先⽇ヒューマントラストシネマ渋⾕、シネ・リーブル梅⽥にて開催、現在も全国順次上映中の【ジ
ャン・ユスターシュ映画祭】。この度2023年10月6日〜10月14日、10月17日〜10月22日に東京⽇仏学院で開催する第⼆弾【ジャン・ユスターシュ映画祭 パート2】の上映作品が解禁になった。

現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールからも強⼒な⽀持を得た伝説的な監督、ジャン・ユスターシュ。映画史に残る傑作『ママと娼婦』で⼀躍時代の寵児となるも、2 本の⻑編とわずかな中・短編を⼿掛けただけで、42 歳にして拳銃⾃殺を遂げる。
そんな<呪われた映像作家>とも⾔われるユスターシュ監督の、4Kデジタルリマスター化された作品群は昨年から今年にかけてパリ、ニューヨーク、そして⽇本と世界各地で順次上映中。今回東京⽇仏学院で開催される【ジャン・ユスターシュ映画祭 パート2】は、先頃の映画祭で上映した代表作『ママと娼婦』をはじめとする傑作の他、彼のもうひとつの顔であったドキュメンタリー作家としての魅⼒も堪能できるラインナップだ。
新たに加わった上映作品は、彼の⽣誕地でおこなわれているある⾏事を記録した『ペサックの薔薇の⼄⼥』&『ペサックの薔薇の⼄⼥'79』、豚の屠畜をテーマにした衝撃の実験的映画『豚』、⾃らの祖⺟の姿を映し出すある種の<家族映画>『ナンバー・ゼロ』、公開時には物議を醸した問題作『不愉快な話』、息⼦のボリス・ユスターシュも姿を⾒せる短編『アリックスの写真』。現実と虚構、映像と⾳の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群はいずれも無⽐で、凄絶なまでの迫⼒を放っている。世界の映画ファンが時を超えて注⽬する、永遠にスキャンダラスで、鮮烈なジャン・ユスターシュの作品群。その全貌に触れる機会が待たれる。

▪本映画祭内で初上映作品▪

{1}ペサックの薔薇の⼄⼥   La Rosière de Pessac
1968年 / フランス / ⽩⿊ / 65分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:フィリップ・デオディエール、ジーン=イヴ・コイツ、ダニエル・カルド
{2}ペサックの薔薇の⼄⼥'79   La Rosière de Pessac 79
1979年 / フランス / ⽩⿊ / 70分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ、フランソワーズ・ルブラン

画像1: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

ユスターシュが⽣まれた村で古来おこなわれている、地元出⾝の「薔薇の⼄⼥」(品⾏⽅正な⽣娘)を選出するという⾏事を⽩⿊撮影で記録した作品。⾒⽅によっては時代錯誤も甚だしく映る⾏事を、批評的視点や倫理的判断を⼀切交えることなく、敬意を払いつつありのままに描き出そうと試みる。それからおよそ11 年後、ユスターシュは同じ⾏事をカラー撮影で記録し、⼆本の映画を通して時間のなかで変わっていくものと変わらないものの双⽅をとらえた。

豚  Le Cochon (『不愉快な話』と併映)
1970年 / フランス / ⽩⿊ / 52分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ、ジャン=ミシェル・バルジョル
撮影:ルナン・ポレ、フィリップ・テオディエール

画像2: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

早朝、ある⽥舎屋に集まった男たちは、⼀匹の豚を引っ張ってきて…。本作の主題である豚の屠畜はユスターシュ世界の映画ファンを熱狂させ続ける伝説的映画監督その全貌に迫る、
⾃⾝の思い出ではなく、共同監督のジャン゠ミシェル・バルジョル(マルセイユ出⾝のドキュメンタリー映画監督)が⼦どもの頃にアルデシュ県で何度か⽬にしたそれに由来するもの。それぞれが撮りたい被写体を⾃分の撮りたいように撮影した本作には、⺠俗学映画としての性質と実験映画としての性質が備わることになった。

ナンバー・ゼロ   Numéro zero (『アリックスの写真』と併映)
1971年 / フランス / ⽩⿊ / 101分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:フィリップ・デオディエール、アドルフォ・アリエタ
出演:オデット・ロベール、ジャン・ユスターシュ、ボリス・ユスターシュ

画像3: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

当時鬱状態に陥り、もう映画を作ることができないのではないかと気に病んでいたユスターシュに、『豚』の共同監督ジャン゠ミシェル・バルジョルが⼀族の誰かを主題にして映画を撮ってみては、との提案をしたことが本作実現のきっかけとなった。彼が主題に選んだのは祖⺟オデット・ロベール。「プロの映画作家の映画であると同時に、浜辺で撮られたアマチュア⼋ミリ映画のような家族映画」でもある「どこか両⽴しがたいもの」(ユスターシュ)を抱えた映画が誕⽣した。

不愉快な話  Une sale histoire (『豚』と併映)
① 1977年 / フランス / カラー / 28分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:ジャックス・ルナール
出演:マイケル・ロンズデール、ジャン・ドゥーシェ、デューチュカ、ラウラ・ファニング、ジョゼ・ヤンヌ、
ジャックス・バルロー
② 1977年 / フランス / カラー / 22分
© Les Films du Losange
出演:ジャン=ノエル・ピック、エリザベス・ランシュナー、フランソワーズ・ルブラン、ヴィルジニー・テヴネ、アネット・ワデマント

画像4: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

ユスターシュの友⼈、ジャン゠ノエル・ピックがある猥褻で、不潔で、不愉快な<体験談>を⾃⾝の周囲に座る⼈々に語って聞かせるという本作は、公開時には「⼥性が好まない映画」との注意書きが添えられたというし、マスコミからも怒りや当惑の声が寄せられたとのこと。映画は⼆部構成のかたちをとっており、第⼀部がフィクション、第⼆部がドキュメンタリーの体裁で、記録と虚構、現実とその複製、あるいは実⼈⽣と映画の絶え間ない相克を思わせる。

アリックスの写真   Les Photos dʼAlix (『ナンバー・ゼロ』と併映)
1981年 / フランス / カラー / 19分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:ロベール・アラズラキ、カロリーヌ・シャンプティエ
出演:アリックス・クレオ・ルーボー、ボリス・ユスターシュ

画像5: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

ユスターシュの友⼈、アリックス・クレオ・ルーボーが⾃ら撮影した写真を、次から次へと息⼦のボリス・ユスターシュに⽰しながら、それにコメントを加えていく。映像(視覚芸術)と⾳(それを語ることば)の関係、映像と現実のずれに焦点を当てた短編映画。写真家・⽂筆家として活動したアリックスだが1983年、肺⾎栓塞栓症により31歳の若さで亡くなった。

▪他の上映作▪

わるい仲間 Du côté de Robinson (『サンタクロースの眼は⻘い』と併映)
1963年/フランス/⽩⿊/39分
© Les Films du Losange
脚本・編集:ジャン・ユスターシュ
撮影:ミシェル・H・ロベール、フィリップ・テオディエール
出演:アリスティド・ドメニコ、ダニエル・バール、ドミニク・ジェール

画像6: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

主⼈公はタフガイ気取りで品位を⽋く、⾃堕落な⽣活を送る若者⼆⼈組だ。彼らは街をぶらぶらするうちに知り合った⼥性を⼝説こうとするが、なびいてこないので腹いせに彼⼥の財布を盗む。ヌーヴェル・ヴァーグ映画的な街なかでのゲリラ撮影を活⽤しながらも、ここでのパリは⽣きづらい寒々しく退屈な街へと変貌しており、登場⼈物の「リアルな」描出ともども新世代作家の台頭を印象づける。

サンタクロースの眼は⻘い Le Père Noël a les yeux bleus (『わるい仲間』と併映)
1966年/フランス/⽩⿊/47分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:フィリップ・テオディエール
出演:ジャン゠ピエール・レオー、ジェラール・ジメルマン、ルネ・ジルソン

画像7: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

舞台はクリスマス・シーズンの仏南⻄部ナルボンヌ。貧しい⻘年ダニエルは、モテるためのダッフルコート欲しさにサンタクロースの扮装をして、写真撮影のモデルを務める仕事を引き受ける。やがて彼は、変装した⽅がナンパに好都合であることに気づくが……ヴォイスオーヴァーを活⽤して定職のない若者の冴えない⽇々を描きつつ、やがて彼の滑稽な⽇常が悲哀へと、期待が幻滅へと転調する語り⼝が絶妙。ナルボンヌ⽣まれの国⺠的歌⼿シャルル・トレネに捧げられている。

ママと娼婦  La Maman et la putain
1973年/フランス/⽩⿊/215分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:ピエール・ロム、ジャック・ルナール、ミシェル・セネ
出演:ベルナデット・ラフォン、ジャン゠ピエール・レオー、フランソワーズ・ルブラン

画像8: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

72年のパリを舞台に、五⽉⾰命の記憶を引きずる無職の若者アレクサンドルと彼の年上の恋⼈マリー、前者がカフェで知り合った性に奔放な20代の看護師ヴェロニカの奇妙な三⾓関係を描く、ユスターシュ初の⻑編映画。完成作はカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを獲得。男⼥の性的関係が台詞も含めて⾚裸々に描かれた本作はスキャンダルをも巻き起こしたが、今や映画史上の傑作の⼀本として不動の地位を築いている。

ぼくの⼩さな恋⼈たち  Mes petites amoureuses
1974年/フランス/カラー/123分
© Les Films du Losange
脚本:ジャン・ユスターシュ
撮影:ネストール・アルメンドロス
出演:マルタン・ローブ、イングリット・カーフェン、ジャクリーヌ・デュフレンヌ

画像9: 現実と虚構、映像と音の関係性、そして<映画>そのものを問いかける作品群

作家によれば、「⾃分の映画はどれも最初から社会ののけ者の中に⾝を置く」⼀⽅、本作だけは「ある⼦どもの、普通の⽣活から脱落者の境遇への移⾏」を描いている。主題の⼀つは、聖体拝領の⽇に初めて異性を意識した経験に始まる、主⼈公ダニエルの性的な成⻑だ。半ば様式的な演出が施されたこの寡黙な映画は、繊細なカラー撮影と相まってユスターシュ作品中例外的な輝きを放ち続けている。

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