約40年にわたってハリウッドを中心に映画記者活動を続けている筆者が、その期間にインタビューしたスターは星の数。現在の大スターも駆け出しのころから知り合いというわけです。ということで、普段はなかなか知ることのできないビッグスターの昔と今の素顔を語ってもらう興味津々のコーナーです。今回は、ヒュー・ジャックマンについて。彼の慈悲深い優しさがわかるエピソードや、『The Son/息子』撮影時の心境など盛りだくさんの内容です。(文・成田陽子/デジタル編集・スクリーン編集部)

成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

初めて会ったとき目の前でミュージカルのパフォーマンスを披露してくれた

ヒュー・ジャックマンほど、スターぶらず、心の優しい俳優はまず居ないだろう。もう25回ぐらい会っているが、始終ニコニコして、たっぷりの時間を割いてくれるどころか、もっと聞きたいことある? なんて心配までしてくれる。

例えばギリシャのアテネのレストランで偶然会った時、家族との時間がもっと大事であろうに私達と30分ぐらい歓談してしまうし、ロンドンのスタジオでこれ又ばったり出くわした時もドーランのメークで汚さないようにティッシュペーパーを襟に巻いたまま、懐かしそうに近況などを聞いてくるという、ほとんど過剰な優しさを見せてくれた。

画像1: 筆者とヒュー

筆者とヒュー

ヒューに初めて会った時、突然、麗しい声でミュージカル「オクラホマ!」の「オー、ホワット・ア・ビューティフル・モーニング!」を歌いだしたのである。テーブルに片足を乗せ、身振りも表情も舞台の上のように華麗で、敏捷で、それはそれは素敵な即興のパーフォーマンスだった。「素晴らしい朝だったから心と体の中から湧き上がってきたんだ」

ぱちぱちという拍手に応えてヒューは嬉しそうに深々とお辞儀をしていた。

画像: 1999年ころのヒュー Photo by GettyImages

1999年ころのヒュー

Photo by GettyImages

彼の国際的ブレークは1998年ロンドンでの「オクラホマ!」の舞台だった。そして初めてのオリヴィエ賞の候補になった記念すべき役だったために、以来この歌が喜びと共に体中から溢れ出てくるに違いない。

1968年10月12日、豪州はシドニー生まれだが、両親が英国人のため生まれた時から英国とオーストラリアの国籍を持っている。1996年にテレビで共演した13歳年上のデボラ=リー・ファーネスと結婚、2度の流産を経て、二人の子供を養子に迎えている。オスカーという息子は黒人とのハーフで現在22歳、アヴァという娘はメキシコ人のハーフで17歳、「ブロンドで青い目の子供たちはすぐに養子先が見つかる。だから僕たちは時間がかかる子供たちを選んだのだよ」とここでも慈悲深い優しさを見せていた。

『The Son/息子』の撮影中に実父を亡くし今までにない感情を味わった

画像2: 筆者とヒュー

筆者とヒュー

そして新作『The Son/息子』(2022)では二人の子供を持つヒューならではの究極の役作りを見せている。

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「今までで一番苦しんだ映画だった。まず撮影中に父が亡くなり、自分が息子として何をしてあげたのだろうと悩み、同時に、自分の子供達へ親として何が出来るのかと疑問が湧き上がって、仕事に行くのが恐怖に感じることもあった。こんな感情に見舞われるのは初めてで、僕自身の脆弱さを痛感したね。子供たちと人生について会話せねば、と思うのだが、そういう行動が子供たちに重荷になるのでは、と気がかりだった。」

「しかし、敢えて子供たちに近づいてみたら結構簡単に深いコミュニケーションを交わすことが出来て、やっぱり、子供たちが僕をよりスマートにしてくれるのだなあと気がついたのだよ。子供を持って本当にラッキーだった。」

「僕の父親を演じるアンソニー・ホプキンスは前々年に『ファーザー』(2020)という映画でオスカーを受賞している。彼との会話も親としての責任はもちろんだが、子供たちとの交流を図ることが大事だという結論に達してね。父を亡くした時だっただけにアンソニーとの共演は感情的にならざるを得なかった。」

さてお次は大の仲良しのライアン・レイノルズのたっての頼みで『デッドプール3』にウルヴァリンの役で登場する。

「もうウルヴァリンは卒業したと決めていたのだがライアンの情熱に押し切られた。再び、ミュータントの肉体を作るために連日トレーニングとダイエットに励んでいる。ハードだが、自分をしごくのはそれなりに満足感を味わえるからね。」

と188センチ、82キロのヒューはとびきり誇らしげであった。

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