今回コメントを寄稿したのは、以下敬称略で、小島秀夫(ゲームクリエイター)、北村紗衣(評論家/イギリス文学者)、青井邦夫 (イラストレーター&ムービーウェポンアナリスト)、樋口真嗣(映画監督)、宇多丸 (RHYMESTER)、宇垣美里(アナウンサー)、こがけん(芸人)、RaMu(グラビアアイドル)、酒井俊之(ライター/評論家)、金井洋介 (FIGARO編集者)という、錚々たるメンバー。誰がどの作品を推薦しているのか、詳細は下記をチェック!
『女王陛下の007』
僕の中での“ジェームズ・ボンド”役といえば、ショーン・コネリー。リアルタイムの“ボンド”ならロジャー・ムーア。21世紀の”ボンド”であるダニエル・クレイグも好きだ。ただ“ボンド映画”のベスト1を選ぶならジョージ・レーゼンビーの「女王陛下の007」だ。ひとりの女性を真摯に愛した人間”ジェームズ“を描くラブロマンス。アルプスを舞台にした壮大なロケーション、スピード感溢れる滑走アクション、異例の歌詞無しのメインテーマ曲!どれもが高いレベルで結実した傑作!
小島秀夫 ゲームクリエイター
『スカイフォール』
007なんて冷戦の遺物でしょ、興味ない…と思っているあなたに、騙されたと思って見てほしい映画です。私はダニエル・クレイグ以前のボンド映画をほぼ見たことがありませんでしたが、外側の輝きの下に大きな孤独を抱えたクレイグのジェームズ・ボンドはとても現代的だと思いました。これまでのボンド同様、クレイグのボンドは男社会の価値観に順応して成功していますが、一方でその生き方になんとも言えない不安をも抱えているように見えます。スーツでビシっとキメている時から裸で泳いでいる時まで、人前ではボンドは完璧であろうとしていますが、女性や親しい相手の前では驚くほど繊細になります。『スカイフォール』でMやQといる時のボンドからは、こうした不安や優しさが漏れ出ています。このギャップが女性観客を惹きつけました。クレイグのボンドは、初めて男性の憧れの対象というよりは女性の欲望の対象として撮られたボンドではないかと思います。
北村紗衣 評論家/イギリス文学者
『リビング・デイライツ』
2作品のみの発表となったティモシー・ダルトンのボンドだが、RADA(王立演劇学校)で学んだだけあってボンド俳優の中でも随一の演技派。ボンドを演じるための答えはイアン・フレミングの小説の中にこそあると原作をすべて読みこんで演技プランを立てたという。そのため歴代ボンドの中でももっとも原作に近いと言われる。原作に忠実であることがすべてだとは思わないが、原作小説を愛する者の間では評価の高いのがダルトン=ボンドなのだ。そして銃器の扱いが上手いのもダルトン=ボンドの特徴だ。果たして彼自身が銃器の趣味があるのか、それとも銃器のプロの仕草を観察して持ち前の演技力で再現したのかは定かではないが、ワルサーWA2000スナイパー・ライフルの弾倉に被甲弾を装填し薬室に送り込んだり、全弾撃ち尽くしたワルサーPPKを慣れた手付きでマガジンを抜いてスライドをもとに戻す一連の動作はガンマニアが見ても惚れ惚れしてしまう。
青井邦夫 ライター/イラストレーター
『007は二度死ぬ』
まだ、洋画と邦画という境界線が曖昧にしか捉られない年齢のころだった。
だから、007ことジェームズ・ボンド演じるはショーン・コネリーが日本を舞台に大活躍するというイベントがどんなにとんでもない事なのか、理解できていなかったはずだけど、こういうスケールのお祭りが2度と日本にやって来なかったことを考えても奇跡のような一本だったのかもしれない。そこに描かれた日本はまさに東洋の真珠。今ではどこにも残っていないユートピア。そのほとんどが事実誤認や拡大解釈かもしれないが、映画的な外連として今となってはめくじらを立てる方が大人気ないではないか。地下鉄丸の内線で秘密オフィスに向かう忍者の頭領、丹波哲郎。夜の東京を疾走するオープントップのトヨタ2000GT。火山の火口部に偽装した基地に逆噴射で帰還する国際陰謀団の大型宇宙船。そして若林映子と浜美枝がボンドガール。怪獣こそ出てこないが、怪獣映画のような華やかさに満ちたショウだったのだ。
樋口真嗣 映画
『私を愛したスパイ』
ショーン・コネリーの影をついに振り払い、ロジャー・ムーアならではのゴージャスにして軽快な新時代のボンド像を決定的に確立してみせた、シリーズ全体にとっても記念碑的な一作! まず、オープニングが素晴らしい。激しいスキーアクションからの、意表を突くスカイダイビング。ユニオンジャック柄のパラシュートが(“愛国心”を戯画化するかの如く)パッと開くと……それを優しく受け止めるかのように重なる、女性の手のシルエット。名曲『Nobody Does It Better』が流れ出す中、お馴染みモーリス・ビンダーによる、冷戦対立をセクシャルにデザインした極上のタイトル・シークエンスが、画面一杯に展開されてゆく……その見事なリズムと、アダルトなユーモアセンス! 新ボンドカー=ロータスエスプリやジョーズのポップさも、ムーア=ボンドには良く似合う。後年のシリアス路線とは対照的な、007映画のひとつの完成形がここにある。
ライムスター 宇多丸 ラッパー/ラジオパーソナリティ
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』
『カジノ・ロワイヤル』で新人エージェントとして登場し、『スカイフォール』にて老兵の悲哀を感じさせ、15年間、まるで観客と共に成長してきたかのようなダニエル・クレイグ版ジェームズボンド。そんなダニエル版ボンドの最終作であり、彼の演じたボンド5作品の美しき集大成となった『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。誰よりも繊細で孤独で野心的で、だからこそ人間味溢れる彼のボンドが見せた生き様は、あまりに泥臭くて優雅でカッコよくて。もう何度も見返したけれど、その度にダニエル・クレイグの演じるボンドがどれだけ好きだったかが溢れて胸がいっぱいになる。恐らくダニエル・クレイグの今の時代に合ったジェンダー観が反映されているのであろうボンドのフラットな姿勢や、彼と同じように繊細でゆらぎのあるボンドガール・マドレーヌの存在、さらに女性をはじめ様々な人種やジェンダーのキャラクターが生き生きと活躍するところも今作の見どころの一つだ。私にとっての初めてのボンドがダニエル・クレイグで本当によかった、そう思わせてくれる作品だった。
宇垣美里 女優/アナウンサー
『ロシアより愛をこめて』
007らしくない作風と称されることもありながら、巧みなシナリオと多彩な演出で作品としての完成度が高い本作。英国スーツをビシッと纏うショーン版ボンドの佇まいには、まだシリーズ2作目とは思えないほどの風格が漂う。007専用秘密兵器の記念すべき第1号が登場したのも本作だ。特製アタッシェケースというのが、いかにもという感じでグッとくる。ちなみに僕が好きなのは、ボンドが「魚料理に赤ワインを合わせるようなヤツは敵国のスパイに違いない」的な偏見を露わにするシーン。この時の、本気なのか冗談なのかも分からない飄々とした雰囲気もまた、ボンドの魅力の一つだ。そして、ロバート・ショウ演じる敵役、グラントを忘れてはならない。あらゆる場面でボンドの先回りをするやり手だが、改めて観るとダニエル・クレイグ版ボンドにそっくりではないか!もしや、あのボンドのモデルはグラントだったり!?なんて考えながら観るのも、きっと味わい深いはず。
こがけん/芸人
『ゴールデンアイ』
私は世代的にダニエル・クレイグ版007しか見たこと無かったのですが、ブロスナンのボンドはほんっっとセクシー!!最高!!ちょっとクサいところもまた良し!ダニエル・クレイグ版と比べると人間味溢れてて陽キャな感じがすごく惹かれました。ボンドガールのイザベラ・スコルプコも、どの角度でも美しすぎて画面直視出来ないよ(泣)。アクションシーンもかっこよかったり笑えたり。ボンドが戦車で爆走するシーンは本っ当に笑いました。(笑ってもいいのかな?)。かっこよくてセクシーで面白いボンドをぜひ堪能してください!今日はBARに行ってマティーニをステアではなくシェイクで頂こうかしら。
RaMu/タレント
『サンダーボール作戦』
脚本段階では映画シリーズ“第一作”となるはずだった『サンダーボール作戦』。ジェットを背負って逃げる主人公、磔と拷問、眼帯の敵、秘密会合に潜む電気椅子、サメの泳ぐプール、岩礁を走る高速船、躍動的な水中撮影、異国情緒あふれるカーニバル、刻々と迫る原爆発射のタイムリミット……。我々が憧れるアクション映画の要素が、これでもかと詰め込まれる。『ゴールドフィンガー』まででパターンを生み出した007シリーズは『サンダーボール作戦』の完成によって、まるで歌舞伎を思わせる“偉大なるマンネリズム”に到達した。劇場の巨大なスピーカーから朗々と響くトム・ジョーンズの主題歌に、心を震わせること間違いなし。
金井洋介 フィガロ編集部・編集者
『ドクター・ノオ』
1963年に日本で劇場公開された記念すべき007シリーズの第1作目『007は殺しの番号』。これがのちにタイトルが原題となった『ドクター・ノオ』である。まったくの無名だった無名に近かったショーン・コネリーをジェームズ・ボンド役に抜擢。まだ粗削りなキャラクターと映画の世界観が世界中でセンセーションを巻き起こした。国籍性別を問わず、皆がボンドの虜になった。まさにEverything Or Nothing。製作スタッフの一か八かの賭けが大きく当たったのである。フィルムに刻まれた当時の勢いや立ちのぼるような熱気、色気が4K化によって最も顕著に表出しているのは本作だと断言しても差し支えない。今に続くボンド映画の礎。4Kレストア版の美麗な魅力に劇場で愕然とすること請け合いである。
酒井俊之 映画ライター/『ノー・タイム・トゥ・ダイ』字幕版・吹替版監修
『BOND60 007 4Kレストア』 10作品ラインナップはこちら!
第1弾 9月22日(金)~
007/ゴールデンアイ GoldenEye|1995年|130分|ピアース・ブロスナン
007は二度死ぬ You Only Live Twice|1967年|117分|ショーン・コネリー
007/私を愛したスパイ The Spy Who Loved Me|1977年|125分|ロジャー・ムーア
007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love|1963年|115分|ショーン・コネリー
女王陛下の007 On Her Majesty's Secret Service 1969年|142分|ジョージ・レーゼンビー
第2弾 11月17日(金)~
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ No Time to Die|2021年|163分|ダニエル・クレイグ
007/スカイフォール Skyfall|2012年|144分|ダニエル・クレイグ
007/リビング・デイライツ The Living Daylights|1987年|131分|ティモシー・ダルトン
007/サンダーボール作戦 Thunderball|1965年|130分|ショーン・コネリー
007/ドクター・ノオ Dr. No|1962年|110分|ショーン・コネリー
※上映には4K DCPを使用いたしますが劇場の上映環境に応じ2Kで映写される場合がございます。
※一部作品はネイティブ4Kにつきレストア映像ではありません
※『スカイフォール』『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はレストア版ではありません。元来4Kでございます。
※作品の並び順は上映順ではありません。上映順は劇場ごと異なります。
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配給:REGENTS|提供:『007 4K』配給委員会