バイクレーサー、元ストックカーレースドライバー、警官を懲戒免職処分となり、いまは車の陸送を生業にするコワルスキー(バリー・ニューマン)は、デンバーから1200 マイル離れた西海岸サンフランシスコまで、白の70 年型ダッジ・チャレンジャーを15 時間で届ける賭けをした。交通法規を無視して爆走するコワルスキーを追って各州警察が追跡を続ける中、警察無線を傍受した盲目の黒人DJスーパー・ソウル(クリーヴォン・リトル)がその様子をラジオで実況中継を開始。死の恐怖もいとわず、憑かれたようにハンドルを握るコワルスキーは、大勢の野次馬やメディアが押し寄せる中、ブルドーザー2台によって道路封鎖されたバニシング・ポイント<消失点>に向かい、アクセルを踏み込んでいく・・・。
〇出演:バリー・ニューマン、クリーヴォン・リトル、ディーン・ジャガー、ヴィクトリア・メドリン、ポール・コスロ、ギルダ・テクスター、デラニー&ボニー&フレンズ、アンソニー・ジェイムス、セヴァーン・ダーデン、ジョン・エイモス
〇監督:リチャード・C・サラフィアン 製作:ノーマン・スペンサー 原案:マルコム・ハート 脚本:ギレルモ・ケイン(ギリェルモ・カブレラ=インファンテ)
撮影:ジョン・A・アロンゾ テーマ曲「バニシング・ポイント」“Nobody Knows”byキム&デイヴ 編集:ステファン・アルンステン スタント・コーディネーター:キャリー・ロフティン、ルー・イライアス
【1971年|アメリカ映画|カラー|99分|ビスタサイズ|モノラル|4KDCP|キューピッド・プロダクション+20世紀フォックス作品|原題:VANISHING POINT|米国公開:1971年3月13日|日本公開:1971年7月17日】
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