成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
初めて会った時はベテラン俳優を横に堂々とした振る舞いを
今年59歳のラッセル・クロウが最近衝撃のコメントを吐いている。
「鏡に映った自分にショックを受けてしまった! もう40年も俳優をして来てそろそろ引退しようかな」
そう言いながらも「親友のリドリー・スコット(監督)は85歳だというのにまだまだ猛烈なチャージで映画作りと取り組んでいるから、彼のようなやる気を取り戻せたら良いのだがね」とコメントしているから、未知の冒険を味わう作品に巡り合ったら平然と参加するに違いないと思いたい。
新作『ヴァチカンのエクソシスト』(2023)でも
「クロウの風雪を経た存在感と役作りを楽しんでいる感じがこの映画の一番のプラス。わざわざ才能を見せる必要もなくなって、それが彼の役にリアルな重量感を与えている」
と称賛されているから、これからも自分が何を喋ったかをケロリと忘れて、飄々とスクリーンに登場してくれるだろう。
彼自身は新しい恋人、ブリトニー・セリオット(元女優、米国の不動産エージェント、33歳)とウキウキとテニスをしたり、欧州旅行をしたり、26歳の年の差など全く気にせず、その上、豪州のコフス港(ニューサウスウェールズにある彼の自宅のそばだそうだ)に4億ドルの予算で「オージーウッド」と言うスタジオ兼アミューズメントセンターを設立するプロセスに忙しく立ち回っている。
初めてラッセルに会ったのはほとんど30年前! 『人生は上々だ!』(1994、日本未公開)という、オーストラリアの映画で彼がゲイの息子を演じ、父親をジャック・トンプソンが演じた時、シドニー映画祭で会ったのである。
荒削りな魅力というのか、野性的というのか、エネルギーの固まりで、ばねが仕掛けられたような動作と深いところで反響するような太くて、ソフトな声が妙に洗練されているというユニークな魅力の持ち主だった。
「『マーロン・ブランドのようになりたい!』という歌を唱って、これが結構ヒットして歌手になる筈だったが、やはり俳優になりたくてね。それも見終わってから口論が始まるような内容の作品だ。
この映画は息子の性的嗜好を巡って家族がそれぞれの意見を交わすだろうし、僕がネオナチの若者を演じた『ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印』(1992、日本未公開)ではオーストラリア中が朝食を食べながら、人種差別や移民問題について話し、ポジテイブな反響を博したのだよ。
大事なのはドラマにエンターテイメントの力があって、そこから観客が引きずり込まれて行くことで、スローガンなど叫んでいるだけでは駄目だね」
などと温厚なベテラン俳優のトンプソンの横で、一端のコメントを連発していた。
大学に行かなかった分、好奇心旺盛で役のリサーチするのが大好き
それにしてもラッセル・クロウとキアヌ・リーヴスが同い年の今年59歳、ブラッド・ピットが約半年歳上(今年60歳)、というオドロキ!
何てったって、ラッセルは数10年前から50歳の風格と貫禄を備えていて、もうとっくの昔、『インサイダー』(1999)の時から中年風だったのだから。
ついこの間会ったキアヌは相変わらず、宇宙の何処かを彷徨っている年齢不詳者だったしブラピは相変わらず、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)のように、年々若くなって、ハリウッドの七不思議と囁かれている。
ある時ラッセルはあの低い声で、世界中をやっつけるパワーを身に付けたいと話していた。
「僕は大学に行けなかった劣等感があるから、その分向学心と好奇心は凄いんだよ。役を得る度に、何から何まで調べて、リサーチするのが大好きだ。だから映画の度に知識が増えて、僕の頭の中は大英辞典に近づきつつあるのだよ」
怖いもの無しのような言動が嬉しくなるようなラッセルの次の作品は『クレイヴン・ザ・ハンター』(近日公開予定)というマーベルのアクション作でアーロン・テイラー=ジョンソンと共演する。